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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
07 金色と赤色
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事件解決

「――ルク、シルク!」

「!」

 ぱちり。呼び掛けに目を開けると、そこには僕と同じ緑の瞳があった。

「……なに、クラウド」

「き、気がついた……!」

 名前を呼び返すと、クラウドはその一つの目を潤ませ、僕を強く抱きしめた。

「うわっ!」

「バカ! アホ! オレの許可なしで、何勝手に食われてんだよ!!」

「痛い! ごめんって! 頭叩かないで痛い!」

「どんくさいのも大概にしろ!! この、この……っ」

 クラウドは僕をぽかぽか叩いて、ひとしきり暴言を吐いた後、肩に顔を押し付け、黙り込んでしまった。

 どうしようと思って、ふと前を見ると、さっきのお兄さんと目が合った。

「魔物が急に光りだして、消滅したんだ。何が起きたのかわからないけど……君が無事で本当によかったよ」

 お兄さんは優しい微笑みを浮かべ、そのくるくるした茶髪が揺れる。

 そうか、僕、ちゃんと魔物を倒せたんだ……。

(よかった……)

 安堵して、まだ赤く光っている宝石が巻き付いた剣を、こっそり握った。

「もうここからでよう。俺ここに閉じ込められてから、その辺にあった生卵しか食べてなくって――」

 彼がため息をつき、クラウドが僕から離れて目をぬぐった、そのときだった。


「――さっさと案内するんだ!」

「――いやだ! 僕は行きたくない!」


 そんな声が響いて、僕らは入り口の方を振り返った。

 姿を現したのは、二人の男。

「……リト? 伯爵?」

 それは、魔導師のリト・フォーレスと、噂のべリール伯爵だった。

 クラウドの声に、その二人も僕らを見つけて、こっちに近づいてきた。

 それでわかったけれど、リトは伯爵をロープで拘束して引っ張っている。

 ……一体何してるんだ。

 しかし彼らも、僕らがここにいることを疑問に思ったようで、

「クラウド?どうしてここに……」

「あれ? あの魔物は?」

 二人と、そして僕らも沈黙していた、そのときだ。


「お兄ちゃん!」

「! ハニー!」


 金髪の少女が、二人の間を通り抜け、青年に抱きついた。

 少女、ハニーはその大きな目から雫を溢れさせ、

「ああ、お兄ちゃん、ジャムお兄ちゃん……! わたし、すっごく心配したんだよ……!」

 泣きながら話すハニーに、その青年、ジャムは目に涙を浮かべ、その妹を抱き締め返した。

「ごめんよ、ハニー。ごめんよ」

「ちゃんとお父さんと、お話しして。もう家出、しないで……」

「うん、うん。わかった。ちゃんと仲直りするよ」

 兄妹は抱きしめ合い、涙を流した。

 そうか、この人がハニーのお兄さんだったんだね。

 僕もつられて泣きそうになっていたとき、クラウドはリトくんとベリール伯爵の方を向いた。

「それで、二人は何故ここに?」 

「……ああ、そうだった」

 ほほえましい兄妹を見つめて、少し頬を緩ませていたリトくんは、我に返り、話を始めた。

「僕は今夜も、ティーク様に頼まれこの洞窟を見張っていた。そしたら、その少女がやって来て……」

 ハニーはリトくんに、伯爵に連れられたはずの兄が行方不明になっていることを話した。

 これは怪しいと思ったリトは、ハニーと共に屋敷に戻り、伯爵を問いだす。

 そうして、この立ち入り禁止の場所を破壊したこと、その音で蛇が目を覚ましたこと、そこに兄を置いてきてしまったことを聞いた。

「……だから、ここにやってきたんだけど。その魔物は?」

「ああ、急に消滅したんだ。真っ赤な光に包まれて」

「えっ、真っ赤な……?」

 ジャムの言葉に、リトくんの目が、何故かクラウドを見た。

 クラウドはキッとリトくんをにらみつけ、

「言っとくけど、オレは何もしてないからな」

「ふうん……そう。魔物が自然消滅するなんて話、聞いたことないけど」

 二人は睨み合っていたが、急にクラウドがはっとして、

「まて……もしかしたら、寿命があるのかもしれねぇぞ」

「魔物に? ……それ、本当だとしたら、魔法学に革命並の大発見だよ!」

「ああ、リグじいさんに報告しないと……!」

 二人は急に盛り上がり始めた。

 険悪ムードが収まったのはいいけど、なんか、話が間違った方向に進んでいる気がする……!

 ……僕が魔物を倒したって、言った方が良いかな?

(けど、リグは、僕が赤の魔力を持つことは言わない方がいいって言ってたし……あ)

 ふと、さっき、ルディが夢の中で教えてくれたことを思い出した。

 赤の魔力はレイン家――魔王と関係があるということだ。

 ……僕が赤の魔導師だってわかったら、みんなに怖がられちゃうかもしれない。

(それはよくない! やっぱり、秘密にしておこう……)

 そう、一人で思い直した、そのときだ。

「! お兄ちゃん!」

「君たち、後ろを見ろ!」

 急に、ハニーと、未だ縛られたままのベリール伯爵が叫んだ。

「何?……!」

「あれは!」

 振り返るとそこには、もう見慣れたネズミの魔物がニ匹、こちらの様子を伺っていた。

 リトくんは即座に、懐から杖を取り出した。

「皆、先に外へ行ってて。ここは僕がなんとかする」

「オレもいる。忘れるな」

 クラウドは剣を取り出し、構えた。

 僕は慌ててその腕を掴んだ。

「待ってクラウド、君はもう魔力が……!」

「そうだよ。大人しくしていろ」

 リトくんと一緒に止めようとしたら、クラウドはその剣を金色に光らせ、

「大丈夫……なんか、行けそうな気がする」

 そう、僕に微笑んだ。

「……もしかして……」

 リトくんはクラウドと、そして僕を見て、少し目を見開いたが、その言葉の続きは聞き取れなかった。

「ルークこそ、先に皆を連れて出ていろ。ジャムを療養させて、あの花屋にハニーの無事を伝えるんだ」 

「……わかった」

 三人を振り返り、頷く。これも重要な役目だ。

「あ、そうだ、伯爵は……その辺に転がしとけ」

「僕の扱い雑過ぎないか?」



 クラウドに借りた光を元に、三人を連れて洞窟の外へ出た。

 するとそこには、こちらへ向かってくる緑の大魔導師の姿があった。

「あっ、リグさん!」

「おお、ルークや。トランスコットに話を聞いてな、今跡を辿ってきたんじゃ」

 リグは魔法陣が描かれた、おはじきのような乗り物から降りて、僕に駆け寄った。

 すごい、あれも魔法? 便利だなあ。

「……しかし、すでに殆ど解決したようじゃな」

 ジャムに抱えられたハニー、そして縄に縛られたベリールを見て、リグさんは微笑んだ。

「よかったのう……クラウドとリトはどうした?」

「二人はまだ、洞窟にいます。だから……三人のこと、よろしくお願いします」

 僕はそういいながら、元来た道を歩んだ。

 ハニーは驚いて、ジャムの腕の中から手を伸ばす。

「ルーク? どこ行くの?」

「リグさんは都の大魔導師だから、安心して頼って。僕はクラウドたちが心配だから戻る!」

 そう言い残して、再び暗い洞窟へ入った。

 去り際、リグの声が遠くに聞こえた。


「流石、勇者の血を継ぐ者じゃ」


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