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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
06 隠された真実
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照らされる事実

「今から二時間前、その嬢ちゃんはここへ訪ねてきやした」

 酒場の店主は、緊張した面持ちでそう語った。

「この店に、くるくるした茶髪で、自分と同じ目の色をした、ジャムという名の男が来たことはなかったかと。探している自分の兄なのだと」

「それで、貴方は何と答えたんですか?」

「丁度五日前の夕方、この店に来たと言いやした。嬢ちゃん、泣きそうな顔をしていたんで。……それに印象深かったんで、俺もはっきり覚えていたんですわ」

 店主はそう答え、次に声をおとして言葉を続けた。

「そのときそいつは、二人の男と……そしてあのベリール村の伯爵と一緒にいたんです」

「えっ、伯爵と?!」

 思わぬ登場人物に、僕とクラウドは、思わず顔を見合わせた。

 店主はうなずき、その四人が話していたことを、自分が覚えている限り話してくれた。


『――父はずっと、その立ち入り禁止の場所へ入るなと頑なに言っていた。しかし地理的には、ここに未発掘のエメラルドがあることは間違いないんだ』

『なるほど……けれどその場所、石が積んであって、奥には進めないんじゃありませんでしたか?』

『そこで、ジャムが家から持ち出してくれたこの火薬を使うんだ。感謝しているよ、ジャム。……エメラルドを手にいれた後は、君たちにも働き相応の報酬を渡そう』


「……それと同じことを、ハニーにも言ったと言っていた。そうなれば、次にハニーが来る場所は、ここに違いねぇ」

 そう言ってクラウドは、目の前の『緑の洞窟』を指差す。

「ここに、何か手がかりがあるはずだ。中へ入ろう。――『ライト』」

 クラウドはそう唱え、ふっと右手を横へ動かした。

 すると、空中に小さな太陽のようなものが現れ、辺りを淡く明るくさせた。

「すごい。これで足元が見えるね」

「ああ。それでもお前はこけそうだな、どんくさいから」

「こ、こけないよ!」

 自信なく反論しつつ、クラウドに続き、洞窟へ入った。

 天井が低くて、広くはなく、先の地面はだんだんと地下へ下がっている。

 空気はひんやりしていて、どこかで、ぴちょん、ぴちょん、と水の音が聞こえていた。

「これだな、別かれ道」

 クラウドの方を見ると、壁にある細い道の入り口に、『立ち入り禁止』という表札とロープが張られていた。

 それらを通り越し、細い道へ入る。

「見ろ、足跡だ」

 クラウドが指差した先の地面には、まだ新しい足跡がついていた。

 その先は、急速に地下へ進んでいて、道幅は一人ずつしか進めなさそうなくらい、狭い。

「伯爵たちも、この先を通ったのかな」

「そうだろうな。先頭はオレがいく」

 クラウドがそう言って、灯りを引き連れて進もうとするので、僕は慌てた。

「待って、僕が道が暗くてわからないよ」

「チッ……なら、お前も照明の魔法を使え。魔法使いなんだろ?」

「……ど、どうやるの?」

 おそるおそる聞くと、クラウドはまた、めんどくさそうにため息をついた。

「いいか、これは魔導師になりたてのガキでも使える、超初歩魔法だ。使えなかったら今度こそ見捨てる。……頭の中で、光を想像しろ」

「光……」

「そうだ、火でも日光でもなんでもいい、とにかく光だ」

 光……それなら、朝、カーテンから入ってくる、眩しい朝日……。

「そのイメージを手のひらに込め――そして空中に投げるようにして、唱えろ。『ライト』」

「ライト――うわっ!」

 すると、僕の手のひらに、目を開けられないほど、まばゆい光が灯った。

「押さえろ、眩しすぎだ!」

「お、押さえる……?!」

「光が消えるイメージをしろ」

 光が、消える、消える……。

 すると、今度は全く消えてしまった。

「…………」

「…………」

 クラウドはまた、ため息をついた。

「下手くそ。……しゃーねぇ、オレのをもう一つやる」

「え?! そ、それができるなら、最初からそうしてよ!!」


 明かりを頼りに、下へ降りていくと、少し広い場所に出た。

 床には割れた石が散らばっていて、まるで、何か叩き壊したような……。

「おそらく、その火薬で爆発させたんだな。元々は塞がれていたんだろ」

「なるほど」

 その先の道は広くなっていて、二人並んでも余裕があった。

「けどさ、ハニーはこんなところまで来たのかな」

「奥まで行って、確かめればいいだろ。いなかったらいなかったで、また別を探そう」

「そうだね」

 奥へ行くにつれ、水の音が大きくなっている。

 明かりが届かない先が、どんよりと、暗い。

(なんか、不気味だな……)

 もっと明かりを強く、と頼もうとしたところで――突然、何かが足に当たった。

 床を見ると、それは人間の足のようなもので……。

「えっ?」

 いや、足だ。胴体と頭も、ついている。

 男が一人、床に倒れていた。

 僕は、息をのんだ。

「し、死体?!」

「いや、待て、息がある」

 クラウドはしゃがみ、男の肩を軽く叩いた。

「おい、お前、何でこんなところにいるんだ?」

「……!」

 男はハッと気がつき、癖っ毛の下から僕らを見上げた。

 そして彼はかすれた声で、囁くように言った。

「明かりを消して!足音をたてたら、ダメだ!じっとして……」

「え?」

 聞き返した、そのとき。

 闇の方で、ズルズルと、何かを引きずるような音が近づいてきた。

「何……?」

「……ルーク、どうやらお前の読みが正しかったみたいだな」

 クラウドはひきつった笑みを浮かべ、自分の魔法の光を闇の方へ投げた。

「……!」


 そうして光に照らされ、現れたのは、大きな蛇の頭だった。

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