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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
06 隠された真実
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『シルク王子』

「それをお前さんに教えて、俺に何か良いことがあるのか?」

「んなもんねーよ。けど知ってんだろ、早く教えろ」

 バンッと、机を叩く音。

 僕ははっとして、辺りを見渡した。

 初めての酒場のにぎやかな雰囲気と匂い、そしてクラウドの言葉に、いつしか意識がのみ込まれていたのだと気が付く。

「悪いが、情報屋なんでな。タダって訳にはいかねぇさ」

「あァ? 金払えってか?」

 そしていつの間にかクラウドは、酒場の店主とにらみ合っていた。

 スキンヘッドで黒ひげの、がたいの良いその男は、コップを磨きながら嘲るように笑う。

「そうだとも。可愛い嬢ちゃんやお偉いさんならともかくよお」

「……オレ、実は美少女だ」

「んなウソが通用するわけねえだろ馬鹿たれ」

「ええっ?! クラウド、女の子だったの?!」

「おいお前が騙されんな!」

 クラウドは僕を迷惑そうに見る。やっぱり男だったようだ。

 しかしそのまま、何か思い付いたように僕を見続け……ニヤリと笑った。

「……んじゃ店主、良いこと教えてやるよ」

 僕の肩に手を回し、そして、

「あっ」

 帽子を取った。

「こいつが誰だか、情報屋のテメーなら、わかるよな?」

 クラウドの言葉に、店主は一瞬沈黙し、そして目を見開いた。

「……あ、貴方様は――」

 


「やったぜ、大収穫だ!」

 人気のない道を歩きながら、クラウドは興奮気味に言った。

 酒屋の店主から、ハニーの手がかりを入手することに成功したからだ。

「それに、あんなことまでわかるなんてな。感謝してるぜ、王子様!」

 得意気に肩を叩くクラウド。

 けれど僕は、一緒に喜べなかった。

 耐えきれず、クラウドを鋭く見て、言った。

「今みたいなこと、もうしないで」

「は? なんでだよ、こんなに……」

「しないで」

 そんなつもりはなかったのに、目から滴が落ち始めた。

 クラウドは驚いたように目を見張る。

 周りにもう人はいない……夜の街角、出会って三日も経たないその少年に、僕は心の底から言葉を紡いだ。

「こんなことに使うために、王子でいるわけじゃない」

「……ごめん」

 その単語は、クラウドの口から初めて聞いた気がした。

 片目から伝わる、罪悪感と、動揺の色も。

「だって、お前がハニーを探したいって言って……だから、そうするのが……」

「うん、わかってるよ、言いたいことはわかるんだ。上手くいったし、いいから、今後は、もう」

 謝ってもらったのに、クラウドの気持ちもわかるのに、どうしてか涙は止めることができなかった。

「……ごめんね、泣いちゃって。ごめんね」

 どうしようもなくて、しゃがんで顔をうずめる。

「……悪かった」

 クラウドの手が、僕の手に重なる。

 彼の声はいつになく、優しかった。

「けど、そのままでいいから、進もうぜ」

 顔を伏せたまま頷くと、手首を掴まれる。

 そのまま、クラウドに連れられ、歩き出した。


 夜空の下、僕らの他に誰もいない緑の上、きらきらと雫が落ちていく。

「お前、ほんとは家出したくなかっただろ」

 クラウドは星を見上げ、明るく聞いた。

「ルーク……いや、シルクにとって、『王子』って存在は自分の中で一番大事。そうなんだろ?」

 また、視界がぼやけた。

 そのことに生きていて初めて、気づかされたからだった。

「僕、ほんとにほんとは、ずっと王子でいたかった」

「だろうな」

「でも、魔法使いだって言われたから、王家の子じゃないなら、もうなれないって思った」

「そうか」

「それでも、あんな風に立場を使われたのが、なんだか汚されたみたいで、悲しかった」

「……ごめんな」

 顔を覆ったまま首を横に振ると、腕を握る力が強くなった。


 そして、歩き続けていた足が、止まる。

「……いけるか?」

「うん、もう大丈夫」

 最後に顔を拭って、前を見つめる。


 たどり着いたのは、まるで墨を塗りつぶしたような、闇の前だった。

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