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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
05 二つの謎
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深まる謎

「今日、図書館で調べてわかったんだ。ベリール村ができる前、その地に強い魔物が現れた。それは『蛇の魔物』だったそうだ」

「……それが生き残ってたっていうのか?」

「うん。蛇は肉食、鳥だって丸のみにする種類だっている。それに、ほら」

 ナイロさんの小屋の前に立ち、指をさす。

 小屋は、屋根と柱は木、壁が網でできていて、外からでも中の様子がよく見える。

 そこには悲しいことに、沢山の羽と血の跡があるだけで、他に生き物はいない。

 そして、小屋の柱や網に傷はないのに、唯一入り口の木のドアが乱暴に壊され、跡形もなくなっていた。

「ドアは壊されているけど、蹄の跡はどこにもないでしょ? 他の種類の魔物なら、何かしら足跡が残っているはずだ」

「まあ、確かにな」

「それに、蛇なら動く音がほとんどしない。だから誰も襲われたことに気がつかなかったんだよ!」

 そう言って、どうだ!と、クラウドを見る。

 けれど、クラウドはふに落ちない表情をしていた。

「でも、そんな蛇どこに居んだよ。それに、何で今の時期になってまた現れたんだ? 倒されたのは五十年も昔だぞ」

「そ、それは……隠れてるのは地下だと思うんだけど……」

「それに蹄の跡がないなら、人の犯罪である可能性の方が高くないか?」

「う、うーん……」

 そう返されて、一度口ごもる。

「……でも、ここにいた沢山の鶏、どうやって運んだの? 夜だとしても、そんな人がいたら誰かが気がつくよ。ナイロさんの家はそこだし」

 そう言って、小屋から目と鼻の先にあるナイロさんの家を指さすと、今度はクラウドがうろたえた。

「えー……まず眠り薬を使って、黙らせて……箱に詰めて……」

「その後、鶏はどうするの? 飼うの? さばいて売り物にするの?」

「……うるせぇ!! そんなこと犯人を捕まえてから、聞き出せばいいんだよ!!」

 すごい、強行手段すぎる。

 僕が疑いの目をしているのがわかったのか、クラウドは気まずそうな顔で、

「わかった、あのオッサンにもう一回、その日の話を詳しく聞きに行こう」



「はーっ、わっかんねーなぁ」

 ドサッと自分のベッドに横になるクラウドを見て、苦笑する。

「でも、成果はあったんじゃないかな、少しは……」


 ナイロさんから聞いた話によると、小屋が襲われたのは五日前の夜。

 九時頃に戸締まりを確認したのが、鶏たちの姿を見た最後だったそうだ。

 朝六時に小屋を訪れるまで、ナイロさんもその家族も誰も、大きな音で目覚めたりはしなかった。


 ナイロさんを訪ねたあと、クラウドに押されて洞窟にも行ったが、フォーレスが先に入り口をとうせんぼをしていて、入れなかった。

 元々ベリール伯爵の管理下にあるし、しょうがないけど……。


 それから夕飯のあとも、お風呂に入った後もずっと討論を続けていたが、クラウドも僕も意見は譲らなかった。

「はあ、茶でも淹れるか。お前のも持ってきてやるよ。何がいい?」

「クラウドとおんなじのでいいよ」

 クラウドは部屋を出て、一階へ降りていった。

 一人になって、ベッドに腰かける。

 そのまま、クラウドがやっていたように、ドサッと横になってみた。

 人のベッドに寝るのはどうかと思ったが、お風呂上がりだし、まあ少しなら多目に見てくれるだろうと言うことで……。

(あー……すっごく眠くなってきた……)

 ここで寝ちゃダメだ、起きなきゃ、クラウドに怒られちゃう――。

 けれどその意思は睡魔に負け、夢の中に消えた。


   ☆


「ルーク?」


 部屋に戻ると、ルークはベッドに横たわり眠っていた。

 全く、人のベッドで……と呆れつつ、起こさないように静かに椅子をひき、座って温かいカップを手に取る。


 ……思えば、ルークは不思議なヤツだ。

 貴族である癖に、オレと対等に仲良くしようとしている。

 ムカつくくらい優しくて、突き放すような態度をとっても、馴れ馴れしく話しかけてくる。

 けれどなんだかほっとけない、それは、どこか懐かしい――。

(……ああ、そうか)

 オレは、ようやく気がついた。

(昔のリトに、似てるのか)


『クラウド、このボタンはどうやって留めるの?』

『クラウド、助けて、司祭様がね、野菜も全部食べなきゃダメって言うんだ』

『ねぇ、クラウド、クラウド――』


 両親が事故で死に、三歳でこの教会に引き取られたリトは、オレと同い年だったけれど、オレより幼かった。

 その時、教会の子供はオレとリトだけで、リトはオレを兄みたいに慕っていたことを、ぼんやりと覚えている。


『クラウド、一緒に寝てもいい?』

 もうすぐ五歳になるその日も、リトはオレの部屋にウサギのぬいぐるみをつれてきた。

 オレも、リトをすっかり弟のように思っていた。

 だから油断していたんだ。


 あのとき、オレがリトより早く起きていれば。


 あのとき、眼帯がとれていなければ――。


「……ふぁ?」

 突然聞こえた声に、びくりとする。

 見ると、ルークが眠そうに目を擦りながら、上体を起こしていた。

「あれ……僕、寝てた?」

「ああ、アホな顔で、よだれくいながら寝てた」

「ええっ?! ご、ごめん……そういえば昨日は、全然寝れなかったからなぁ」

 ルークはため息をつき、ひとつあくびをする。

 本当に眠そうだった。

「寝れないって……お前、一昨日は馬車の中でもあんなに爆睡してただろ」

「うーん、なんでだろ……もしかしたら、人がいたら寝れるのかも」

 そう首をかしげ、ルークはオレを見て、言った。

「そうだ。今夜、一緒に寝てもいい?」


 ――ルークの言葉が、表情が、瞳が、記憶と重なる。


「……嫌だ。自分の部屋で寝ろ」

 突き放すように言って、顔を背ける。

「えーっ、いいでしょ、僕は床でいいから……お泊まり会みたいできっと楽しいよ」

「楽しくねぇ」

 できるだけ素っ気なく返してから、まだ温かいカップを、机に置いた。

「もう九時だ、話はまた今度にしよう。……さっさと出てけ」

 そう言って、ドアを開けてやる。

 しかしその廊下には、既に人がいた。

「ああ、クラウディ、ルークさん。ちょっといいですか」

 その人、司祭のトラスコットは手招きをして、

「お客様がお見えです」

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