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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
05 二つの謎
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隠し事

「フォーレス、都に魔物が出る原因はわかった?」

 優しそうにそう尋ねるベリール伯爵――ティークは、アンヌと同じ紅茶色の髪に、たれ目がちの緑の瞳をした、若い男だった。

 なんだ、ヤバい奴って聞いてたけど、普通の男じゃないか。

 リトはティークに、オレから思いっきり視線をずらしてから答えた。

「いえ……まだ」

「そうなの? 使えないね」

 …………は?

 笑顔のままさらりと放たれた暴言に、耳を疑う。

(使えない? ふざけるな、リトは一級魔導師だぞ)

 しかしリトも負けていなかった。

 リトは本を閉じ、彼を睨み付けたまま立ち上がる。

「ティーク様。僕が三日前ここに来たときから、ずっと何か隠していますよね? それは事件と何か関係があるのでは?!」

「もう、しつこいなぁ……僕がしたことと都の事件は全く関係ないって、言ってるでしょ? さっさと原因を探ってよ」

 伯爵はそう言うと突然、リトの胸ぐらをガッと掴み、囁いた。


「じゃないと――君がフォーレス家の実の息子ではなく、孤児の貰い子であること、都中に言いふらすよ」


 ――ぶちっ。オレの頭の中で何か切れる音がした。

「テメェェェ!!」

 不可視魔法を解き、思いっきり伯爵に飛び蹴りをかます。

「クラウド?!」

「ぐあっ!! な、なんだ貴様?! どこから……!」

 絨毯に倒れた伯爵は、目を丸くしてオレを見る。

 腹いせにもう一回余分に蹴ってから、そいつを見下ろした。

「そうか、そういうことか。だからリトはお前を悪いように言えなかったんだな!」

「……君、都で有名な、教会暮らしの隻眼の魔導師だね」

 伯爵は上体を起こし、オレとリトを見比べた。

「……なるほど。同じ教会で育った仲、ってわけか」

「ああ、そうだ」

 オレが頷くと、リトもオレの影で小さく頷いた。

「けどリトは五つのとき、正式にフォーレス家の養子になったんだ! それを今更蒸し返すテメェが気に食わねえ!」

 そう叫んで、髪を掴んだ。

「いっ……何をする! 僕は伯爵だぞ!」

「うるせえ! 何か隠してるんだろ? さっさと白状しろ!」

「だから、関係ないと言ってるだろう! 僕は洞窟に入っただけだ!」

 伯爵はそう叫んで、ハッと我に帰った。

「ふーん、洞窟……」

「……そうだ。そのことと都で起こった事件、何が関係あるんだ?」

 ……責めるにも、証拠がない、か。

「チッ……」

 諦めて手を離す。

 しかし今度はオレが、リトにつかまれた。

「く、クラウド……」

 その瞳を揺らし、オレの服をぎゅっとつかむ。

 目線を床に落とすリトに、敵意は感じられなかった。

「僕、酷いことしてきたのに……なんで……」

「は? 別にテメェのために言ってやったんじゃねぇ、こいつがムカつくからやったんだ。勘違いするなよ」

「……そ、そんなことわかってたもん!」

 リトはすぐに手を離し、うって変わってオレを鋭く見上げた。

「ていうか、お前いつまでいるんだ?! ここは伯爵様の家だ! 早く出ていけっ!」

「へ?……う、うああああっっ!!!」

 防ぐ方法を考える暇もなく、オレはリトの魔法で窓の外へ放り投げられた。


   ☆


「よかった、無事に着いた」

 昨日と変わらない、のどかなベリール村の景色を見て微笑む。

 クラウドはいなかったけど、地図と記憶を頼りに再び来ることができた。

 本の入った重い手提げを肩にかけ直し、ナイロさんの小屋へ向かう。


 そう、ここへ来たのは、僕が図書館で調べ考え、そして見つけた『答え』を確かめるためだった。


「よーし、今日は脇目をふらず、さっさと進むぞ」

 早速道を歩き始めたところで、突然生け垣から人が飛び出し、僕はびっくりしてそっちを見た。

「いってーな! 何様だテメェ!」

「伯爵様だ!」

「そうだったな! 畜生、覚えてろよ!」

 地面に膝をつき、生け垣の向こう側にむかってそう怒鳴るのは……

「あ、クラウド」

「ん? なんだ、ルークか」

 クラウドは振り返り、小さな葉っぱを服や髪に沢山つけたまま、僕を見た。

「どうしたの?確かここ、伯爵のお屋敷だよね?」

 クラウドの頭の葉っぱを払ってあげながら、そう聞く。

 彼は「やめろ」と僕の手を払い、立ち上がった。

「オレ、伯爵が事件に関わっていると思うんだ」

「ええ?! なんで?」

「お前は知らないかもだけど、アイツには前から悪い噂があったんだ。今日だって鶏小屋の事件を聞いたのに、アイツは洞窟に行ったことを隠そうとしていた。おかしいだろ?」

「そ、そんな……」

 伯爵、という位を持つような人が、悪いことをするなんて……。

 村人のポピーさんもセリアも、ベリール伯爵のことを良く言っていたじゃないか。

 やっぱり、クラウドの言い分は信じられない。

「……それは、君が貴族を悪く思っているから、そう感じるだけじゃない?」

「あァ?! テメェ」

 クラウドは僕の襟元をつかんで……けれどすぐに緩めた。

「……そうだな、お前は貴族だ。貴族の肩を持つに決まってるよな」

 そう言って、冷めたような目をして僕を離したので、慌てて弁解した。

「違うよ、ただ偏見は良くないって言ったんだ。貴族の人って、ちょっとしたことでも過大に悪く言われたりするから……」

「けど、火のないところに煙は立たない。昔から言うだろ?」

「うーん……」

 そう言われると、悩んでしまうけれど……僕は僕で、意見があった。

「でも、小屋が襲われたのはやっぱり魔物の仕業だと思う。今日はそれを確かめに、この村に来たんだ」

「確かめに?」

「着いてくる?」

 聞くと、クラウドはすぐ、僕の隣に立った。

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