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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
05 二つの謎
42/56

不可視魔法

   ☆


「ベリール村を作った男はの、強力な魔物を倒し、その上エメラルドの採掘場を整備させた素晴らしい人物じゃ」


 昨夜遅い頃、ルークが部屋に戻ったあと、じいさんはオレを尋ねてそう言った。

「今のベリール伯爵も、優しい青年のように見えるが……都の酒場に居たり、不良のような者と話していたりと、良くないウワサも聞いておる。村の小屋が襲われたり、魔物が出始めたのも、彼に関係があるかもしれん」

「ああ、オレもそいつが怪しいと思ってたんだ。村のガキの親父も、そんなことを仄めかしていた」

 たぶん、鶏小屋の持ち主やガキの母親も、そういう疑惑を持っていないわけではなかったはずだ。

 けれど、やはり不確かなことで、領主のことを悪くは言えないのだろう。

 それに自分の領土が襲われても、伯爵にメリットは何もないしな。

「じいさん、しかも今、そいつにリトが仕えてるみたいなんだ」

「なんじゃと、あの子が?」

 じいさんは少し目を丸くし、そしてため息をついた。

「変なことに巻き込まれなければいいのじゃが……」

「……フン、あんなやつどうでもいい」

「本心ではないじゃろう」

「断ち切ったのはアイツだ」

 言い返し、両目を伏せた。



(けれど、お付きの魔法使いがリトのお陰で、簡単に聞き出せるな)

 再びベリール村へ赴き、大きな屋敷の前に立つ。

 昨日も屋敷へ行くと言っていたし、ここで待っていれば、恐らくリトは現れるだろう。

 もし伯爵本人が出てきたら、首根っこつかんででも無理矢理聞き出せば良いし。

(こういうとき、家のしがらみがないって便利だよな)

「あ、クラウドじゃないか」

 名前を呼ばれて振り替えると、そこには昨日のガキがいた。

「また村に来たんだね! ティーク様に用があるの?」

「どうでもいいだろ。お前はなんでいるんだ?」

「あたしはアンヌに会いに来たんだ」

 アンヌ?

 聞き返す前に、その答えはわかった。

「セリアさん、いらしていたのね」

「あ! アンヌ!」

 門の向こうに、セリアと同じくらいの年の女がいた。

 くるくるに巻いた腰まである紅茶色の髪に、大きな緑の目。

 白いレースがたくさんつけられた薄緑色の服をふわふわさせている。

 風貌からするに、恐らく伯爵の妹だろう。

 アンヌは、屋敷の門を開けた。

「まあ、わたくしがあげた髪飾り、つけてくださっているのね」

「うん、すごく嬉しくって、いつもつけてるよ」

 セリアはそう言って、キラキラ光る赤い髪飾りを大事そうに撫でた。

 はあ、なるほどな、身分は違えど仲良しってわけか。

 アンヌも嬉しそうに笑って、次にオレ見た。

「あなたは……?」

「ああ、こいつはクラウド。あたしの友達!」

「おい! 違うだろ!」

 セリアの言葉をすぐに否定し、

「オレはお前の兄貴か、魔法使いの野郎に用があるんだ。家にいるのか?」

「リトさんならいらっしゃいますわ。呼んできましょうか?」

 頷きかけて、ふと思う。

 そうだアイツのことだ、オレが呼んだって言ったら、来ないかもしれねぇな。

「いや……オレも入っていいか?」

「ええ、セリアさんのお友だちなら」

 アンヌは微笑んで頷き、オレとセリアを手招きした。



「リト」

 名前を呼ぶと、彼はびくりとして顔をあげた。

 アンヌに教えられた、書斎のようなこの部屋で、リトは長椅子に座り読み物をしていた。

「クラウド……」

 リトは無表情のまま目を細め、オレの名前を呟くと、また本に視線を戻した。

「……何の用だ」

 しかしその目は、文字を見ていない。

 オレは、彼にずかずか近づいて、聞いた。

「あの鶏小屋が襲われた事件について、何か知らないか?」

「恐らく、君が今知っていることが全部だろう」

「じゃあ質問を変える。お前の仕えてるティークってやつ、何か隠してるだろ」

 そう言うと、リトは黙り込んだ。

 ずっとそのままなので、その両肩に正面から手を乗せ、無理矢理彼の視界に入ろうとする。

 リトは目を合わせないまま、逃れるように体をのけぞった。

「やめろ、さわるな」

「知ってることを言え。あと十秒以内に吐かなかったら、魔術を使うぞ」

「……読心術は両目でないと使えないはずだ」

「目ならある。お前も知ってるだろ」

「…………っ」

 リトの緑の瞳に、恐怖の涙が浮かんだ。

「……ったく、偉くなっても、泣き虫なのは変わんねぇな」

 震えている幼馴染みから手を離し、ため息をつく。

 ため息の理由は二つあった。オレを怖がっているコイツに呆れ、そしてコイツの涙に弱い自分に呆れた。

「ここは学校じゃねぇ。泣いても助けを呼んでも、お前の取り巻きは来ないぞ」

「……ふん、まずそいつらに虐げられていたお前が、何で今更僕を頼ろうとするんだ」

「ああ、今でもお前のことは大っ嫌いだ。頼まれて仕方なく――」

 言いかけたとき、部屋の外で足音が聞こえた。

 はっとして後ろを向く。

 瞬時に、リトがオレの服を掴んだ。


 ――にげろ。


 リトは口だけでそう言って、窓を指差した。

 庭に繋がる、大きな窓。

 だがオレは、首を横に振った。


「――『インビジブル』」


 それは、空気に薄い膜を張り、姿を見えなくする水の魔法。

 ……使えるのは、息を止めている間だけだが。

 オレの姿が消えて間も無く、ドアが開いて一人の青年が入ってきた。

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