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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
04 赤の魔法
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たったひとりだけ

「けど、これはオレが任せられた仕事だ。お前には関係ない」

 都の教会に着いて、クラウドはそう言って自分の部屋に戻っていった。

「……関係ないかもしれないけど……」

 一人で誰もいない礼拝堂の椅子に座り、呟く。

 豊かな緑が描かれたステンドグラスを眺めていると、ナイロさんやセリアの表情が頭に浮かんだ。

(僕も、何か手伝うことができたらいいのに)

 けど、僕はクラウドみたいに魔導師じゃないから、魔物にも詳しくないし、魔物を倒すことは出来ない。

 ……魔導師じゃないから…………。

「あっ、そうだ!」

 ひらめいて、勢いよく立ち上がる。


 僕は魔導師じゃない。

 なら、魔導師になればいいんじゃないか。



「――なるほどの。だから封印を早く解いてほしいとな」

「はい。解いたら僕も、魔法が使えるようになるんでしょう?」

 思い立ってすぐ、緑の大魔導師・リグの部屋を訪ねた。

 リグは「ふむ……」と髭を撫で、そして椅子から立ち上がると、机の上に置いてあった水晶玉を持って戻ってきた。

「この石を知っているかね?」

 リグはその透明な丸い石を、半分布で包んだまま僕に見せる。

「……もしかして、魔宝石?」

「その通り」

 布を取り、リグが魔宝石を直接手に取ると、それは眩しいほどの緑色に輝いた。

 強い光に、目が開けられないほどだ。

「魔宝石は、魔法使いが持つ魔力の『色』によって変わる」

「魔力の色?」

「そうじゃ。だからわしは、『緑の大魔導師』」

 リグが石を再び布で包むと、緑の光は失せた。

「話を聞くにシルク王子は、ルルードとクラウディの剣の、魔宝石の輝きを見たのじゃろう?」

「はい。黄色みたいな、金色でした」

 話しているうちに、リグの言いたいことがわかってきた。

「だから、ルルードさんは『金の大魔導師』で、クラウドは『二級金色魔導師』なんですね」

「そう、その通り。魔法使いには、持っている魔力に生まれつき『色』がある。それによって、それぞれの肩書きが決まるのじゃ」

 リグはにっこり笑うと、その石を僕に差し出した。

「触ってみなされ」

 そう言われて、ドキドキしながら触れる。


 すると、魔宝石は赤色に輝いた。


 ……すごい、僕にも本当に、魔力があったんだ……!

「じゃあ、僕は『赤魔導師』になれるってことですか?」

 少し興奮ぎみに訪ねると、リグは笑みを返した。

「ああ……そうじゃな」

 しかしその笑みは、心なしかひきつっていた。

 その様子を見て、一気に不安が募る。

「僕、魔力があんまりないんですか? リグさんのときより、石が光ってないし……」

「いやいや、魔力を封印されているのじゃから、当然じゃ。……しかし、やはり……」

 リグは言葉にならない独り言を、もごもごと呟く。

 一体どうしたのだろう、見つめていると、リグは次に、何か決したように顔をあげた。


「シルク王子、約束してください。――自分が『赤』の魔力を持つことは、誰にも言わぬと」


「……どうしてですか?」

 聞くと、リグは少し黙った後、こう答えた。

「『赤の魔法使い』は今の時代、とても珍しいのじゃ。この国でも、世界でも……もしかしたら、王子だけかもしれぬ」

「そ、そんなに……?!」

 この広い世界で、僕だけ?!

 あまりにもスケールが大きくて、信じられない。

「ああ……だから王子は、内密に魔力を封印されたのかもしれぬな。珍しさ故、その色の血を欲しがる人がいても、おかしくないからのう」

 リグのその言葉にゾッとした。

「じゃあ……赤魔導師であることがバレたら、命を狙われてしまうかもっていうこと……?!」

「そういうことじゃ。それを知った上で、封印を解く決心は変わらぬか?」

 真剣な目で、問われる。

 ……でも、僕の返事は決まっていた

「解きます。お城にいたときだって、王子として狙われることはあったわけだし……それに、魔導師としてできることがあるなら、やりたいです!」

 リグは微笑み、頷いた。

「素晴らしい。金色魔導師でなかったのがもったいないくらいじゃ」

 ……『もったいない』?

 どういうことだろう。

 しかしそれを訪ねる前に、リグは「準備をするから座ってまっていてくだされ」と言って、奥の部屋に行ってしまった。


「なるほど……随分と複雑な術じゃな。一体誰が……」

 リグの声が、後ろから聞こえる。

 今、僕の背中には、お城の物置で見たような真っ赤な紋章が現れているのだろう。

「解けますか?」

 木の丸椅子に座って前を向いたまま、緊張しながら尋ねる。

 ルルードは、“緑の大魔導師なら解ける”と言っていたけど……。

「なに、造作ない」

 リグはそう言ってから、聞いたことのないような言葉を、ぶつぶつと呟き始めた。


 すると……つーっと、何か温かいものが体の中心から全身に流れるような、不思議な感覚がした。

 何だかぽかぽかしてきた頃、リグは呪文を唱えるのをやめ、僕の肩を叩いた。

「ほら、紋章やアザはもうないじゃろう?」

 後ろの三面鏡に映し出された背中を見て、頷く。

「本当にありがとうございました」

 上着のボタンを閉めながら、頭を下げる。


 実感はないけど……これで魔法が使えるようになったのだろう。

 魔法の使い方を学べば、村のみんなの役に、クラウドの役に、立てるかな?

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