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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 町外れの村
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ひとつの違和感

「魔物だって無限にいるわけじゃない、養鶏場も元通りになるよ。またオムライスが作れるようになったら、僕はまたこの村に遊びに来る」

「……ほんと? 絶対?」

 セリアはちらりと、緑の目で僕を見る。

「うん、絶対!」

 そう言うと、セリアはニパッと明るい笑みを見せた。

「ルークは優しいね! 絶対だよ、約束!」

 セリアはぴょんぴょん跳ねて喜んでくれて、僕も自然と笑顔になった。

「あっ、そうだ、せっかくだからお店に寄ってってよ! オムライスは作れなくても、他のメニューなら父さんが作ってくれるかも!」

「本当に? 閉まってるのにいいの?」

 セリアは頷くと、横で棒立ちしていたクラウドの腕をつかんだ。

「ほら、クラウドも!」

「……あんまり高いのは払えねぇぞ」

「安心して、あたしのおごり!」

 セリアは男らしく、自分の胸をバンと叩く。

 その年相応でない仕種に、今まで無表情だったクラウドも、ふっと笑った。




「おかしいと思わないか?」

「何がー?」

 翠の都への帰り道、上機嫌な気持ちのまま、クラウドに聞き返す。

 セリアのお父さんが作ってくれたトマトスパゲッティは、とっても美味しかった。

 オムライスも食べてみたいなあ。

 クラウドは呆れたように僕を一瞥して、

「養鶏場が襲われたことだ。あのガキの親父が話してただろ?」

「セリアのお父さん? そういえばクラウド、ずっと二人で話し込んでたよね」

 僕はセリアとメニューを見てたから、全然聞いてなかったけど。

「そんなにこの村が心配?」

 不思議に思って聞く。

 誰かのために頼まれてもないのに働く、なんてクラウドらしくない気がした。

 クラウドなら、きっと自分の利になるようなことしかしないはず。

 ……って自然と思えてしまうのも、どうかと思うけど。

「あ? この村がどーなろうと、オレには関係ねぇ」

 ほら、予想通り。

 けれど次の返答は、予想外のものだった。

「さっき、じいさんに頼まれたんだ。『最近翠の都周辺に出ている、あのネズミの魔物の原因を突き止めろ』、ってさ」

「じいさん……えっ、緑の大魔導師に?」

 驚く僕に、クラウドは「ああ」と冷静に頷く。

「じいさんは、都の仕事をたくさん持ってる。魔法学校の教員とか、試験の審査員なんかもやってんだ。それに若くはないし、都外を歩き回るのは体力的に無理がある」

「だから、君が?」

「一番弟子だからな」

 きっといつもなら得意気になるところなのだろうが、クラウドは何か考えているのか、歩き続けながら淡々と答えていた。

「それで、おかしいっていうのは?」

「ああ。あの親父が言うには、最初に被害にあったのがあの養鶏場らしいんだ」

「それがどうしたの?」

 クラウドは僕をじっと見て、

「ネズミって、鶏肉とか卵を食べると思うか?」

「え?」

 ネズミ……ペットになるような、かわいいものに置き換えて考えてみる。

 ……うん、ネズミが手羽先とか食べてたら、とっても怖い。

「食べないね。食べるなら、野菜とか……」

「だろ? じゃあ、なんで『ネズミの魔物』が養鶏場なんか襲ったんだ? 他にこんなに畑があるのに」

 クラウドが後ろを指差す。

 少し遠ざかったベリール村には、たくさんの畑が広がっているのが見えた。

「……魔物だから、普通の生物とは食べるものが違うんじゃない?」

「いや、同じだ。ちゃんとした研究結果が出ている」

 クラウドはすぐに答えた。

 さすが二級魔導師だ。

 しかし、それが本当なら、確かにこの事件は妙だ。

 クラウドが「おかしい」と言っていた理由が、僕にもやっとわかった。

「しかも、養鶏場が襲われているところは、誰もみていない。朝になったら、小屋に鶏がいなくなっていたんだと。……それに、養鶏場が襲われてから、ぽつぽつネズミの魔物が出てきて、畑に危害を加え出したらしい」

 クラウドのその話を聞いて、僕ははっきりとわかった。


「じゃあ、ナイロさんの養鶏場が襲われたことと、ネズミの魔物がいることって……」

「完全に別の事件、ってことだ」

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