魔宝石
立ち入り禁止の入り口……確かに何があるのか、ワクワクする。
再び歩きだし、洞窟の姿が見えなくなったくらいに、セリアがふと見上げた。
「あ、そういえばさ、クラウド」
「あ? なんでオレの名前……」
「あれ、違ってた? だって隣のお兄ちゃんがそう呼んでたから」
屈託のない笑顔でそう言ったセリアを、クラウドは迷惑そうに見る。
「ねえねえ、フォーレス様の言ってた、『魔宝石』ってなんなの?」
「これか?」
クラウドはポケットから、黒っぽい石を取り出した。
確か、魔物を倒したところに落ちていたものだ。
「それ、僕も気になってたんだ。それに、なんで大魔導師じゃない君が魔物を倒せたの?」
「……オレは、ルークのその言い分が理解できない。魔力があるヤツなら、『大魔導師の剣』を使えば魔物は倒せるぞ?」
「大魔導師の剣? だから、大魔導師って……」
僕がそう言いかけると、彼は「そういうことか」という顔をした。
「ほら、勇者が使ってなくても、『勇者の剣』とか名前ついてんだろ? これは『大魔導師の剣』って名前の剣なんだ」
そう言ってクラウドは、さっき使っていた短剣を取り出す。
そういえばルルードも、同じような宝石のついた剣を持っていた。
「……ややこしい……」
「まあ、言われてみればな。けど昔はほんとに大魔導師しか使ってなかったんだ。……で、『魔宝石』っていうのが、つまりこれだ」
クラウドは、剣についた宝石を指差した。
よく見ると、表面が球のようにつるつるしていて透明で、中心は淡い金色に輝いている。
「『大魔導師の剣』に必ずついている宝石、それが『魔宝石』。この剣に魔力を込めると剣の金属が魔力を伝導して魔宝石の持つ解の術式が――」
クラウドはそこで、頭にはてなマークを浮かべている僕とセリアに気がついた。
「……あー、とにかく、この宝石に魔力をブッ込むと、魔物が倒せる」
クラウドがそう言って剣を強く握ると、宝石が金色に強く光った。
やっぱり、この金色の光は魔力なんだ。
「だからさっきクラウドは、魔力をいっぱい使って倒れたの?」
「……蒸し返すんじゃねぇ」
クラウドは不機嫌に言って、僕の前を歩いた。
それから、大きなベリール伯爵の館、鳥のいないナイロさんの養鶏場、色んな畑とかを、セリアの後に続いて通りすぎた。
「みんな魔物を警戒して、家にひきこもってるの。ほんとはもっとにぎやかな村なんだよ」
セリアはそう言って、少し悲しそうに広場を見つめた。
そうして暫く静かな道を歩いていると、ひとつの料理店の前にたどり着いた。
「ここ、あたしの父さんがやっている店なんだ」
赤い屋根にクリーム色の壁、看板にはオムライスの絵が描いてある。
けれど、ドアには『close』の札が下がっていた。
「父さんの作るオムライス、すっごく美味しいんだよ! けど、卵も鶏肉も品薄になっちゃって、作れなくなっちゃった……あーあ、二人に食べてもらいたかったなあ……」
セリアは肩を落として呟く。
きっとセリアは、この村が大好きなのだろう。
それなのに、魔物のせいで……。
僕はいたたまれない気持ちになって、かがんで彼女と目線を合わせた。




