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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 町外れの村
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ベリール家の領土

「気分は大丈夫かい?」

 ナイロさんが水の入ったグラスを持って、部屋に入ってきた。

 ここは、ナイロさんの家のリビング。

 僕らの心配により、クラウドを無理矢理、長椅子に寝かせていた。

 起き上がってコップを受け取りながら、クラウドは気まずそうに呟く。

「……別に、問題ない」

「ほんとに? ほんとに大丈夫?」

「フォーレス様は大丈夫だとおっしゃってたけど、子供だし何かあったら……」

「だから問題ねぇって!」

 セリアと、そのお母さんのポピーさんにも言われて、クラウドはそう怒鳴ってそっぽを向いた。

 確かに、いろんな人に心配されたら恥ずかしいよね。

 僕はクラウドの隣に座り、彼に微笑んだ。

「わかるよ。僕もちょっと前さ、さっきのクラウドみたいに気分が悪くなっちゃって、皆に――」

 そこまで言いかけて、ふとひっかかった。

 …………クラウドみたいに?

「……?」

 クラウドは、中途半端に話すのを止めた僕を不思議そうに見た後、ナイロさんの方を向いた。

「この辺りは、あの魔物がよく出るのか?」

「ああ……最近ね」

 ナイロさんは頬をかき、困ったように笑う。

「先週、俺の鶏小屋が魔物に襲われて……それから、頻繁に村に出るようになったんだ」

「ああ、だからさっき……」

 すごい形相で斧を振りかざしていたナイロさんを思いだし、呟く。

「けど、『しょうがない』で済む話じゃないんだよ」

 セリアが真剣な顔をして言った。

「ナイロさんの養鶏場は、この周りで一番大きいんだ。都で評判な鶏料理や卵料理も、ナイロさんのお陰なんだよ。だからニワトリがいなくなって、みんな困ってるんだ」

「そ、それは一大事だ……!!」

 明日から気軽にオムレツやチキンが食べられなくなるなんて、僕なら寝込んでしまう。

 クラウドは腕を組み、

「なるほどな。それで、リトが呼ばれたのか」

「……リト?」

「あっ……フォーレス、だな」

 クラウドは少し気まずそうに訂正し、

「あいつの本名は、リト・フォーレス。フォーレスは名字だ」

「あら、良いお名前ね」

 ポピーさんがうっとりしたように言う。

 その仕草を疑問に思っていると、セリアがやれやれと、呆れたように言った。

「母さんね、フォーレス様のファンなんだよ」

「うふふ、だってかっこいいし、可愛らしいじゃない。それにあの年で一級魔導師よ。ああ、私も若かったら……」

「やめなよ、父さんが聞いたら泣くよ」

 ため息をつくセリアの隣で、ナイロさんがクククと笑う。

 確かに、フォーレスは稀に見る美少年だと、同性の僕も思った。

 クラウドはフンとそっぽを向き、

「顔だけだろ、性格はクソだ。自分があのフォーレス家だってことを鼻にかけてる。……あ、フォーレス家は、有名な魔法使いの名家なんだ」

「なるほどね、だからちょっと偉そうだったんだ」

 ……けど、何故クラウドはフォーレスを、つい名前呼びしたんだろう?

 クラウドのように名字がない人はともかく、親しい間柄でない限り、相手を名前で呼ぶことはないのに。

「あー、あいつの話は今どうでもいい。オレが聞きたいのは、フォーレスの雇い主のことだ」

 クラウドがまた話し出したので、考えるのを止めた。

「フォーレスが言ってた、雇い主って誰なんだ?」

「ああ、ベリール伯爵ね。この村と周辺の領主様なの。お優しい方よ」

 ポピーさんが微笑んで答える。

 ベリール伯爵……僕も小さい頃に一度会ったことがある。

 でも、それは前当主の話だ。

 少し前に病気で亡くなられて、今はその息子のティーク・ベリールが爵位を継いでいる。

「ふーん、領主、か……」

 クラウドは少し考えるそぶりを見せたが、突然立ち上がった。

「わかった。体調は問題ないし、オレはもう行く」

「そっか、じゃあ僕も」

「まだ村にいるつもりかしら?」

 ポピーの質問に、クラウドはうなずいた。

 あ、僕は帰ろうと思ってたのにな……。

「そう、ならセリア、道を案内してあげなさい」

「うん。あたしに何でも聞いて!」

 セリアがニカッと笑って、元気よく答えた。

 まあいいや、楽しそうだし、ついていこう。



「――というか、クラウドがいないと帰り方わかんないし」

「何か言ったか?」

「ううん、独り言」

 振り向いたクラウドから目をそらし、隣のセリアを見た。

「でね、この村はベリール村っていうんだ。ずっとベリール家が治めているところだからね」

 セリアは楽しそうに、村の話をする。

 男の子のように短く切られた濃い茶髪に、ピカピカした小さな赤い花の髪留めが光っていた。

「それで、あそこに見えるのが『緑の洞窟』」

 セリアの指差した方を見ると、少し遠くになだらかな丘が見えた。

 中央には、ぽっかりと穴が空いている。

 そこには墨を塗りつぶしたような闇があるだけで、ここからだと中の様子は見えなかった。

「エメラルドが採れるんだよ」

「へえ、エメラルドか。綺麗だよね」

 緑色に輝く宝石、エメラルド。

 僕の目の色に関連付けてか、よく贈り物やブローチに使われていたから、馴染みがあった。

「けど勝手に入ったらダメだよ。立ち入り禁止の場所は尚更」

「立ち入り禁止?」

 クラウドが聞き返す。

「うん、洞窟を入ってすぐの、小さな別れ道。私が気がついたときから、ずっと立ち入り禁止になってるの」

 何でかわからないんだけど、と言って、セリアは洞窟に好奇の目を向けた。

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