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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 町外れの村
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魔物退治

 突然畑に入ってきた少年を、おばさんと女の子は驚いて見つめた。

「オレは魔導師だ。魔物のところに案内しろ」

 おばさんは彼の身分がわかって安心したようで、優しく微笑んだ。

「いえいえ、あなたの手を煩わせるまでもないわ。フォーレス様が来てくれるもの」

 フォーレス様?

 誰だかわからないけれど、クラウドがその名前にぴくりと反応したのを、僕は見逃さなかった。

「フォーレス? 何でアイツがこんなところにいるんだ」

「あら、知り合いなの? 魔物が現れるっていうから、領主様が都からお呼びになったのよ」

 それを聞いて、クラウドは分かりやすく顔をしかめた。

 どうやら『フォーレス』という人物を、彼は快く思っていないらしい。

 すると女の子が、おばさんの服を掴み、

「けど、フォーレス様が来る前に、村や畑が襲われちゃうかもしれないよ! 先にこの魔導師の兄ちゃんに頼んだ方がいいんじゃない?」

「そうね……じゃあ、あなたにお願いできますか?」

「ああ」

 クラウドは頷き、僕の方を振り返った。

 僕も彼らの元へ行き、四人で広場の方へ急いで向かった。



「フシャァァ」

 魔物は鼻息を荒くし、毛を逆立てて僕らを威嚇する。

 村の広場には、ネズミのような魔物がいた。

 と言っても、ペットになるような可愛いものではない。

 大きさは僕の背丈くらい、 灰色の体に鋭い爪を持ち、赤い目が鋭く光っている。

 しかし、これと同じ種類の魔物を、僕とクラウドは翠の都に来る途中に見ていた。

「またこれ?」

 僕がそう言ったとき、広場にある大きな木の後ろから人影が現れた。

 髪の短い、僕の父くらいの年齢のおじさんだ。

 おじさんは、薪割りに使うような小ぶりの斧を、魔物に向かって振りかざした。

「よくも、俺の小屋を――!」

「あっやめて! ナイロさん!!」

 セリアがおじさんに向かって叫ぶ。

 しかし、そのナイロと呼ばれたおじさんは止まることなく、魔物に勢いよく斧をぶつけた。

 魔物は僕たちに対する威嚇をやめ、いきなり斧をぶつけてきたナイロさんを見る。

 ナイロさんは逃げようとして、つまずいて尻餅をついてしまった。

「危ない!」

「さがってろ」

 僕が叫ぶと同時に、クラウドはそう言ってマントから短剣を取りだした。

 昨日と同じものだが、よく見ると、剣には金色の宝石がついている。

 それを見て、僕ははっと思い出した。

「待って、魔物って、大魔導師の剣でしか倒せないんじゃ……」

「うるさい、黙って見てろ」

 クラウドはそう言って、魔物に向かって走り出す。

 魔物がクラウドの足音に気がついたとき、彼は勢いよく地面を蹴って、

「サンダーボルト!」

 バチンッ!!

 クラウドが剣を振ると、眩い光が現れ、魔物に衝撃を与えた。

 すごい、まるで小さな雷だ……!

「フシィイイ!」

 魔物の毛や髭が大きく焦げる。

 クラウドは一度、体勢を立て直し――。

 キラリ、金色の宝石が強く光った。

「オラァっ!」

 ドスッ、剣が魔物の腹に突き刺さる。

 魔物は動きを止め、そして、

「フシャァ、ァ……」

 霧になって、姿を消した。

 魔物がいた場所には、ただ石ころがあるだけだった。

 ……やった……。

「やったねクラウド! 魔物を倒したんだ!!」

「お兄ちゃん、すごいや!」

「まあ、大した子ね」

 叫ぶ僕の隣で、セリアは喜び、おばさんも笑みを浮かべていた。

 クラウドはちょっと笑って――すとん、膝をついた。

「……クラウド?」

 不思議に思って、彼の元に駆け寄る。

 クラウドは手も地面につき、肩で息をしていた。

 顔色が悪いし、目が虚ろだ。

「大丈夫?!」

「……っ、べつに……、」

 体を支えようとしたが、クラウドは僕の手をはね除けた。

 しかしそのままくらり、後ろに倒れ、

「おっと!」

 近くにいたナイロさんが、慌てて彼を支えた。

「君、大丈夫か? 怪我でも――」

「魔力を使いすぎたのですよ」

 突然降ってきた声に、僕とナイロさんは顔をあげた。

 そこには黒いローブを着た、黒い髪の少年がいた。

 少年はフッと微笑み、

「心配ありませんよ、じきに回復します。――魔力が少ない“低能な”魔導師によくあることです」

 彼の、真っ直ぐに切り揃えた前髪が揺れた。

 ……ていのう?

 聞きなれない言葉に首をかしげていると、クラウドがピクリと動いた。

「っ……、聞こえてるぞ、フォーレス!」

「え? 何?」

 フォーレス、と呼ばれた彼は、身を屈めクラウドを見下ろした。

「く……っ」

 クラウドは立ち上がろうとしたけれど、まだ体調がよくないようで、目を閉じてしまった。

 フォーレスは呆れたようにため息をついてから、僕の方をちらりとみた。

 そして、少し眉を潜め、クラウドと見比べた。

「君は……クラウドの連れなのか?」

「うん、そうだよ。けど、兄弟とかじゃないよ」

 髪と目の色を見ていたから、先回りして、否定をする。

 フォーレスもそう思っていたようで、彼は「ふん」と鼻を鳴らし、

「こんなヤツと一緒にいるなんて、物好きだな」

「そういう言い方はよくないよ。まるでクラウドが悪いみたいじゃないか」

 そう言ったのに、フォーレスは反省する様子もなく、冷たく僕を見て笑った。

「……僕は、クラウドとは学生時代からの知り合いだ。だから彼のことも、よく知っている」

 フォーレスは僕と目線を合わせ、その濃い緑の目で僕を見つめ、囁いた。

「君は知らないようだから、教えてあげるよ。彼は――」

「失せろ」

 低い声が聞こえて、見ると、クラウドがフォーレスのローブを強く掴んでいた。

 彼の右目は、鋭く彼を睨んでいた。

「ああ、元気になったのか、よかったな」

 フォーレスはクラウドの手を無理矢理離すと、立ち上がった。 

「僕はティーク様に呼ばれているから、もう行く。――『魔宝石』、ちゃんと回収しておけよ」

 クラウドにそれだけ言うと、フォーレスはその場を立ち去った。

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