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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 町外れの村
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町外れの村

 日が高く昇り、町の通りには朝と比べて人の姿が多く見られた。

 やはりこの地方には、僕と同じ緑の目の人が多いなぁ。

 そう思いながら……隣のクラウドをちらりと見た。

「ねえ、また僕についてくるの?」

「都の平和のためだ」

 クラウドはよくわからないことを言ってから、歩きながら黒のマントを着直した。

 僕も、ルリーからもらった帽子を被り直す。

 暖かい天気なので緑のマントは置いてきたが、この帽子はしっかり被ってきた。

 あとお風呂も入ってきた。

 クラウドは僕の少し湿った髪に気がついたのか、呆れたように言った。

「朝から風呂入るなんて、変なやつだな……」

「えーっ! お風呂には朝晩二回入るのが常識でしょ?!」

「貴族かよ!! って、ああ、貴族だったな」

「えっ……クラウドは、そんなにお風呂に入らないの……?」

「そういう言い方はよせ。……って、おい何ちょっと距離とってんだよ! オレだって毎日シャワー浴びてるからな!!」

 ばれた、怒られた。

 再びクラウドの隣に戻ると、彼は前を向いたまま、別のことを言った。

「それよりお前、気にならないのか?」

「何を?」

「……ああ、貴族だからか」

 …………?

 一体何が、と聞こうとしたとき、「今からどこに行くつもりだ?」と先に尋ねられた。

 うーん、後で聞くことにしよう。

 僕は地図を取り出し、

「郊外の北側だよ。養鶏が盛んだって聞いたから、どんなところか見てみたくて」

 言ってみれば、リグと話す時間までの暇つぶしだ。

「食べてみたいの間違いだろ」

「は、えぇ? べっ、別にぃ? そういう訳じゃないし~」

「分かりやすいなお前。……村はこっちだ」

 クラウドはそう言って、僕より一歩前を歩いた。

 彼の黒いマントがはためく。

 その背中を見るのは、今日で二度目だった。


『オレはみなしごだ』

 クラウドはそう言った後、すぐに椅子から立ち上がった。

「時間だ。じいさんのところへ行ってくる」

「……え」

 目も合わせず、テーブルを離れるクラウド。

 僕は、初めは何故だかわからなかった。

 嫌いなはずの僕に生い立ちを口にした理由も、すぐに去ってしまった訳も……。

 けれど、前髪に隠れたクラウドのその目が、何も映していないことに気がついて――僕はハッとした。

 教会の扉に手をかけた彼の背中に、立ち上がって叫んだ。

「僕、貴族だけど、家柄とかで人を決めてないから!」

 彼の手が、ぴたりと止まる。

「あと……色々教えてくれて、ありがとう」

 そして、照れくさかったけど、ずっと言いそびれていたことも付け加えた。

 あのとき、クラウドに偶然会わなかったら……僕は、ここまで辿り着けなかったかもしれない。

 また、沈黙の時が流れる。

 ……暫くしてクラウドは、扉の方を向いたまま呟いた。

「ばーか」

 しかし、彼の口元は確かに笑っていた。


 何十分か歩くと、だんだん家がまばらに並ぶようになり、舗装された道には草花の数が増えていった。

 そして、『都』と書かれた看板を通りすぎると、そこにはどこまでも続くような草原が広がっていた。

「翠の都って、きっとこの景色からついた名前なんだろうね」

 言うと、クラウドも「そうだろうな」と呟いた。


 着いたのは、畑と家がぽつぽつと並ぶのどかな村だった。

 翠の都から見て北、つまり王の都側に位置している。

 僕は寝ていたからわからないけど、おそらく馬車でも近くを通ったはずだ。

「結構歩いたね。休憩しようか」

「ああ」

 近くに木の長椅子を見つけたので、クラウドと並んで腰掛けた。

 ぽかぽかした春先の陽気と、肌を撫でるそよ風が心地よい。

 目の前の畑では、おばさんがキャベツを収穫している。

(のどかだなぁ……)

 あくびをしながら、なんとなくそれを眺めていた、そのときだった。

 突然、どこかで甲高い叫び声が聞こえた。

「……何?!」

「人の声か?」

 僕は目を覚まし、クラウドは冷静に辺りを見回す。

 すると、民家の裏から一人の女の子が走ってきた。

 畑にいたおばさんはそれに気がつき、キャベツを地面においた。

「セリア? どうかしたの?」

「ああ、母さん……!」

 セリアと呼ばれた女の子は、肩で息をしながら、

「広場の方に、また魔物が出てきて……! なのに、他に誰もいないんだ!」

 魔物という言葉に、思わずクラウドの方を振り向いた。

 彼は、真剣な表情で話に耳を傾けている。

 おばさんは驚き、土で汚れた手を布で拭いた。

「なんですって! 作物が襲われる前に、早く魔導師様をお呼びしなければ……!」

 魔導師……。

 もう一度彼を見ると、彼もこちらを見ていた。

 クラウドはニヤリと笑い、

「昨日のオレの言葉、おぼえてるか?」

 それを聞いて、昨夜の彼の声が蘇った。

『――俺ならすぐ、魔物を黙らせることはできる。だが、その代わり、お前にかけられた呪いの話……詳しく教えろ』

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