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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
02 翠の大魔導師
31/56

王子の買い物

「――貴族って、怖いな……」

 椅子に体を預けるようにもたれたクラウドが、ぽつりと呟いた。

 ここは教会の庭。

 整えられた緑の芝生に、小さな噴水、お洒落な白いテーブルと、椅子が二脚置いてある。

「クラウド、なんでそんなに疲れてるの?」

 僕はもうひとつの椅子に座り、パンをちぎって食べながら、正面の彼を見つめる。

 するとクラウドは、バン!と強くテーブルを叩き、

「てめーのせいだよ!」

 そう叫んで、すごい剣幕で僕を見た。

 なんだ、元気じゃないか。

 クラウドに怒鳴られるのも慣れてしまったので、無視してパンを食べ続ける。

 食べながら僕は、このパンを買うまでの、つい十分前のことを思い出していた――。


「――ぼんぼんの癖に買い物なんかできるのかよ」

「馬鹿にしないでよ」

 あの後、クラウドは結局、僕の買い物に着いてきた。

 そうして僕らは、持ってきた街の地図と、認めたくないけどクラウドの助言を参考に、『Bakery(パン屋)』という文字とパンの絵が描いてある、茶色いドアの前に辿り着いた。

 こんこん、とドアをノックする。

 けれど返事はない。

 クラウドを振り返る。

「開いてないのかな?」

「お前バカなのか?」

 クラウドは横から手を伸ばし、ドアのぶを回した。

 それを見て僕は驚いた。

「勝手に入ったらダメだよ」

「……それはギャグで言ってるのか?」

 止める僕を無視して、クラウドがドアを開けた。

 チリンチリンとベルが鳴り、店の中から「いらっしゃいませー」という女の人の声がした。

 店の中は、ふわりとパンのいい匂いがして、見渡すと沢山のパンが棚に並べられている。

 どれも美味しそうで、心が踊った。

「こんにちは。僕、パンを買いに来たんだけど――」

 カウンターの前に立っているお姉さんにそう挨拶すると、クラウドにがっと腕を捕まれ、すごい勢いで店の隅まで引っ張られた。

「何?」

 迷惑そうにクラウドを見上げると、彼は何か色々言いたい気持ちをぐっと堪えるような表情をした後、自分を落ち着かせるように「はあ」と息をついた。

「あのさ……もしかしてルーク、パン屋に来るのは初めてなのか?」

「うん? そうだよ」

 というより、街で何かを買うのはこれが初めてだ。

 そう言うとクラウドは、頭を抱えた。

「どうしたの?」

「いや……」

 クラウドは目を瞑り、暫くそうした後……不意に、僕の肩を掴んだ。

「ルーク。この店では全部、オレの言う通りに行動しろ」

「え、やだよ。なんで君の言うこと聞かなきゃいけないの? 一人でできるよ」

 クラウドの手を払い除けて、パンの並べてある棚を見る。

 そうして欲しいパンに手を伸ばすと、今度は襟を捕まれ、それを阻止された。

「バカ、このッ――いいか!」

 クラウドはそう言うと、大きく息を吸って――、

「まず、許可をもらわなきゃ入れない店がどこにある! パン屋に来た客がパン買いに来たことぐらいわかるだろ!! あと、これは売り物だから触ったらダメだ!! これを持って、これで挟んで、こうやって自分のとこにとるんだ!!」

「へー、そうなの?」

 渡された板に乗ったメロンパンを眺めていると、クラウドは膝から崩れ落ちた。

 どうしたのだろうか、何か病気なのだろうか。

「大丈夫?」

「お前が……ッ! お前がだなッ!!」

 クラウドはそう言って、その片目で僕をキッと睨み付けた。

 何故ここまで恨まれているのかは、よくわからないけど……クラウドの説明は正しいみたいだ。

「しょうがないな、ここでは君の言う通りにしてあげるよ」

 そう言って僕は、彼の真似をして、棚の一番上に置いてあったブドウを、板の上に乗せた。

 何故か、僕らを見ていたカウンターのお姉さんが、この上ないくらい怪訝な表情をしていた。



「何でブドウは買っちゃ行けなかったの?」

「だから……あれは売り物じゃなくて、飾りなんだよ……ニセモノだよ……」

「ふーん、だったらそう書いとけばいいのにね」

 そう言ってパンをもう一口食べる。

 クラウドはテーブルに突っ伏していた。

 噴水の水の音だけが、辺りを包む。

 静かになって、ふと、思い付いた。

「あのさ、魔法使いのいない家系に、魔法使いが生まれることってあるの?」

 リグは、僕が両親の子であるのは本当だ、と言ってくれた。

 けれど、僕の両親が魔法使いでないのも、確かだった。

 そう思って、二級魔導師である彼に、聞いてみることにしたのだ。

「いや、ない」

 クラウドはすぐに否定した。

 彼は、テーブルに突っ伏したままの状態で、話を続ける。

「両親が魔法使いなら、子供は確実に魔法使いだ。もしくは、“両親の片親”がどちらも魔法使いのとき……例えば、母方の祖父と、父方の祖母が魔法使いだったりすると、半分の確率で魔法使いが生まれる」

「なるほど……」

 でも、後者の可能性もないような気がした。

 ……本当に、『僕』は何なんだろう?

 しかしこればっかりは、クラウドに聞いてもわからないだろうから、別のことを尋ねた。

「君の両親はどっちなの?」

「……知らない」

 クラウドは顔を伏せたまま、そっけなく言った。

「オレはみなしごだ」

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