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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
02 翠の大魔導師
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優しい目

 へー……。

「じゃあクラウドって、結構すごかったんだね」

「は?」

 感心して褒めると、クラウドは怪訝そうに僕を見た。

「だって、二次試験を合格できれば、一級になれるところまで来てるってことでしょ?」

「ま、そうだけど……」

「一級魔導師なんて、王都でもそうそういないよ。二級ってそういうことだったんだ、ただ偉そうにしてるわけじゃなかったんだね」

「………………」

 真剣にそう話すと、クラウドは何も言わずにふいっと顔を反らした。

 ……そのまま沈黙。

「何? 照れてるの?」

「てっ、照れてねーし! お前みたいなのに褒められたって嬉しくねーし! ばーか!!」

 すぐに暴言が飛んできた。

 しかし顔は背けたままで、その子供っぽい仕種が彼に似合わず面白い。

 彼は出会ったときから、いつも態度が悪かったり、人を助けようとしなかったり。

 だから、根から性格が悪いんだろうな、と思っていたけど……。

(案外、ただ子供なだけなのかも)

 そう思っていると、再びこっちに顔を戻したクラウドと目が合った。

「………………」

「………………」

 そして僕がニヤニヤしていることに気が付いて、気を悪くしたらしい。

 クラウドはこっちを睨み付けながら、急に椅子から立ち上がった。

「もういい、オレは部屋に戻る。どうせじいさんも、試験を受けるには『まだ経験が足りない』、とか言うんだろうし」

「自覚があるのかね、なら話は早い」

 リグがそう言うと、クラウドはそのままの目付きで彼の方を見た。

「クラウディ、頼みたいことがある。昼頃、またこの部屋へ来ておくれ」

「……わかった」

 クラウドはそれだけ言うと、もう一回僕を睨んでから、踵を返す。

 そしてバタンと、乱暴にドアを閉めた。


 彼の足音が聞こえなくなって……、

「さて……君は、自分にかかった(まじな)いについて、わしに尋ねに来たのじゃったな?」

 リグにそう聞かれて、「はい」と頷く。

 この部屋に入ったとき、僕は真っ先にそう言った。

 そこから「とりあえず座っていなさい」と言われ、ずっと待たされていたけど……やっとその話になった。

「シルク王子」

「はい。……えっ?」

 リグに突然名前を呼ばれて……そして、そのことに目を見開く。

 僕は自分の本名や身分を、ここで名乗った覚えはない。

 思わず身を乗り出した。

「な、なんで僕が王子だと……」

「この手紙を読んだからじゃ」

 リグは綺麗な便箋をひらひらさせながら、優しく笑った。

「これは王の都にいる大魔導師、ルルードが書いたもの。手紙には、シルク王子が魔力を持っている可能性について書かれておった。そして、それを封印されていることも……」

 リグは手紙を丁寧に内ポケットにしまうと、再び僕の正面の椅子に埋もれた。

「そして、突如わしのところへ現れた、『自分にかかった呪いについて尋ねたい』という、一人の少年。――容姿からしても、その少年とシルク王子をイコールで結びつけることは容易い」

「……それなら、話は早いです」

 僕は立ち上がった。

「僕は、王家の血を継ぐ子ではないかもしれません。それなら王位を継ぐ権利はない。だったら、貴方にその封印を解いてもらって、これからは魔導師として――」

「先に言っておくがシルク殿、そなたは確実にコルク国王とマリー王妃の子じゃ」

 そう遮られ、僕は口をつぐんだ。

 リグは、優しい緑の目を細め、

「君の顔は、王妃によく似ている。目は国王陛下にそっくりじゃ。二人の子でないわけがない」

「…………」

 諭すような彼の言葉に、不思議と体の力が抜けて、再び椅子に腰を下ろした。

 そっか……僕はちゃんと、父と母の子供なんだ……。

「……よかった」

 父と母の微笑みが、頭の中で蘇る。

 僕は、僕の出生を疑われてからずっと、その事が何よりも不安だったのかもしれない……。

 急に目頭が熱くなって、慌てて目を隠す。

 それから暫く何も話せないでいると、リグの声が聞こえた。

「いやはや早い時間から、よくここまで来てくださった。ところで、朝食はもう召し上がられたかね?」

 言われてから、昨日の晩から何も食べていないことに気が付いた。

「封印の話はまた、後でゆっくり話そう。ひとまず、これで好きなパンでも買っておいで」

 そう言ってリグは、一つのコインを僕に握らせた。



「何で泣いてんだお前」

「な、泣いてないし」

 教会の入り口で、反対方向から来たクラウドとばったり会ってしまい、慌てて目を擦るはめになった。

 足を速めて歩いても、クラウドは着いてくる。

「あっ、もしかしてじいさんに、魔術師の才能がないってボロクソ言われたとか?」

「違うよ」

「まあまあ、そんな落ち込むなって」

 クラウドはぽんと、僕の肩を叩いた。

 余計なお世話だ。

 黙って歩いていると、クラウドは言った。

「オレも、いっつも言われてっから」

 思わず彼を見た。

「……どういうこと?」

「…………」

 クラウドは何も答えない。

 けれど、彼のその笑みは、いつもと違って自嘲に見えた。

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