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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
01 勇者の孫
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剣をかまえて

「はあ……居残り掃除かぁ」

 ため息をついて、空を仰ぐ。

 空には、僕の気分とは裏腹に、雲ひとつない青が澄みわたっていた。

「元気出せよ、シルク。サリー学園長先生はいじわる婆さんだって、周知の事実じゃないか」

 その声に横を見ると、一人の体格の良い男がいた。

 彼の名はストロン。

 この学校で出来た、友達の一人だ。

 ストロンはそこまで言ってはっとして、

「あっごめん……お前の婆さんだったよな」

「気にしなくていいよ。僕もいじわるババアだと思ってるし」

 そう言ってニヤッと笑うと、ストロンも同じように笑った。

 彼は僕の横に座り、

「でもさ、まだ習ってない質問を答えられるなんてすごいよ」

 ストロンの明るい茶色の髪が、風になびく。

「予習がんばってるんだなぁ」

「それは違うって、いつも言ってるじゃないか」

 感心したように言う彼に、僕はしゃがんだまま、地面の芝生をいじりながら答える。

「夢が、教えてくれるんだ」

 そう、あの森の夢が。

 あの少年の声が、求めずとも、色々なことを教えてくれる。

「……それ、シルクはいつも言うけどさあ……」

 ストロンも膝を抱え、彼の瞳と同じ色をした空を見上げた。

「信じられねえよ。やっぱ、王家は頭の作りが違うんかなー」

「……うーん。どうかな」

 曖昧に答えて、さっきむしった草を、ぱらぱらと風に散らす。

 ちなみにストロンは、この国の西を治める“アンベリー公爵”の次男だ。

 王族の僕の方が身分が高いのに、彼がフレンドリーな態度をとっているのは、僕がそうしてって頼んでいるから。

 同い年の友達に、堅苦しい敬語を話させるのは気がひけるし。

 彼も元々、そういう性格なのだろう。

 ストロンは、風に流れていく草を見送ってから、「ふあー」と伸びをして、

「まあいいや。ほら、練習しようぜ」

 そう言って立ち上がり、木剣をひとつ僕に放った。

 僕もそれをすかさずキャッチして、跳ねるように立ち上がる。


 言い忘れていたけれど、今は学校の中庭で、剣術を習う授業中だ。

 何故貴族がって思うかもしれないけれど、身分の高い人ほど、身を守る術を身に付けるのが、少なくとも僕らの大陸では常識となっている。


 そして僕の練習のパートナーが、このストロンだ。

 練習用に作られた当たってもひどい怪我をしないこの木剣を使って、実践練習をしている。


「あーっ、居眠り王子が筋肉バカとバトるらしいぜ」

「ほんとだほんとだー」

「うるせえ!!」

 ストロンが一喝すると、冷やかしていた周りのクラスメイトたちは、場を開けるため笑いながら散っていった。

 一応言っておくけど、筋肉バカは怒ってない……っていうかめっちゃ笑ってるし、僕も笑ってる。

 クラスメイトはみんな貴族であるけれど、階級はピンキリ。

 それでも温度差がない和やかな教室になったのは、僕とストロンのがんばりの結果だったりする。

「よっしゃ、かかってこい、居眠り王子!」

 木剣を構えたストロンのその声に、僕は頷き自分も木剣を握り直した。

「おっけー、脳筋!」

 芝でステップを踏み、彼に切りかかる。

 バシッと良い音がして、剣同士がぶつかり合った。

 ストロンはすかさず僕の攻撃を受け流し、

「おい! 脳筋は流石に言い過ぎだろ!」

 バシッ。

「ごめん。でもあんまり変わらないからいいでしょ?」

 バシッ、バシッ。

「よくねーよ、お前だって永眠王子~とか言われたら嫌だろ?」

 そう言って彼は一度、距離を取った。

 いやいやいや、まてまてまて。

 僕も体勢を整え、

「いやちょっと、居眠りと永眠は違いすぎるでしょ、僕死んでるじゃん」

「あっ、そっか」

 ストロンはそう納得したように呟いてから、不意にたんッと地面を勢いよく蹴った。

 バシッ!

 ストロンの重い攻撃が、僕の剣を震えさせる。

「ていうか脳筋ってどういう意味なんだ?」

「知らないで文句言ってたの?!」

 僕はストロンの剣を、勢い良く突き放した。

 以降、木のぶつかり合う音だけが響く。

 僕は自分から攻撃を仕掛けず、彼の攻撃を受け流し続けた。

 ストロンはそのことに気がつくと、にやーっと意地悪く笑い、

「ほらほら、流し続けてたら強くならねぇぞ! オラァッ!」

「うわっ」

 渾身の一撃が、僕の剣にぶつかる。

 反動で、手袋をしている両手が痺れた。

 鬼かよ。

「くそっ!」

 僕も負けずに、彼の剣を叩いた。

 彼は驚いたように少し目を見開き、

「なんだ、今日はずいぶんやる気だな」

「さっき寝たからね」

 いつもやられてばっかりじゃないんだぞ。

 そう言って、地面を強く蹴り、彼の剣に体重をかける。

「うおっ」

 ストロンがよろめいた。

 すかさず、ガードがなくなった彼に、剣を突きつける。

 静まる中庭。

「やったね、僕の勝ちだ」

 そう言って、ぽかんとしている彼の首を、木剣でこつりと叩いた。

 ストロンは、しばし硬直していたが、不意にふっと微笑んだ。

「流石――勇者の孫だ」

 彼は剣を下ろし、体勢を整える。

「油断しすぎたよ。そうだよな、もう一年もこの授業やってんだから……一回目の授業で自分の体力考えず剣振ってぶっ倒れたお前も、上手くなるよなあ」

 感心したように言うストロンに対し、僕はその場に座り込んだ。

「どうかしたのか?」

「いや、ちょっと……頭痛くて」

 まるで脳の中に何かが蠢いてるみたいに、ズキズキする。

 ていうか目眩するし……気持ち悪……。 

「あ……ちょっと待って、これヤバいやつ……」

「え?……お、おい――」

 ストロンが焦ったように何か話しているが、声は聞こえない。


 しまいに彼の姿や風景はぼやけて、目の前が真っ暗になって――、意識が途切れた。


 ちょうど、一回目の授業のときと同じように……。

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