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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
02 翠の大魔導師
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魔導師とは

 扉をそっと開けると、そこは外とは違い、豪華な装飾が施された礼拝堂があった。

 白を基調とした部屋に、礼拝用の横長の机と椅子が左右対象にいくつも並べられ、その間にある通路には赤の絨毯が敷かれている。

 ステンドグラスを通して入ってくる緑と黄色の光が、全体を優しく照らしていた。


 目的を忘れ景色に見とれていると、ふいに声をかけられた。

「礼拝にいらしたのですか?」

 振り返ると、そこには白い服を着た男の人の姿があった。

(この教会の司祭さんかな)

 その人は僕を見つめ、穏やかな声で言った。

「朝のお祈りの時間は終わってしまいましたので、次は午後の三時ですが……」

「いえ、お祈りに来たのではなくて……」

「オレの連れだ。大魔導師に会いに来たんだ」

 後ろにいたクラウドがぶっきらぼうに言った。

「ああ……そうでしたか」

 その人はちらりとクラウドを見てから、僕に向き直る。

(……あれ?)

 その男の人の視線に、少しの違和感を覚える。

「こっちだ。行くぞ」

 けれどクラウドに腕をひっぱられて、その場を離れざるを得なくなった。


「あの人、この教会の司祭さん?」

 離れの方に続く廊下を歩きながら、そう尋ねると、前にいるクラウドは「ああ」と短く答えた。

 彼の背中を見つめながら、首を捻る。

 司祭の、クラウドを見る目が少し冷たかったのは、気のせいだろうか?

 ……いや、冷たいと言うよりも――……。

(まあ、無理ないか……クラウドも素行が悪いし)

 そう納得して、クラウドの隣へ移動した。

「大人の人にはちゃんと礼儀を払わなきゃだめだよ」

「何の話だ。……おい、着いたぞ」

 もっと先へ行こうとした僕を、クラウドが引き止める。

 見ると、その白い廊下の壁に、ひとつのドアがあった。



 ドアを開けると、そこには小さな部屋と、一人の小さな老人の姿があった。

「おかえり、クラウディ。そして待っておりましたぞ、少年」

 老人は、着ているシンプルな黒のローブとともに、ふかふかの椅子に埋もれたまま、

「では改めて……わしが翠の都を守る『翠の大魔導師』。名はリグじゃ」

 老人――リグはそう言って、しわしわの顔を、さらにしわしわにさせた。


「じいさん、これ預かってきたやつ」

 クラウドがそう言って、マントの中から一つの細長い包みと、一通の手紙を取り出した。

「ほう、あの気難しい娘が手紙とな?」

 リグは包みを机の上に置いてから、嬉しそうに手紙の封を切る。

 僕は座らされた長椅子で、その様子を見ていた。

(あの包みの中身は何だろう)

 白い布に包まれて、中身が見えない。

 あの形だと、お菓子の缶ではないだろうし……。

 気になるが、尋ねるのも何だか子供っぽいので、おとなしく部屋を眺めることにした。


 リグの部屋は、同じ大魔導師の部屋でも、ルルードの部屋のようにお洒落で綺麗に飾られたものとは違っていた。

 まず目に入るのは、壁一面を覆う沢山の水槽だ。

 ひとつひとつに種類の違う生き物や植物が入っていて、近くでじっくりと見てみたくなる。

 その隣の棚を見ると、毒々しい色をした大きな蛾の標本、かえるが入ったホルマリン、変な色の液体が入ったフラスコ……等々、奇妙なものが無造作に置かれていた。

 きっとここは、リグの研究室なのだろう。

 そう考察しながらふと前を向くと、リグと目があった。

(あれ?)

 と言うより……彼がこちらを、しばらく見ていた?

 しかし、リグは何も言わずに僕から目を離し、手紙を元の形に折りたたむと、

「クラウディよ。この手紙、うっかり読んだりはしていないじゃろうな」

「なわけないだろ、興味ねーし。それより……」

 クラウドは「やっと読み終わったか」とでも言いたげな表情で、リグを見下ろして、

「オレ、これで『一級試験』受けられるか?」

「一級試験?」

 僕は思わず聞き返す。

 クラウドは僕を見て、口をへの字に曲げた。

「オレがタダで、わざわざ王都までお使いに行ってたとでも思ったのか?」

「思ってない。絶対ないと思う。けど試験って何?」

 そう聞くと、クラウドはまた、わざとらしくため息をついた。

「それでも魔導師になりに来た身かよ」

「べ、別にそういうわけじゃないし……」

「わかった、馬鹿なルークに一回だけ説明してやる」

 僕の言い分はそっちのけ、クラウドは偉そうに言葉を続けた。


「まず、『魔導師』になるには、『魔導師認定試験』ってのを受けなきゃならない。それに合格してから、ただの魔力持ち人間――『魔法使い』だったやつが、初めて『魔導師』として認められるんだ」

 クラウドは話を続けながら、僕の隣に座る。

「『魔導師認定試験』では、実力が十級から一級まで評価される。もちろん、数字が小さい方が良い……魔導師はその級を上げるために、魔導学校に入学したり、自分より上の級の魔導師に弟子入りして、魔法を学ぶんだ」

「なるほど……そこで力をつけた後、またその試験を受けたら、実力によって級が上がるんだね」

「そうだ。けど一級だけは特別で、『一級試験』って名前の“二次試験”がある。それに合格しねーと、最高級である一級にはなれない」

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