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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
02 翠の大魔導師
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真っ白な町


「おい――」

 ――誰かの声がする。

 もう起きる時間?

 けど、なんだか温かくて心地いい……まだ寝ていたい……。

「んん、メロ……あと五分……」


「起きろっつってんだ!!」

「うわっ!」


 耳元でした大声に、一気に眠気が吹っ飛んだ。

 僕の部屋――いや、馬車は、朝の光で満ちていた。

 横を見ると、ハニーと眼鏡の男の子が、立ってこちらを見ている。

 そして……あれ?

「クラウド? なんでそんな近く――」

 言いながら、自分が今まで、クラウドに寄りかかり、彼の胸に顔を埋めるようにして眠っていたことに気がついた。

「う……うわああああ!!」

 瞬時に、反対側の壁まで後ずさる。

「ば、ばか! ばかッ!!なんで君を抱き枕なんかに!!」

「…………」

 クラウドはこちらを見ず、服を整えている。

「…………」

 隣の眼鏡の男の子は場の空気を察したらしい、僕らから目をそらし、無意味に何度も眼鏡を拭いている。

「やっぱり、兄弟なんだね」

 のんびりとそう言って笑ったハニーのおかげで、場の空気が一段と重くなった。

「…………」

 何も言わないクラウドが怖い。

 そして、男の子の眼鏡がこの上なくピカピカになる程度の時が過ぎ……クラウドはちらりと僕を見て、ぶっきらぼうに言った。


「ついたぞ。――翠の都だ」



 昨夜、馬車で緑の都へ向かっていたとき、突然現れた『ネズミの魔物』。

 呼ばれた『翠の大魔導師』は、その魔物を、ひとつの緑の光線でやっつけた。

 僕は慌てて彼に駆け寄り、僕の旅の理由を言葉にしかけた。

 すると、彼は自分の白い髭をなで、興味深そうに言った。


「ほほう、わしに用があるとな? ならばクラウディと共に、都の教会へ来なされ。待っていますぞ」


 そう言って彼は、夜の闇に消えていった。

 僕は今から、その偉大な魔導師に会いに行く。



「ここが翠の都……!」

 思わず声を漏らし、辺りをくるくる見回した。


 この翠の都は、広い平野に位置している。

 そのためか、この町では家や店が、まるでチェス盤の目のように規則正しく並んでいた。

 しかも、その外装はどれも真っ白で、同じ二階建て……そっくりな景色ばかりで、気を抜いたら迷ってしまいそうだ。

 けれど、その真っ白な景色が、空の真っ青と似合っていて、とても美しい。


「はしゃぎすぎだ。一体いくつだお前は」

 クラウドの冷めた目に気がついて、慌てて前を向く。

「……十五歳だけど」

「は? オレと同い年かよ。のくせに幼稚だな」

「うるさい! 君だって十五歳にしては、礼儀が足りないと思うけど?」

 そう言って挑戦的に見上げると、彼は正面を向いたままなにも言わなかった。

「ずるいよ、すぐ無視して……」

 腹立たしいので、別のことを考える。


 ……そうそう、僕とクラウドの他に、馬車に同乗していた二人の子。

 聞いてみると、眼鏡の少年は元々翠の都の出身で、これから家に帰るんだと言っていた。

 祖母のために、王の都まで薬を買うおつかいをしていたらしい。

 一方ハニーは、兄を探しに都内を散策するのだそう。

 小さい子なので、一人なのが少し不安だけど……この町は治安がいいらしいし、大丈夫だと信じたい。


 そして僕はクラウドに着いて、都の中心にある教会へ向かっていた。

「それにしても、同じ景色ばかりなのに、よく道がわかるよね」

 僕がそう呟くと、クラウドはこちらを振り返り、

「馬鹿、よく見ろ。ドアの色と模様が違うだろ?」

 言われたとおり近くの建物を見ると、その家はドアが緑色だ。

 金色の文字で『Maryllis(マリリス)』という名字が彫ってある。

「緑のドアは民家、茶色いドアは店、山吹色のドアは公共施設だ」

 その隣の家は茶色いドア、『Bar(酒場)』という文字と、紫色の花の絵が彫ってある。

 まじまじと見ていると、クラウドに溜め息をつかれた。

「おい、止まるなルーク。置いてくぞ」

「……え?」

 聞きなれない名前を呼ばれて、首を捻る。

 するとクラウドの方が、不思議そうな顔になった。

「なんだよ、お前ルークじゃないのか?」

 言われて、昨夜馬車の中で、ハニーに自分はルークだと名乗っていたことを思い出した。

「うん、そうだよ、僕はルーク」

 白々しく肯定してから、ふと、僕も気になっていたことを口にした。

「クラウドも、大魔導師に『クラウディ』って言われてたけど、あれはあだ名なの? 僕もそう呼んだ方がいい?」

 そう言うと、クラウドは一度、何かを考えるかのように口を閉じた。

「……いや。そのままでいい」

 しかし、何でもないようにそう言って、前を向き直った。

 ……少しの間が気になる。

 けれどその疑問は、

「ほら、ここだ。じいさんの家」

 現れた豪華な教会を目にして、僕の頭から消えた。

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