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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
05 王子の決心
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真っ赤な魔法陣


「な……何これ」

 声が震える。

 ルルードさんがこんなことをしたの?

 王の都を守る、大魔導師であるはずなのに!

 僕の目に気がついたのか、ルルードは「私がつけたものではありません」と首をふった。

「見てください……紋章はもう消えています」

 鏡を見ると、確かに紋章は消えて、赤いアザがあるだけだった。

「隠されていた魔術の紋章を、私の魔法で再び浮かび上がらせただけなのです……」

「魔術の、紋章?」

 頭に浮かぶのはハテナばかり。

 一体、僕の背中になぜ、魔術の紋章が?

「それは……それは何者かが、貴方の魔力を封じようとしたため……」

 …………魔力?

 それを聞いて、ちょっと笑ってしまった。

「僕に魔力なんてありませんよ。だって僕は、普通の――」

 しかし、ルルードはまた、首を横にふった。

「いいえ……貴方は、普通の人間ではありません……」

 静かなほこりっぽい部屋に、透き通った彼女の声が響いた。


「シルク王子は、魔法使いです」

 

(僕が、魔法使い?)

 時が、止まってしまったように感じた。

 しかしルルードの声は、静かに流れ続ける。

「教会の地下室で、私がシルク王子に触れたとき……強い衝撃波がありました」

 そう言われて、昨日見たあの橙色の閃光をぼんやりと思い出した。

「あれは、体内に魔力を溜めた魔法使い同士が接触したとき、誘導された違う属性の魔力が、反発して起こるもの……」

「だから私は、あのときの『シルク王子』を偽物だと思った。何故なら――」

「違う」

 アイルス王子の言いかけた言葉を、僕は遮った。

 この事柄の重大性に、ついに気がついてしまったから。

 アイルス王子はまた口を開こうとしたが、僕は首を横に振ってそれを拒否した。

「違います、僕が……僕が魔法使いのわけ、ありません……!」

 言葉がつっかえて、声がかすれる。


 ――だって、魔法使いのいない家系に、魔力を持った者が生まれるはずはないのだから。

 僕の両親も、そのまた両親にも、魔法使いは一人もいない。


 だから僕が魔法使いだとしたら……僕は『レインルインの跡取り』でも、『勇者の孫』でもなくなってしまう。


 それなら『僕』は、――いったい誰?


「真実はともかく……シルク王子にかけられた魔術は、まだ解けていません……」

 ルルードの声が、どこか遠くから聞こえているような気がした。

「紋章が複雑過ぎて、私には解くことができないのです……魔法陣に詳しい『緑の大魔導師』なら、きっと解けるはずですが……」

 大魔導師の呟きをぼんやりと聞きながら歩いていると、いつの間にか自室のある塔の入り口に来ていた。

 ルルードは僕の肩から手を離し、

「何かあれば、塔にいらしてください……私はいつもそこにいます」

「私は明日、自国に帰るが」

 アイルス王子は少し微笑み、けれど真剣な目で僕を見る。

「帰国後も魔法使いの生まれについて、自分なりに調べるつもりだ。……疑って悪かった」

 そう言って少し頭を下げる彼に、気にしてないですよ、ありがとうございます、と、僕は言った。

 上手く笑えたかどうかは、わからない。


 ぱたりと扉を閉めると、急に静寂が訪れる。

 冷たい廊下の床に一人、座り込んだ。


 ――欠けた実力、結婚の進行、さらに浮かんだ出生の疑惑。

 どう解決すれば良いのか、わからないことばかりが、ぐるぐると頭を廻る。


 いつの間にか、日は沈んでいて。

 ふと、

「あ、」

 気がついた。


 王子なのに、人を守れるほど強くなくて。

 王子だから、友の恋人と結婚を強要されて。

 王子でないかもしれないのに、王子を名乗っていて。


 そんな僕は、

「つまり僕は」

 国のために、友のために、


「王子をやめるべきだ」

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