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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
05 王子の決心
18/56

目が覚めるような話

   ☆


 物音に目が覚めて体を起こすと、薄暗い部屋には既に、カーテンの隙間から夕日が射していた。

 額から何かがするりと落ちたのを感じ、手元を見る。

 それは濡れた布。

 そうだ、確かクロアが看病してくれて――

「……ん? クロア?」

 違和感に気づき、誰もいない部屋で呟く。

 いや、ここは『碧の都』の俺の実家じゃない、王都の男子寮だ。

 あれ、おかしいな……クロアの声が聞こえていた気がしたんだけど。

 まだぼーっとする頭で、宙を見つめながら考える。

 すると、また大きく、窓を叩く音が聞こえた。

 …………窓?

 寝台から降りて、窓のカーテンを開ける。

「やっほーストロン」

 窓の向こうで、ルリーが平然と手を振っていた。

「やっほー。あのさあ、ここ三階だよな」

「細かいことは気にしないの。入れて入れて」

 どうやら目の前にある木をつたって、ここまで来たらしい。

 その身体能力に感心しながら、窓を開けてルリーを部屋に入れる。

 今日のルリーは、丈の短いズボンを履いて茶色のキャスケット帽をかぶり、腰までの長さの緑のマントを羽織っていた。

 まるで冒険者のような格好だ。

 ルリーは訝しげに俺を見て、

「あれ、あなたなんで寝間着なの?」

「え? うわっごめん」

 ルリーの服装を気にしている場合ではなかった。

 上下苺柄の寝間着に恥じながら、

「実はちょっと風邪ひいちゃって……今日は学校も休んでてさ……」

「えー大丈夫? 熱あるの?」

 ルリーは心配そうに見上げる。

 俺は大袈裟に笑って、

「大丈夫大丈夫、寝たらだいぶよくなったし。けどあんまり近づくなよ、うつるかもしれないからな……それより、ルリーはなんでここに?」

 しかも窓から。

 そう聞くと、ルリーは相変わらずの笑みを浮かべ、

「どうしてもすぐにストロンに教えたいことがあって。けど男子寮は女子禁制だから、普通に来ても入れてもらえないでしょ? だから部屋の場所を調べて窓から入ってきたの」

「マジで? すげーな」

 そう言うとルリーは「でしょでしょ」と得意気に胸をそらした。

「それで、教えたいことって?」

 ベッドに座ると、ルリーも隣に腰かける。

 そこでふと、部屋が心なしか片付いていることに気がついた。

 そうだ、医務室の先生が来て、看病のついでにきれいにしてくれたような……。

「ストロンは知ってる? ウェーデル侯爵家のモモって子。私たちと同級生で、黒髪の」

「ん? ああ、知ってる知ってる」

 というか、昨日知ったんだけどな。

 俺は、女の子の名前とかあんまり興味がなくてすぐ忘れちゃうから、タイミングの良い話題だ。

 しかしその次の言葉は、まさに寝耳に水だった。

「その子ね、結婚するらしいの」

「…………んん?」

 わけが分からなすぎて、思わず笑いが出る。

 確かそのモモ嬢は今日、アルトとデートに出掛けていたはずで……。

 なんだよアルト気早すぎかよ、俺が寝ている数時間に一体何があったっていうんだ。

 ええ、友達の結婚祝いって、何あげたらいいんだろう……両親に手紙で聞かないと……あとそうだ、式のときの服、昨日のパーティで着ていったようなのでいいのか?

 というか、あの『翠の都』を治めるウェーデル侯爵の娘と、『王の右腕』とも呼ばれる優秀な大臣の息子の結婚式なら、うちの家族も招待されるんじゃないか?

 どうなんだろう、両親はともかく兄弟たちは招待されても……。

「お城でそう話してるの、探検中にこっそり聞いちゃったの」

 俺が先走ってぐるぐる考えている間に、ルリーは楽しそうに付け加えた。

「へー、二人とも城にいるのか。……というかそれ、両親の了承はもうあったのか?」

 やっと気分が落ち着いて、冷静になる。

 そうだ、アルトはともかく、モモは侯爵家の娘、口約束だけでは結婚できない。

「ん……? ああ、そうね、ウェーデル侯爵は以前から『ぜひうちの娘を!』って推していたわ。ウザったいくらいに」

「なんだ、じゃあ別に付き合わなくたって、結婚できたんじゃん」

 そういって笑うと、ルリーは驚いた顔をした。

「え、付き合ってる? 二人って付き合ってたの?」

「そうだよ、まあ知らないことも無理ないな。だってアルトが告白したのは昨日だから」

 そう答えると、ルリーは不思議そうに首をかしげた。

「どうしてアルトが出てくるの? ていうか、アルトって誰だっけ?」

「……えっ?」

 ルリーの言葉に、俺も眉を潜める。

 そこで、どうも話が噛み合っていないことに気がついた。

「ルリー、さっきからモモと誰の結婚の話をしてるんだ?」

「そっちこそ何言ってるのよ。結婚の話と言えば、王子の縁談に決まっているじゃない」

「王子? 隣国の?」

 おかしいなあ、アイルス王子は昨日酔っぱらったアルトを見て、俺と一緒に笑ってたはずだけど。

 誠実な人みたいだし、裏切るようには見えない。

「ああ、ごめんなさい、その人も今この国にいたわね。けれど私が言ってるのは、私たちの国の王子よ」

「私たちの国の王子……?」

 バカみたいに聞き返すと、ルリーはちょっと軽蔑の目で俺をみた。

「あなたほんとに風邪ひいてるのね。私たちの国の王子、一人しかいないでしょ?」

「…………えっ」

 その言葉で、全て理解した。

 と同時に、とても信じられなかった。


「シルクが……結婚?」


 しかも、友達の恋人と?

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