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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
04 王国の宝物
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授かった道

 綺麗に真っ二つになったグラスを見て、さあっと血の気がひく。

 冷水を頭から突然被せられたような感覚が走り、かっかしていたのが一気に冷えた。

「うそ…………」

 下には絨毯があったはずなのだが、このグラスは薄く、とても壊れやすいものであったみたいだ。

 いったい、このグラスの価値は?

 もし、大事な儀式で使うものだったら……。

 とにかくわかっているのは、僕は自分の国の国宝を一つ、自分の手で台無しにしてしまったということだ。

(……最悪だ)

 しかし、もっと最悪なのは……。

「またやりましたね、シルク」

 それは、自分と一番相性の合わないこの人に、この失敗を見られたことだ。

 僕が怯えながらお婆様の顔を伺うと、お婆様は今までで一番、険しい表情をしていた。

「貴方は今までにも、教会のガラスを割ったり、王妃のドレスを汚したり、とんでもない失敗をしてきましたね」

 お婆様は淡々と、静かな声で続けた。

「このような失敗を繰り返すならば、私たちも貴方が王家を継ぐことを考え直さなくてはなりません」

 お婆様の言葉が、グサグサと胸に突き刺さる。

「……ごめんなさい」

 前々から、自分がたまに変な失敗をしてしまうことは、よく自覚していた。

 確かにこんな僕が王様になったら、国がめちゃくちゃになっちゃうかもしれない。

 それにアイルス王子にだって、失望されたし。

 夢の中の彼にだって、向いてないって言われたし。


 ……けど。

「けど、僕はこの国でたった一人の王子です」

 僕の声が、静かに反響する。

「由緒正しき王族レイン家と、偉大な勇者の血をどちらも継いでいるのは、この僕だけです!」


 そう、僕にはこの国唯一の、この絶対的な『肩書き』がある。

 だから今までも、今はどんくさくておっちょこちょいな役立たずでも、沢山努力して立派な王様になろうと思えた。

 それは、僕のたったひとつの、決して譲れない思いだった。

 服を翻し、その場に跪く。

「癇癪を起こしてグラスを割ってしまったことは、本当にごめんなさい。罪は必ず償います。けど――この国は僕に守らせてください!」

 その言葉は、部屋に大きく響きわたった。


 お互い無言で視線をぶつけた後、僕の熱意に負けたのか、お婆様はため息混じりに呟いた。

「……揺らぎませんね」

 それを聞き返す前に、お婆様は言葉を放った。

「わかりました。貴方の考えはよくわかりました」

 お婆様はまた、ため息をつくように、

「そう、レイン家の子孫であり、勇者の孫である貴方は、生まれたときから王に値する絶対的な地位を持っています。それだけで貴方に続く臣下は大勢いるでしょう」

 そこまで言って、お婆様は僕に起立を命じた。

 そして僕が立ち上がったとき、彼女は間髪を入れずにこう言った。


「なら、結婚しましょう」


 …………長い沈黙が部屋を包む。


「………………は?」


 僕がやっと音に出せた言葉は、この言葉にならない一文字だった。

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