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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
04 王国の宝物
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壊れた音

「最近、情緒不安定じゃないか?」

 夢の中の少年が、夢の中で語りかける。

 しかし彼の言葉には答えず、別のことをたずねた。

「昨日の夜は、話しに来てくれなかったね」

 ふてくされて、足元を見つめる。

 昨日こそ、君の慰めが必要だったのに……。

 しかし、彼からの返事はなかった。

 ただ、強い風で、木の葉がざわめいただけだった。

 返答を諦めてため息をつき、

「お茶の時間が終わったら、昨日お預けになってた、お婆様の手伝いをしなきゃいけないんだ。めんどくさいなぁ」

 それまで、自室に戻って仮眠をとることにして、こうしてまた夢の中の森に来てしまったわけだ。

 だって、今日のお茶会には出たくないから。

 ……隣国の王子様が、いるから。

 草の上でごろごろしていると、彼はぽつりと呟いた。

「考えていたんだ」

「んー? 何?」

 気の抜けた声で聞き返したが、返ってきたのはいつになく真剣な声だった。

「僕は今まで、君を素晴らしい王様にしようと、手を尽くした来た……けど、それは間違いだったかもしれないんだ」

 ざあっと、木の葉がざわめいた。

 …………間違い?

「どういうこと?」

 不安が、風とともに僕を襲う。

 そして次の彼の言葉は、はっきりと耳に届いた。


「やはり君は、王子として生まれてくるべきではなかったのかもしれない」


 ざわざわ。

 風が髪をなびかせる。

 彼の予想外の発言に、返す言葉がでてこなかった。

「どちらが正しいのかわからない……けれど君が王位を継ぐことを降りれば、世界は救われるかもしれない」

「……君も失望したの?」

 体を起こし、彼がいるはずの空に向かって問う。

 木の葉の擦れる音がうるさい。

「僕に才能がないから?」

「違う! そうじゃない! そういう意味じゃ……」

「そういうことだろ?! もういいよ!」

 回りの音をかき消すように叫ぶ。


 そこで、夢から覚めた。



「シルク、何をふてくされているのですか」

「何でもありません」

 いつもより声のトーンが低いのが自分でもわかる。

 今僕と、さっきからこっちを冷たい目で見てくる僕のお婆様は、二人きりで国の宝物庫にいた。


 城の四階に作られたその円形の部屋には、鮮やかな色の絨毯が敷かれ、そこに大理石で造られた台がいくつか置かれている。

 その上に、触ることさえもためらわせるような、この国の重宝である陶器や装飾品が並んでいた。

 壁にも大きな鏡や絵画が飾られていて、その数々の宝物は、天井の大きな窓から入ってきた光を受け止め、より一層きらきらと輝いている。


 なぜ僕がここにいるのかというと、この前の居残り掃除の代わりに、この部屋の掃除を頼まれたからだ。

 王子の僕でさえもめったに入れないところで、普段は少し入れただけでもとても嬉しいんだけど……全然テンションが上がらない。

 むしろ、今年最悪。

 お婆様は呆れたように、

「そんな様子では、一国の王はつとまりませんよ。貴方のお父様をよく見ることです、あの方はどんなときも笑顔で……」

「はいはい、わかりました」

 目を合わせず、やけくそのように答える。

 するとお婆様は、目を見開き、

「まあ、その態度はなんです?! 年上に向かってなんと無礼な! 隣国のアイルス王子を見習ったらどうですか!」

 非難するように放たれた言葉。

 その中に今一番聞きたくない名前を言われて、ついカッとなった。

「いちいちうるさいな! 黙れよ!」

 やけになって、持っていた雑巾を、目の前のそいつに勢いよく投げつけた。

 しかしそれは、全然違う方向に飛んでいき、

 パリン。

「…………え」

 布は、小さなテーブルに置いてあった、小さなグラスを倒した。

 それは床に落ち、簡単に割れた。

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