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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 聖堂の魔物
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冷えた夜のよう

「おい、アルト」

「うわああああ?!?!」

 突然肩を叩かれ、思わず声を上げて飛び上がった。

 急いで振り返ると、そこにはストロンの姿があった。

 ストロンも僕の声に驚いたようで、目を丸くさせながら、

「な、なんだよ?! てっきりまたぶちぶちお説教しに来たのかと思ったら、俺の目の前を通りすぎていくからさぁ!ちょっと肩叩いただけなのに、化け物に遭遇したみたいな反応しやがって! こっちがビックリするじゃんか!」

「……正直君の怪力は化け物並みだと思うけど」

 今日の昼、保健室で軽々自分を持ち上げられたことを思い出しながら呟く。

 そして、先程から気になっていた、塀に座っている女の子をちらりと見上げた。

「そちらの方は……ご親戚ですか?お友達?」

「友達友達! ……まあ、うちの家とレイン家は、一応親戚だけどな」

「……レイン家?」

 もう一度、女の子を改めて見直す。

 金と銀の混ざった、珍しい綺麗な長い髪。

 そして夜のような青をした、大きな瞳。

 ……もしかして、

「ルリー姫様、ですか?! 王妃の腹違いの弟君様と、銀の都の領主・シュエリー家長女の娘様の?!」

「あら、ストロンと違って物知りなのね?」

 ルリー姫はいたずらっ子のように笑み、そして、塀の上から飛び降りた。

「わっ、危な……っ?!」

 慌てて駆け寄ろうとしたが、その前に彼女は華麗に芝生へと着地した。

 まるで、猫みたいだ……。

 驚いている僕を気にとめず、ルリー姫は何食わぬ顔で髪をはらい、

「貴方が、さっき聖堂の中にいた、ストロンの友達?」

「そうですけど……危ないですよ! こんなところから飛び降りるなんて! 貴女、お姫様でしょう?!」

 足を怪我したりしたら大変だ。

 そう思って怒ると、ルリー姫は途端に笑みを消した。

「……私、今日は遅いからもう帰る。また会いましょうね、ストロン」

 そう言うと彼女は僕の横をすり抜け、城の方へ早足で歩いていった。

 えっ、感じ悪……。

 それとも僕が何か怒らせてしまったのだろうか?

「ねえストロン、」

「へっくしゅん!」

 ストロンは大きなくしゃみをした。

「うー、寒……アルト、俺の上着は?」

「え? あ、ありますよ。侍女に預けてきました」

「マジかよ……風邪ひくかも」

「なんとかは風邪ひかないらしいですから大丈夫ですよ」

「なんとかってなんだよ! まあ知ってるけど! 俺は違うからな!」

 それをスルーしてから、

「とにかく僕たちも城へ戻りましょう。なんでかルリー姫も行っちゃったし……」

「……お前は悪くないよ」

 え?

 ストロンの言葉が気にかかり、彼を見上げる。

 しかしそのとき彼がまたくしゃみをしてしまったので、結局聞きそびれてしまった。


   ☆


 アイルス王子が最後の魔物を倒し、ルルードがそれ消滅させ……これで僕の役目は終った。

 剣を使ったときに起こる気分の悪さは、いつの間にか消えていた。

 しかし……今度は別のもやもやが、心を埋め尽くしていた。

 地上への階段を上りながら、目の前を歩いている彼の背中を見つめる。

 思っていたより、ずっと広い。

「アイルス王子、さっきはその……」

「礼などいらない」

 アイルス王子はこちらを振り返らずに答える。

 ……僕がしたかったのは、礼なのだろうか?

 確かに、アイルス王子が最後の魔物を倒してくれたおかげで、僕の任務は完了できた。

 しかしそれは、必死になれば僕にでもできたはずだった。

 けれど……やはり助けてくれたのだから、感謝するべきなのか?

 言葉に詰まっていると、アイルス王子はまだ前を向いたまま、言葉を続けた。

「シルクの父上……国王陛下も、武術は得意でなかったな」

 ……国王陛下『も』。

「…………!」

 その一字の意味に気づいてしまい、はっとして彼を見上げた。

 そうか……アイルス王子は、僕の剣の力に……。

 同時に彼も、こちらを振り返った。

「あの勇者の孫と聞いていたからな。……しかし、私の思い込みだったようだ」

 失望……そして軽蔑。

 紫の瞳は、冷たく僕を射抜いていた。

 壁に映ったら炎の影が、静かにゆらゆらと揺れていた。

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