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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 聖堂の魔物
12/56

裏庭の密談

   ☆


 聖堂を囲む塀の上では、窓から室内の様子がよく見えた。

 部屋に比べると外は暗いため、室内の人たちはこちらに気がついていない。

 中ではシルクや国王様がなにか話し合い、そして、

「あっ、王子たち、地下室に行っちゃった……。これじゃあ私たち、何も出来ないわね」

 隣で、同じく塀の上に腰かけたルリーが、残念そうに呟く。

 俺も頷き、

「そうだな……無事戻ってくることを祈るしか」

 そう話しながら、また部屋に目を戻す。

 と、部屋にいたアルトと、目が合った。

「………………」

 俺は優しげに微笑む。

 アルトはものすごく不審な目で俺を見てきた。

 そしてすぐに彼は父に何か話すと、駆け足で部屋を出た。

「……ルリー」

「ん? なあに?」

 髪の毛を気にしている彼女は、少年が一人部屋から居なくなったことに気がついていない。

「ちょっと……友達がここに来るみたいなんだけど……」

「そうなの? 私は別に良いけど」

「……俺が良くないんだよ……」

 ため息をつき、夜空を見上げた。

 これ、絶対お小言の嵐になるぞ……。


   ☆


 まったく、何をやっているんだ、あいつは!

 僕は怒りを通り越して呆れながら、聖堂の出口の扉を開けた。

 パーティを抜け出した上、何で聖堂の塀の上にいるの?!

(国王様に見つかったらどうするの?! ちゃんと自分の立場を考えなよ!!)


 今の彼の行動は、大人になったときの彼の印象……そして、彼の家族にも影響するかもしれない。

 しかし、ストロンを教育すべきはずの彼の両親は今、この『王の都』にはいない。

 彼の実家は、海の近くにある『碧の都』だ。

 その上彼は、学園長先生たちの指導も聞かない……。

 だから、ルームメイトの僕が、しっかり教えてあげないと!


(アンベリー家は、王家の次に偉い家なのに……ストロンはなんであんななんだ)

 王子の爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか。

 そんなことを悶々と考えながら、草の地面を踏みしめる。

 先程の道ではなく、城の裏庭を通ってストロンの元へ行くつもりだった。

 大広間と廊下に四方を挟まれているのが“中庭”で、聖堂の裏側から城壁までずっと続いているのが“裏庭”だ。

 ストロンのところへ行くのは、おそらくこちらからの方が近い。

 首洗って待ってろよ。

 そう思って角を曲がると、そこには意外な人物がいた。

(あれっ、学園長先生だ)

 紺色のドレスを着た先生が、薔薇の垣根のそばにいる。

(……と、あれは誰だろう?)

 先生のわきに、フードを被った真っ黒なローブの人が一人。

 大広間でパーティがあっているためか、裏庭には二人以外の人の姿はない。

 少し離れた位置だったが、辺りが静かなので、二人の話し声は僕にも少し聞こえた。


「――思惑通り、シルク殿は魔物退治に使わせられましたか?」

「ええ。今ごろ剣術に苦戦しているはず。……魔物は弱いらしいけれど、本当に耐えられるの?」

「なに、力はたかが知れています。その前に、シルク殿は戦闘不能となるでしょう」

「これで周りも王子の無能さを理解するわ。王には嘘を教えてあるし、息子の弱さにさぞかしがっかりでしょう――」


 二人が何のことを言っているのか、内容の半分は理解できなかった。

 しかし、その半分は……。

(シルク殿……剣術……無能……)

 今の話を聞いて、浮かび上がった一つの仮説。

 僕は動揺を隠せず、急いでその場から離れた。


(――先生が王子に対して厳しいのは、王子が良い王様になってほしいからだと思ってた……)

 居眠りくらいで怒鳴り付けるのも、教室で皆に聞こえるように彼を否定するのも。

 しかし、先程の会話の意味が僕の予想と一致していたら……先生に対する見方は、百八十度変わってくる。

(先生は、王子が剣術がうまくないことを知っている……そして、魔物退治で苦戦することをわかっていたんだ)

 それなのに、王子の魔物退治を止めなかった。

 ……止められないはずはないのだ。

 先生は王立学校の学園長である前に、レイン家の血を継いだ王妃の母……サリー・レインなのだから。

 国王様も、学園長先生を尊敬している。

 しかし今の先生は……国王の息子である王子が、力不足を周りに非難されることを望んでいるようだった。


 ……これはつまり、

(先生は……シルク王子に、王位を継がせたくないの?)

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