表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 聖堂の魔物
11/56

青い蜘蛛

 階段を降りきると、一つの古い木の扉があった。

「魔物はこの向こうです」

 ルルードさんはそこで僕たちの方を振り返り、

「私と護衛も部屋に入ります。何かあればすぐに援助いたしますので、ご安心ください……」

「私も入る」

 アイルス王子も平然と言ったが、ルルードは「いえ」と否定し、

「大切な他国の王子様を、危険な場所まで入らせるわけには……扉付近でも中はご覧になれますので……」

「ふむ……そうか、残念だ」

 アイルス王子はそう呟き、扉の横にずれた。

「それでは行きましょう。シルク様、準備はよろしいですか……?」

「はい」

 微笑んで頷く。

 魔物は小さいって言われたし、ルルードさんや護衛もついているし……きっと体力がないとか言われる僕にも、簡単にやっつけられるはずだ。

 楽勝楽勝。

 そう思っていたので、扉が開かれたとき、僕は仰天した。

「ええええぇぇ?!」

 廊下や部屋に僕の声が響く。

「どうした?」

 アイルス王子が部屋を覗き、そして彼も軽く目を見開いた。


 そこにいたのは青い蜘蛛だった。

 聞いていたとおり、大きなスイカくらいの。

 問題は見た目じゃなく、その数だ。


「えっ、待って、こんなにいるなんて聞いてない!」

「そうでしたか……? けれど、大丈夫ですよ、人も食べませんし、毒も持っていませんし……無害です」

 ルルードさんはいつもの調子で言ったが、いやいやいや。

 蜘蛛は、その狭い部屋の床、壁、天井に、ざっと十匹。

 糸で巣を張ったり、天井からするすると降りてきたりしている。

 ていうか、気持ちわるっ!

 蜘蛛が嫌いなひとが見たら失神するよ。

「早く片付けてしまいましょう……王子」

「は、はい!」

 緊張しながら、剣をかまえる。

 どうしよう、僕にできるのかな……?

 そのとき、アイルス王子が言った。

「勇者の孫の実力……期待しているぞ」

 それは裏表を感じない、本心からの声だった。

 ぐっと手元の剣を握り、

「……がんばります!」

 この上ないプレッシャーを感じながら、僕は部屋へ足を踏み入れた。


 まずは、一匹。

 目の前に降りてきた蜘蛛の魔物を、ばさりと分断する。

 蜘蛛は胴体と脚が離れて動けなくなり、青色の液体を流しながら床に落ちた。

 この剣……怖いくらいに、切れ味が良い。

「流石です、王子……」

 動けない魔物に、ルルードさんがその『大魔導師の剣』で、とどめをさす。

 金色の光を帯びたその剣が触れると、瞬時に魔物は消滅した。

 おそらくこの金色のものが、『魔法』なのだろう。


 そのような感じで、二匹、三匹、四匹……。

 少し気分の悪さを感じながらも、ルルードさんと一緒に、順調に魔物を斬っていく。

 不快なのは、魔物のせいではない。

 学校の剣術の授業と、同じような感覚だった。


 そして七匹目を倒したところで、とうとう頭痛と吐き気に耐えられなくなった。

「……うっ」

「お、王子?! 大丈夫ですか?!」

 胸をおさえ膝をついた僕に、視界の端でルルードさんと護衛の二人が駆け寄るのが見えた。 

 大丈夫、ちょっと疲れただけだから。

 そう言って安心させようとしても、気持ちが悪くて、口を開くことができない。

 そのとき、するすると蜘蛛が僕らの前に降りてきた。

「てっ、手助けいたします!」

 護衛の一人が剣を抜き、蜘蛛を斬る。

 すかさずルルードさんが、魔法の剣で魔物を消滅させた。

「八匹目……」

「では、今度は私が!」

 もう一人の護衛が、近づいてきた蜘蛛を斬り、ルルードさんがまたとどめをさした。

「これで、九匹目!」

「あと一匹だ!」

「さあ、王子……最後ですよ」

 ルルードさんがいたわるような目で、僕にてをさしのべた。

 あと、一匹。

 気持ちの悪さを飲み込んで、剣を掴み直し、彼女の手に触れたそのとき――。


 ――バチィッ!


 僕とルルードさんの間に、何か、電気のようなものがはしった。

 静電気なんかより、ずっと強い何か。

 それは橙色に光り、暗かった部屋を一瞬、昼間のように明るくさせた。

 い……今のは、一体……?

 護衛の二人は驚いて僕らを見つめ、しかし一番動揺していたのは、なんとルルードさんだった。

「そんな……そんな、まさか……」

 目を見開き、僕を見つめる。

 その金色の瞳には……何故だか、恐怖の色が宿っていた。

 そうして僕らが、ただただ呆然としていたとき。

 バサリ、何かが落ちる音がした。

 音の方へ振り向くと、そこには、床で青色の液体を流しながら痙攣している魔物と、

「十匹目だ」

 アイルス王子が、それを見下ろして立っていた。

 僕の剣を持って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ