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シルク王子の冒険  作者: 水深 彗
03 聖堂の魔物
10/56

金の大魔導師


   ☆


 聖堂は薄暗く、どこか神秘的な空気を放っていた。

 壁には美しいステンドグラスが、月の光を受けて輝いている。

 ……そういえば昔、中庭でボール遊びをしていたら、うっかりここガラスを割ったんだよね……あれは悪いことをした。

「地下室への入り口はこちらです」

 司祭は右の道を示し、一同はそれに従った。


 着いたのは、窓が一つしかない小さな部屋だった。

 そこには黒いローブを着た、一人の若い女性がいた。

 彼女は、金色と茶色の混ざった、少しくるくるしている髪を揺らし、

「お久しぶりです、陛下……。はじめまして、皆様……」

 囁くような声だったが、はっきりと耳に届いた。

「私はこの王都を護る大魔導師、『金の大魔導師』と呼ばれている者です……名は、ルルードと申します……」

 ルルードさんが深くお辞儀をすると、ローブについたたくさんの飾りが、しゃららと音をたてた。

「大魔導師……」

「なるほど……あなたが」

 ライトモンド伯爵とアルトが呟きを漏らす。

(……『金の大魔導師』)

 彼女はたしかにそう言った。


 大魔導師は、魔導師の中の最高位。

 この国にある四つの大きな都を、一人ひとつ守る使命を与えられている。

 つまり大魔導師は、この国でたったの四人しかいない。

 ということはこのルルードさんは、この国の何千といる魔導師の中で、少なくとも上位四番目以内の実力者であるということ……。

 要するにとってもすごい人なのだ。

 そう、今、僕はとってもすごい人と対面している……。

 このときの僕は、自分がこの国でたった一人しかいない王家の跡取りだということを、完璧に忘れている。


「この度はシルク様のお手伝いをするべく、久々に地上に降りて参りました……」

「彼女はいつも、この城で最も高い二つの塔のうち一つに住んでいるんだ。半年ぶりかな、会えて嬉しいよ」

「ありがとうございます……。陛下もお元気そうで、なによりです……」

 そう言って、父とルルードさんは握手を交わす。

 それが終わると、ルルードさんは皆の方、特に僕とアイルス王子を見比べ、

「あの……王子様はどなたで……?」

 それに対して、父は声を立てて笑った。

「そうだなあ、この二人だよ」

「あら……陛下の奥様はお一人で、ご子息様も一人だけと聞いておりましたが……」

 困惑するルルードさんに、父は「いや、すまない」とまた笑い、

「金色の髪の方は、フロスティーヌの王子だ。たまたま滞在中でな」

「まあ……。貴方が、あのダリア様の……」

「それでは父をご存じで?」

 アイルス王子が早口で尋ねた。

 ルルードは「ええ、もちろん……」と不思議そうに彼を見上げ、

「だって……ダリア国王様は一時期、この国で迷子になられたではないですか……。塔にこもりきりな私の耳に届くほど、有名なお話です……」

「……ああ、そうだな。……そうか……」

 アイルス王子は、返事というよりは独り言のように、言葉を呟く。

 少し落胆して見えるのは、気のせいだろうか?

 しかし僕は別に気になっていることがあり、我慢できず尋ねた。

「ダリア国王様は、この国で迷子になられたのですか? なぜ?」

「ああ、それは十年以上も昔のことなのだが、」

 アイルス王子がそう言いかけたとき、国王が口を挟んだ。

「すまない、話の続きは後にしてはくれないか。まずは目的を果たそう」

「地下への扉はこちらです」

 国王様にそう言われるのを待っていました、とでも言いそうな司祭が、床についていた一つの扉を開けた。



「シルク様、剣は持ちました?」

「はい、持ちました」

「では、先程のことを再確認しましょう……」

 金色の剣の柄を握りしめ、ルルードさんの言葉に頷く。

 僕らは地下室への階段を歩いていた。

 その石の壁と低い天井に響く足音は五人分、ルルードさんと僕の後ろに、アイルス王子と二人の護衛が続いている。

 残りの護衛と父、従者、司祭、アルトと伯爵は、さっきの部屋で待機していた。

 辺りは暗く、灯りはルルードと護衛の一人が持った蝋燭の火しかない。

 少し心細さを感じながら、ルルードの言葉に耳を傾ける。

「まず、シルク様が魔物に、その“勇者の剣”で攻撃を与えます……」

 僕の持っているこの剣は、かつて僕の祖父――勇者ハルクが使っていた剣なのだそうだ。

「そして最後に私が、この剣で――」

 ルルードはそう言うと少し立ち止まり、鞘からさらりと剣を引き抜いた。

 それは、金色の宝石が埋め込まれた、銀色の剣だった。

「――シルク様のその剣でも、ある程度のダメージを与えることはできます。しかし魔の物は、私たちの“大魔導師の剣”でないと、完全に消滅させることができません……」

 金色の宝石に、蝋燭の炎がちらちらと揺れていた。

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