③
「どうしたもんかな~」
と担任の先生に言われた。親友の手を借りつつも解いた数学のプリントを担任の先生に提出すると頭を抱えてそんなことを言った。
「お前このままで大丈夫か?」
「大丈夫!」
「その自信はどっから沸いてくるんだ?」
「僕の中からに決まってるじゃないですか!」
「知ってるよ」
まるで親友と同じような反応をする。
僕をバカにしているような。そんな感じ。
「なんで数学出来ないんだよ」
「バカだからです!」
「知ってるし、そんな威張るようなことでもないぞ」
頭を抱えたまま俯く先生の表情が隠れて見えない。
「あのさ、お前普段の授業中は何をしてるわけ?因数分解のやり方をプリントにまとめて分かりやすくしたし、説明もしたし、練習問題もしたし、俺のプリントの他にも教科書とか参考書とかにもやり方は書いてあるはずだろ?なのに答えが謎すぎるぞ?」
そんなわけはない。親友にも聞いたし、授業で取ったノートも教科書も見ながらやったよ。
「で、お前は何を因数分解したんだ?」
「分子の8です」
「分母な」
「あ、そうでした」
あのな~っと呟きながらなんか汗ばんでいる。
「で?どうやって分母の(X²-2X-8)の8を因数分解したんだ?」
「縦に裂くと3が横に裂くと0が表せるので答えは3と0です!」
「何をバカなことを堂々と大声で言ってんだよ。俺は恥ずかしいよ」
顔を覆って倒れそうだ。
「お前にとっての因数分解は力技なのかよ」
「なんか必殺技みたいですよね」
「そんなの誰も共感しねーよ」
何か雰囲気的に僕が理論的に導き出した答えは全然違うみたいだ。
おかしいな。親友に聞きながらやったはずなんだけど。途中からバカにするみたいにいいんじゃねしか言っていなかった気がするけど。
「あのな、お前はこれを真剣に解いたのか?」
「至極丁寧に解きました!」
「全然、真剣みが伝わってこねーよ」
おかしいな。
「お前、高校生になる気ある?」
「高校になりたいです!」
「その意気込は?」
「JKとカップルになりたいからです」
「そんな歪んだ理由で簡単に高校生になれるわけないだろ」
他にもいろいろありますよ・・・・・そう・・・・・・いろいろある!
「でも、僕の親友の高校進学の目的が女子高生と付き合いたいって言う不純な理由ですけど!いいんですか!」
そう、僕だけじゃない。
「あいつは成績が良くて志望校も無難に合格できるレベルがあるからそんなこと言ってもいいの」
「差別だ!」
「だったらそのバカをどうにかしろ」
できたら困らないのに。
「どうしたら、バカが治りますかね?」
「知るか。適当に金づちで頭叩けば治るかもな」
「なるほど!」
「おい、バカ。実践するなよ、死ぬから」
おばあちゃんはバカは死ぬまで治らないって言っていたから一回死ぬのもいいかもしれないって本気で考えたことがある。親に相談したらバカかって言われたけど。
「いいか?お前が本当に高校に進学したいという意思があるのならばまずは勉強するためにお前の根本を叩き直す必要がありそうだ」
「根本って?」
「そのままだ」
ねもと君ってこと?
「なんか全然分かってない気がするがもういい」
何が?もう、いろいろ考えさせないでよ。パンクする。
「まずはふざけたことをするな。もっと、冷静に大人しく一歩距離を置いて考えるだけの心の余裕を持つ必要がある」
「・・・・・一歩距離を置く」
一歩下がる。
「いや、そういう意味じゃなくて。少し考える時間をワンテンポ増やせってことだ」
「・・・・・1店舗?」
「お前と会話するの嫌だ」
先生は何が言いたいのか分からない。僕がバカだから?
「とにかく、お前はバカなんだから人より多く物事を考えろ。分からなくてもバカはバカなりに考えろ。そうすれば、分からないことでもそれなりに分かるようになるだろ」
「じゃあ、何をどのくらい考えればいいですか?」
「そんなの自分で考えろ!」