②
「お前のバカをさ、いい加減に治せないわけ?」
「無理」
親友のふとした一言に対して僕は即答で否定した。
中学3年生。部活も夏の大会で敗退した僕らは高校受験に向けての準備を始めなければならない時期だ。そんな時期であるはずなのに僕は未だに具体的な方針等は何も決まっていない。
理由は簡単だ。
バカだからだ。
国語も数学も理科も社会も英語も・・・・・他にもいろいろの成績が底の底で高校受験の合格率が絶望的ですねって担任の先生の顔が青ざめていたのをよく覚えている。ならば、今から一生懸命勉強しようということで親友といっしょに毎日放課後残って勉強しているのだ。僕ら以外には誰もいない教室。そんな中、言われた一言だ。
「お前のバカってマジで治すの無理なわけ?」
「無理に決まってるじゃん!そんなことも分からないなんてバカじゃないの?」
「お前にバカって言われたらもう俺は自害するしかないわ」
そんなに屈辱なの?
「つか、バカが簡単に治らないことくらい分かってるよ。バカじゃあるまいし」
なら、なんで聞いたんだよ。
バカじゃんとか言ったらまた気分を損ねて帰ってしまうので言わないでおこう。バカでもバカなりに学習するのだ。ちなみに20回目でようやく自らを押さえれるようになった。これは人類が月に着陸するくらいの多大なる進歩だよ。
「そんな僕がバカだって言う話はどうでもいいんだよ!」
「いや、最重要事項だと思うが」
バカは一生治らないっておばあちゃんに言われたからほぼ諦めてる。治るに越したことはないけど。
「勉強やろうよ!」
親友はため息をつきながら頷いてプリントに目を落とす。
ちなみに今は数学の勉強中だ。
すると親友がポツリとつぶやく。
「・・・・・お前のバカを治す方法、無くもないか」
「え?ウソ!」
僕は自分がバカだと自覚している。だから、こそ敏感に反応したのだ。
「どうやって僕のバカを治すの!そうすれば、どんな高校だって合格できる!バカじゃなければ絶対に大丈夫!」
「そんな考えを持っている時点でバカじゃね?」
そんなことはバカを治せばきっと気にならなくなる。見るべきはこれから先の未来だよ。僕のバカが治ったらきっと周りが僕を見直して挙句には女の子にモテモテになったり・・・・・。明るい未来が待ってる!
「いや、俺が考えたのはアンパンマンみたいにお前の頭事とっかえればバカも直るだろうな~って思っただけだ」
「できるわけないじゃん!そんなことできたら人間じゃないじゃん!」
がっかりだよ!
「知ってるよ。この際、人間やめればいいじゃん。お前のバカさ加減はもはや人間失格レベルだよ」
「その言いようはひどいよ!」
僕は確かにバカだよ!確かに英語では小文字のBとDは書き間違えるし、単語はeとaを間違えるし、数学だと割り算とか掛け算とかの計算間違えるし、社会とか人物名わかんなくて全部僕の名前にしたり、国語とか文章問題読むの忘れて間違えたり、挙句の果てには解答欄ずれてて全滅したり、名前書き忘れて滅亡したり、まるでバカみたいな。
「人間失格とかひどいよ・・・・・」
「・・・・・そうか。悪かった」
「あれ?意外と素直だね」
「ああ。お前にはちょっと難しいボケをしてしまった。人間失格知らないもんな」
「知ってるよ!バカにしないで!」
「答えてみろよ」
人間失格でしょ。そのままじゃん。
「人間として失格って意味でしょ?」
ことわざ的な?
「お前はもうダメだ」
あれ?なんで呆れられたの?
「おい、バカ。そのバカから少しでも遠ざかるようにさっさと勉強しろ!」
そんなこと言われなくても分かってるよ。
ペンを握って先生からもらったバカなボクへの特別勉強プリントに目を移す。
「ところで因数分解って何?」
「・・・・・バカを治す薬とかないかな?」
「あるわけないじゃん」
「知ってるよ、バカ」
そんな便利な薬あったらいいよね。