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作者: 岩本ミズキ

楽しい作品ではないです。

それを踏まえてお読みください。

 彼の嫌いなところが、変に目に付くようになったのは、いつからだろう。

 詳しいことはわからない。カレンダーをあまり見ないから。でも、大体二から三ヶ月くらい前かなとも思う。初めて彼に会ってから、大体半年が過ぎたくらいだ。

 そのときの私と彼は、所属していない部活の手伝いをしていた。手伝いと言っても、選手の一員としてスポーツをするのではなく、案内人の手伝いだ。手伝いをした部活は演劇部で、校内で最も部員の少ない部活の内の一つだった。したがって、役者や裏方などに人員を割り振ると、どうしても公演場所の案内人が不足してしまった。だから、知り合いを通じて、私たちが手伝う事になったのだ。

 選ばれた私たちは、演劇部の練習に呼ばれるようになり、公演当日の時間とその時の状況によってどう行動すべきかということを叩き込まれた。これは覚えるだけであったので、あまり苦労することは無かった。しかし、何故か彼は裏方の仕事に回されてしまい、物語の進行を覚えるのに苦労していたように思える。

 そして公演当日、彼は失敗をした。失敗といっても、劇中でしたわけではない。彼のした失敗は、集合場所を間違えたことだ。公演場所のホール入り口に直接集合だったのだが、ホールには北口と南口があり、南口に集合することになっていた。この集合地点については、公演日よりずっと前から、何度も何度も教えられ、絶対間違えのない様にと言われていたものである。彼はそれをきれいに間違えたのだ。それも、遅刻をしながら。

 打ち合わせ通りに来ない彼にたいして、演劇部の人は苛立っていた。劇の最終的な打ち合わせがあったのだから、あたりまえだろう。その上集合場所を間違えるのだから、怒鳴り飛ばしたかっただろう。少なくとも私は、彼から、「集合場所に来たけど誰もいない。みんなどこにいるの?」というメールが来たとき、そんな気持ちになった。もともと彼はしっかりしていると思っていたから、余計に頭に来たのだろうと思う。

 幸い、みんなが彼に苛立ちながら始まったその公演は、何とか無事に終えることができた。

 しかし、私と彼はこの後、本来所属している美術部の展示会に追われることになった。

 この展示会は一般に公開されるので、校内展示のように気の抜けた作品は作ることができない。画家のような素晴らしい絵は描けないにしても、精一杯の絵を描こうと、部内の誰もが必死だった。

 彼も、たぶんそうだったのだろうと思う。

 しかしこれから、私は彼によく怒鳴るようになった。

 私と彼は親しい仲だったので、一緒に部活に行き、同じ時間を過ごした。彼の描いていた絵は、大魚が餌を捕食している絵だった。それに対し私のは、むき出しのエンジンの絵だった。

 私は、色を塗り始めてから狂いが生じてはいけないので、下書きには細心の注意をはらい、そして色を塗るときは、色の組み合わせにかなりの気を使った。

 一方彼はと言えば、下書きはうまくいったのだが、色塗りがうまくいってないようだった。

 魚の表面を覆う粘液が反射するところを描きたいらしいのだが、どうも色が出ないらしい。はじめの頃は、色の濃淡をよりはっきりさせたり、別の色や新しい線を加えるなど、試行錯誤していた。しかし、日が経つにつれて、その作業はいい加減なものとなっていった。また、自分の作品を雑に扱うようにもなった。

 そしてある日、私は、彼が絵に色を載せたあと、筆で絵をドンと叩くのを見て、

「お前それはやめろ。筆が傷むし、お前の絵の見栄えが悪くなってしまう」

と言った。それに対し彼は、「わかった」と一言を返した。しかし、彼はそう言っておきながら叩く行為をやめなかった。うまくいかないのでストレスが溜まるのもわかるが、さすがにやりすぎな面もある。何回かに一回の割合で注意したが、一向にやめる気配がない。そして、またドンと音がしたときに、

「お前やめろって言っているんだ!何回言えばわかるんだ!いい加減にしろ!」

と怒鳴ってしまった。驚いた彼は、戸惑った顔で、「わかった、わかった。やめるから怒鳴らないでくれ」と言った。そのあとすぐに、私と彼は作業をやめ、帰宅した。

 しかし翌日になると、彼はまた叩くことをはじめ、また私が注意、そして怒鳴ることになった。

 このやりとりは展示会まで続いた。そして私は、彼が私の話をまともに聞いてないのではないかと疑るようにもなった。

 展示会も無事に終わり、また勉学だけの日々が始まった。そして私と彼の会話の中に、「聞いてる?」という言葉が入るようになった。これは、彼が会話中に明後日の方向を向いているときに、私が発するものだった。彼は「聞いてる、聞いてる」と返すが、時々話の内容を確認するとあやふやなのが多かった。今まで気づかなかったが、これまでもそうだったのかもしれない。

 そしてそれ以外の事も、私は嫌いになっていった。

 まず、彼が意見を言っている時の顔が嫌いになっていた。というのも、彼はその時にドヤ顔をするようになったからだ。たいへん細かいことだと思うが、ことあるごとにそれをされると、何か来るものがあった。

 そして、彼の考え方も嫌いになった。私と彼は釣り好きで、よくそのことに関して話したりしていたのだが、その時彼は、

「釣り堀にいる魚はかわいそうで仕方ない。釣られるために生まれ育ったようなものじゃないか」

と言った。

 私はこれを否定した。釣られるのがかわいそうなら、お前が今までにしてきたことは何だ。お前は、堤防で釣った魚をかわいそうだとは微塵にも思っていないじゃないか。

 彼はよくわからないといった顔で、「いや……、うん……、わからない」と答えた。

 ほかにも、部室の椅子が人で埋まっているから立って弁当を食べていたら、先輩が席を譲ってくれた。しかし先輩はほかの先輩と話している最中だったので、申し訳ないと思い辞退しようとした。そこで、席に座ってる彼が、

「行儀が悪いよ。座りなよ」

と言った。私はやはり、彼に腹を立てた。結局のところ、先輩のいいからという言葉で座ることになるのだが、ここでの彼の言葉がわからない。なぜ自分の事を棚に上げ、そんなことを言うのか。それに行儀というものは、人から椅子や会話を奪ってまで良くするものなのだろうか。私は彼を全く理解できなくなり、嫌いになっていった。

 私が彼に冷たくなっていった。すると、彼は大変なことになったと必死になった。先にも書いた通り、私と彼は親しい仲であったので、この関係を崩したくなかったのだと思う。だから、私の意見にはむやみに同意するようになり、また、いつも以上に接してくるようになった。その結果、会話がいつも以上にかみ合わなくなり、また、彼自体が鬱陶しくなった。

 更には、私が他の友人と話しているときに、無理やり会話に入ってくるようにもなった。当然会話が変なところで遮断されるのでストレスだし、場違いな相槌を打つので会話がすぐに終わってしまう。非常に迷惑だった。そして他の友人に、「私の事を一番理解しているのは俺だ」みたいな態度をとるので、非常に腹が立った。第一、お前は私が好みの異性も知らないじゃないか。

 日が経つに連れて、私の彼に対する冷たさはどんどんひどくなった。私はそれだけ彼が嫌いになって言ったのだろう。

 そして今日、私は彼に一番冷たくした。よほどの必要性がない限り彼とは会話をせず、また会話をすることがないように行動した。つまり彼を避けて行動したのだ。しかし残念ながら、実験のときの班は彼と一緒なので会話をせざるを得なかった。もう、話すのが嫌なくらい嫌いなのだ。だから、どさくさに紛れて飛んできた世間話は、ことごとく無視した。そして、学校が終わり次第すぐに帰宅した。彼がまた声をかけてきたが知らない。早歩きで駅に向かい、自宅に入り、ベッドに寝転んだ。なにかスッとした気分だ。そのまま夕飯まで、寝ることにした。

 日は暮れ、家族との楽しい夕飯時を過ごし、自室に戻ると、携帯にメール受信のランプが光っていた。見ると彼からで、内容は

「今日のお前の態度は何だ。そんなに孤立をしたければ、勝手に孤立をするがいいさ。その代わり、俺は知らないからな。全部お前が悪いんだからな。

明日には態度が改まっていることを期待する」

だった。

 いったい何を言っているのだろうか。

 お前がいなくなっても、私は全然かまわない。

 それに、お前がいなくなっただけで私が孤立するとは、いったいどういう事なのだろう。そしてどれだけ自惚れているのだろう。

 私が悪い点もあると思うが、全て悪いというのは腑に落ちない。

 態度を改めろということは、私がやせ我慢をして彼と友人になれという事か。または、彼が嫌いだと思うなという事なのだろうか。どちらにしろ、無理な相談だ。

 さらには、期待するということは、どれだけ上から目線なのだろう。そして私を評価をする人は、彼だけで充分だという事なのだろうか。馬鹿馬鹿しい。

 どちらにしろ、彼の事を私はもう理解できないし、理解したいとも思っていない。彼は私にとって、もうどうでもいい、シャツについた小さな埃のようなものなのだ。

 私はため息をついた。

 このメールをどうしようか。

 受信フォルダから消すかどうかというのあるが、返信するかどうかというのもある。正直、もう関わり合いたくもないが、ここではっきりと言っておきたいという一面もある。フォルダから消すのはもう決定でいいや。

 二分くらい悩んだ後、私は………

読んでいただき、ありがとうございます。

小さいことから発展して、大きなことになるというのはよくありますよね。

そして、相手の性格まで嫌いになってしまうと、全てが嫌いになってしまいますよね。

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