王子様
リーグロイド王国は大国だ。
豊かな国土と軍事力を誇り、複数の国を統合しててから100年、様々な民族間の衝突もあったが、今ではそれぞれを尊重する良い国民が住まう国だと言える。
そんな国民が大半だとはいえ、少数は悪質であることも確かだ。
大国故に地方の貴族の悪行に目が行届かないこともあり、王子であるユリウスは胃薬を欠かせない。
銀のさらさらとした髪に、夜の始まりの空の瞳。
まさしく美男子だが、その眉間には皺がよっている。
「舞踏会か…」
「今回は殿下の后を決めるためのもの、欠席はできませんよ」
王子の隣に立つのは、彼と同じ年の頃の黒い髪の側近、マクシミリアン。
肌は象牙色をしていて、彫りはあまり深くないが、不思議と魅力的な男だ。
二人は王子の私室にいた。
身支度を整え、舞踏会まですこしの間休憩をとっている。
「…わかっている。酔止めの薬を出しておいてくれ」
「こちらに。飲みやすくしたとヨハンが。」
差し出された盆の上には、グラスに入った茶色い液体。気のせいか、プチプチと音を立て、弾けている。
ヨハンとは王子お抱えの薬師だ。変なものばかり作るが、その腕は確かで、彼の薬はよく効く。
受けとると、王子は一息に飲み干した。
「見た目はあれだが…まぁ、最初よりはいいな。礼を言わなければ。あとは、もう少し甘さを控えてくれ…」
「伝えておきましょう。」
「…そろそろ、はじまるか」
空は日が傾き、つぎつぎと馬車が王城へ入っていった。