ウインク。
「大体、私は忙しいのです。舞踏会などよりも、領地で最近すすめている事業の方が気になるし、それに……」
舞踏会など嫌だ。あんなにたくさんの人がいて、男性と踊らなくてはいけない。体を舐めまわすような男の視線も吐き気がする。
きつい香水の臭いも嫌いだし、張り付けたような笑顔のなかに何を隠しているのか…社交界は苦手だ。
「とにかく、結婚だったらする気はありません!私が跡を継いだら、お姉様方の子供を養子にするとか、どうとでもやれるでしょう!」
「そうねぇ、シンデレラ。それでもいいけれど…」
相変わらずにこにことしたマリアお姉様は、頬に手を当てて首をかしげた。
「それでも、参加は決定よ。今から準備しましょうね?ケイティ、お願いね」
反論しようとすると、いつの間にか後ろに立っていたケイティお姉様は有無を言わさず私のドレスを脱がし、瞬く間に隣のバスルームのバスタブに私を放り込んだ。
「あっちょっと!?お姉様!」
ため息をつくケイティお姉様は、メイドに指示を出してからこちらに向き直った。
「シンデレラ。お願いよ。かわいい妹に幸せになってほしいの。」
私がうぐ、と息を詰まらせると、お姉様は少し笑って続けた。
「お父様も、お母様も…ねぇ、天国のお母様は、あなたの花嫁姿を楽しみになさっていたんじゃないかしら?」
ずるい。
そんなの。私だってわかってる。
「あなたが男性をそういう目で見ることを避けているのは、何となく皆知っているけれど、世の中にはいろんな男がいるのよ。知らずに花のような今を過ごすなんてもったいないわ。きっと、貴方にぴったりな男がみつかるわ。」
ケイティお姉様はやさしくて、頭が良い。
昔から、私をしっかりと納得するまで言葉を尽くしてくれる。
「そんな、だって…見つからないかもしれないじゃない…」
こういうときは、弱音だってでてきてしまう。
「あら、弱気ね。そのときはそのときよ」
意思の強い瞳を片方つぶって、お姉様は快活に笑った。
「あなた好みに、育てなさいな!」