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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第38話:箱庭の審判、あるいは観測者の放課後

夕闇に包まれた広場に、少年の静かな声が染み込んでいく。

彼が持つ「黄金の鍵」は、俺が消滅させたはずのものと全く同じ輝きを放っていた。



「隔離フォルダから派遣された……だと? 運営の手先じゃないのか」

俺は鉄の棒を握り直し、少年を正面から見据える。



「運営……。彼らはこの場所を既に『不要なキャッシュ』として処理しました。

僕はただ、消えるはずのデータがなぜ新しい形を成したのか、その検測に来ただけです」

少年は淡々と答え、視線を街並みへと向けた。



コンビニの自動ドアの横に、王宮の騎士たちが好んだ盾が立てかけられている。

その矛盾だらけの光景を見て、少年は僅かに眉を動かした。



「不合理ですね。本来、異なる属性のデータが混ざれば、摩擦で崩壊するはずです。

……シルヴィアさん、あなたの持つその剣も、本来のプログラムからは逸脱しています」



「……私の名を、知っているのか」

シルヴィアが剣を構えたまま、低く唸るような声を出した。



「このフォルダに存在する全てのオブジェクトの情報は、僕の頭の中にあります。

元・守護騎士。現在は……定義不能な『カイトの友人』。

その不確かな役割に、どんな価値があるというのですか?」



「価値……? そんなもの、お前に決められる筋合いはないニャ!」

ミアが牙を剥き、一瞬で少年の背後へと回り込む。

鋭い爪が少年の首筋を狙うが、彼女の攻撃は少年の数センチ手前で、見えない膜に阻まれた。



「……干渉拒絶。僕を攻撃しても、あなたの『価値』は上がりませんよ、ミアさん」

少年は振り返ることもせず、ただ虚空を見つめている。



「カイトくん、待ってくれ。……彼から感じる波長は、ゼンたち運営の人間とは違う」

阿良多が眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、少年の持つ鍵を注視した。



「彼は、僕たちと同じ『隔離された側』の人間だ。……違うかい? 観測者くん」



少年は初めて阿良多の方を向き、小さく頷いた。

「……正解です。僕もまた、かつて消去されかけた『別の街』の生き残りです。

僕の役目は、この箱庭が他のフォルダを侵食するバグにならないかを見極めること」



少年の言葉に、エリザベートが静かに一歩前に出た。

彼女の纏う空気は、王女としての威厳ではなく、この街で生きる決意に満ちていた。



「……もし、私たちが価値のないバグだと判断されたら、どうなるの?」



「この鍵を回し、街全体の座標を完全に抹消します。

……判定基準は一つ。この街に、システムが予測できなかった『新しい感情』が芽生えているかどうか」



少年は黄金の鍵を空中に放り投げ、再びキャッチした。

「……明日の朝までに、僕を納得させてください。

それまで、僕はあの駅前の喫茶店で時間を潰していますから」



少年は背を向け、霧の向こうへと消えていった。

あとに残されたのは、静まり返った広場と、突きつけられた「消去」の期限。



「……あいつ、何様のつもりだ。俺たちの街を勝手に判定するなんて」

俺は苛立ちを隠せず、鉄の棒を地面に突き立てた。



「でも、カイト……。あの子の目は、とても寂しそうに見えたわ」

エリザベートが、少年が消えた霧を見つめながら呟く。



「……先輩。あの人の鍵から、微かに『悲しみ』のデータが流れてきました。

たぶん、彼は何度も……他の街を消してきたんだと思います」

ユキが本を強く抱きしめ、不安げに俺の袖を掴んだ。



俺は空を見上げた。

パッチワークの街に、初めての「本当の夜」が訪れようとしている。



俺たちが作った、このちっぽけな箱庭。

システムから見れば無価値なゴミかもしれないが、ここには俺たちの熱がある。



「……よし。あいつに、俺たちの『無駄な熱量』をたっぷり味わせてやろうぜ」



俺は仲間たちの顔を見回し、不敵に笑った。

判定まで残り、十二時間。

俺たちの居場所をかけた、最も静かで、最も激しい一夜が始まった。


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