止められなかった一瞬
その日は静かだった。
静かすぎる。
リアナは空っぽの籠を抱えて村を歩いていた。
彼女は何かを考えているようだったが、実際には何も考えていなかった。
太陽の光が家々を照らしていた。
村人たちの声は柔らかかった。
子供たちは幹線道路の近くで遊んでいた。
ごく普通の光景だった。
日常生活を乱してはならない。
「見て!」
少女の笑い声が大きく響いた。
木の車輪が坂を転がり落ち、彼女の後を不注意に追いかけてきた。
「待って!危ない!」
女性の声が一瞬遅れて届いた。
リアナはそれを見る前に感じていた。
それは音ではなかった。
叫び声ではなかった。
それは突然、胸に押し寄せる圧迫感だった。
説明のつかない確信。
何かが起こる。
脇道から荷車が現れた。
重い。
袋を積んでいた。
運転手は少女に気づかなかった。
「気をつけろ!」
すべては一瞬の出来事だった。
車輪が道路を横切った。
少女はつまずいた。
彼女は転んだ。
荷車は止まらなかった。
リアナは考えなかった。
叫ばなかった。
ためらうこともなかった。
彼女の体はひとりでに動いた。
世界がゆっくりと動いた。
不自然なほどに。
彼女は足元の地面を感じた。
空気の重さを感じた。
自分が進むべき正確な方向を感じた。
彼女は走った。
今まで走ったことのない速さで。
彼女が到着した時――
荷車は彼女にぶつかりそうだった。
リアナは少女を抱き上げ、振り返った。
衝撃はなかった。
荷車は通り過ぎた。
袋の一つがドスンと地面に落ちた。
静寂。
少女は無事だった。
震えながら、彼女はリアナの服にしがみついた。
「大丈夫…」彼女は聞き慣れない声で囁いた。「もう終わり…」
人々が集まり始めた。
叫び声。
質問。
信じられないといった視線。
「どうして…?」
「ありえない!」
「彼女は彼女を車の前に引きずり出したのよ!」
リアナはゆっくりと少女を下ろした。
少女は泣きながら母親の元へ走って行った。
そして恐怖が襲ってきた。
事故への恐怖ではない。
自分自身への恐怖。
彼女の足は震えた。
彼女の心臓は胸の中で激しく鼓動した。
「私…私…」
彼女は口を開けたが、何も言えなかった。
彼女は自分が何をしたのか分かっていた。
そして、最も恐ろしかったのは…
それは幸運ではなかった。
それは人間の反射神経ではなかった。
ほんの一瞬…
彼女は普通の女の子ではなくなった。
彼女は一歩後ずさりした。
そしてまた一歩。
「ごめんなさい…」と彼女は呟いた。「ちょっと…行かなきゃ…」
返事を待たずに、彼女は立ち去った。
彼女は背中に視線を感じた。
それは感謝の表情ではなかった。
それは困惑の表情だった。
彼女は一人で壁に寄りかかった。
彼女の手はひどく震えた。
「あんな…こんなはずじゃなかった…」
彼女の心の奥底で、何かが動揺した。
それは声でも、言葉でもなかった。
ただ、確固たる感覚だった。
「あなたは助けることを選んだのね。」
リアナは首を横に振った。
「いいえ…ただ、誰も傷つきたくなかっただけ…」
でも、恐怖は消えなかった。
彼女は理解していたからだ。
次は…
もしかしたら、止められないかもしれない。
彼女が守ろうとしていた秘密が
今、ひび割れた。
ゆっくりと。
静かに。
擦り切れたロープのように…
切れる寸前で。




