第4話: 「黒っぽい家の作家」に憑依して、プレゼントがホラーになった件
「次は、もっと明るいストーリーを書こう」
探究心の高まったユウキはスキルを発動した。
――しかし。
スキルを発動した瞬間、空気が冷えた。
時間の進み方が遅い。
光が、色を失っていく。
「……え?」
=====
娘がいた。
小柄な娘の姿が、異様なまでに巨大な荷物に半ば吞み込まれていた。
日暮里駅の薄暗い階段を、その不均衡な影が降りてくる。
一日遅れた父の誕生日プレゼント……
それは遅延という過失を帳消しにしようとでもいうように、グロテスクなまでの存在感を放っている。
人の波が割れ、風が止まる。
空気が娘を拒む。
「今日使いたいでしょ。ねえ、もう使いたいよね」
中身を明かさぬまま、執拗に迫ってくる。
父は微笑んだ。
唇が震えたのは、寒さのせいか、あるいは……
「……いい誕生日だったな。」
声は自分のものではなかった。
乾いた、誰かの声。
次の瞬間、娘の影が床に溶けた。
=====
スキル終了。3分経過。
世界が音を取り戻す。
ユウキは畳の上で目を開けた。
窓の外で、風鈴が鳴っていた。
メモ帳には震える文字でこう書かれていた。
『恐怖とは、抑制の効いた静謐で、緻密な描写から生まれる』
ユウキは笑うでもなく、静かにページを閉じた。
ユウキは深呼吸をした。
次は、もっと明るいものを書こう。
熱くて、前向きで、力がみなぎるような――
「……次は、誰に憑こうか」
パソコンの画面が点滅した。
新しいメッセージが届いている。
『恐怖の描写、見事でした。
"感情の侵食"が始まっていますね。
興味深い実験です。
――カイザー』
ユウキは眉をひそめた。
「実験……?」
言葉の選び方が、少し引っかかった。
だが、それ以上考える気力もなかった。
ユウキは画面を閉じて、次の準備を始めた。
※次回:「下町でロケットを飛ばす人」に憑依して、ビジネスものを書いたら力がみなぎってきた件
ホラー回は、いかがでしたか?
第2話:温かい誕生日(池井戸潤先生風)
第3話:ツッコミ満載の誕生日(西尾維新先生風)
第4話:恐怖の誕生日(貴志祐介先生風)
是非、お楽しみください。
毎週水・木・金 12:10更新予定。
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