第3話:「お化けの物語」作家に憑依したら、語尾が全部ツッコミになった件
前回の2倍返す男になって書いた投稿も、大好評だった。
感想欄はまるで祭りのあと。ユウキはその熱気のまま次を考えていた。
「よし……次はリズム系でいくか!」
スキル発動。
光が弾け、回転、そして――テンション、上昇。
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「俺は……どこだ? いや、誰だ!?」
気づいたら北千住の商店街に立っていた。
頭の中がうるさい。いや、外もそこそこうるさい。
どいつもこいつも喋ってやがる。
いや俺も喋ってる。うるさいな俺!
小柄な娘が駅の階段を下りてくる。
荷物がでかくないか?いやでかい。でかすぎる。
でかすぎてもはや娘が荷物を運んでるのか、荷物が娘を連れてるのか分からない。
「今日使いたいでしょ? ねえ、もう使いたいよね!」
あぁ、はいはい。
畳みかけるね。答えを待つ気ゼロかい。
ヒントもないのかい。クイズ形式なのかい。
でも、嬉しい。
――この“かい”のリズムが、なんか心地いい。
誕生日の翌日。
遅れて届いたプレゼント。
大きすぎるのは、たぶん気持ちのぶん。
小さな手で運ぶには、優しさが過積載だったんだろう。
「いやあ、いい誕生日だったね」
……まだ中身見てないけどね!?
――俺、今、何に感動してるの!?
――でも涙腺が勝手に仕事してる。
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スキル終了。3分経過。
ユウキはアパートの畳の上で膝を抱えた。
頭の中で、まだツッコミがリフレインしている。
くそ、感情がリズムに乗ってる……
これが“お化けの物語”の文体の魔力か。
「……語尾に“かい”をつけると、感情が跳ねるんだな……」
メモ帳にそう書いた。
そして次のページにこう続けた。
『テンポは感情のリズム。ツッコミは読者の心拍だ』
だが、ふとユウキは手を止めた。
頭の中で、まだ"かい"のリズムが鳴り止まない。
水を飲んでも、外を見ても、消えない。
「……憑依が終わっても、文体が残ってる?」
不安と、少しの興奮が混ざった。
投稿サイトを開く。
コメント欄が伸びている。
『語尾の"かい"、クセになるw』
『作者さん、振り幅すごすぎw』
『次も楽しみにしてます!』
その中に、一つだけ異質なコメントがあった。
『見事な文体模倣ですね。
まるで本人の魂に触れているかのよう。
"深く入り込む"ことの危険性を、理解していますか?
――カイザー』
ユウキは首を傾げた。
「深く入り込む……? 変な言い方するな」
少し気になったが、すぐに気を取り直した。
「まあ、文学好きな読者なんだろう」
次の憑依先を考え始める。
「次は……"黒っぽい家の作家"、いってみるか」
第3話まで読んでいただき、ありがとうございます!
第2-3話は「同じシーンを文体違いで」という
この作品のコンセプトを体験していただきました。
今回は『化物語』などでおなじみの
西尾維新先生の文体を参考にいたしました。
ツッコミのリズム、
伝わったでしょうか?
次回からはさらに違う様相を見せます!
第4話は「黒っぽい家の作家」に憑依。
同じ誕生日プレゼントが――ホラーになります。
え、ホラー!?
そうです。この作品、振り幅がすごいんです。
次回、ご期待ください。
毎週水・木・金 12:10更新予定。
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