第2話:「2倍返す男」に憑依して、父娘の誕生日シーンを書いたら大反響になった件
この作品のコンセプトは「文体模倣」です。
同じシーンを、異なる文体で描くと
まるで別の物語になる——
それを体験していただくため、
第2-3話は「父娘の誕生日」を
2つの文体で描きます。
まずはビジネス小説の巨匠「2倍返す男」の文体で。
瞬間、彼は見知らぬ父親の体にいた。
――どうやら、この男、国分寺駅前で誰かを待っているらしい。
国分寺駅の階段を、小柄な娘が大きな荷物を抱えて降りてくる。
体が半分隠れるほどの大きさだ。
休日の人混みの中、その姿だけがやけにまっすぐ見えた。
一日遅れの父の誕生日に、それを渡そうと決めていたらしい。
父の胸に、何か温かいものがこみ上げる。
―― “2倍返す男”の筆致が、自然と指先に流れ込む。
荷物の存在感で、遅れた分を取り戻そうという気合が伝わってくる。
後席に苦労して押し込みながら、娘が言った。
「今日使いたいでしょ?ねえ、もう使いたいよね」
得意げな笑顔だった。
目頭が熱くなった。
「ありがとう」
それしか、言葉が出なかった。
遅れて届いた誕生日プレゼント。
大きすぎて、どうしようもなく愛しかった。
「いやあ、いい誕生日だったな」
父は笑った。
よし。明日から、また頑張ろう。
娘のためにも、負けるわけにはいかない。
車を走らせながら、父は拳を握りしめた。
ハンドルの奥で、静かに誓うように。
=====
スキル終了。3分経過。
ユウキは自分の部屋で目を覚ました。
手にはメモ帳。そこに残っていたのは、震える字で書かれた数行の文章だけだった。
うーん、さすがだ。
短文の連打のリズムを生かしながら、しっかり温もりを感じさせる。
ユウキはしばらく、その言葉を見つめていた。
静かだが、前向きな強い意志を感じた。
畳の上の夕陽だけが、まるで物語の余韻みたいに伸びていった。
投稿ボタンを押して、30分後。
通知音が鳴った。
『あなたの作品にブックマークがつきました(+5)』
ユウキは息を呑んだ。
異世界で、俺の書いた文章が――届いてる。
コメント欄を開く。
『泣いた』『父を思い出した』『次も期待』
その中に、一つだけ短いコメント。
『興味深い。続けてください。――K』
「K? イニシャルかな」
ユウキは気にせず画面を閉じた。
「よし……もっと書こう」
※次回:「お化けの物語」作家に憑依したら、語尾が全部ツッコミになった件
第1-2話、読んでいただきありがとうございます。
今回はビジネス小説の巨匠、池井戸潤先生の文体を意識して書きました。
『下町ロケット』『半沢直樹』などの
熱いビジネス小説への、オマージュとリスペクトを込めています。
この作品は「文体模倣」がテーマです。
このストーリーを「あの人」の文体で書いたらどうなるんだろう?
そんな作者の悪ふざけからはじまった
転生(悪ふざけ)憑依物語です!
次回は「お化けの物語」の作家に憑依。
語尾が全部ツッコミになります。
更新は毎週水木金の12:10です。
感想・レビュー・いいねで応援してもらえると、ユウキのMPが回復します!
次回もお楽しみに。




