第12話:「リベンジ」するヤンキーになって、タイムリープした件
『猫のお話、とても感動しました。こんどはヤンキーものが読みたいです』
ユウキはメッセージを読み、思った。
振り幅の広い作者なら、ヤンキーものも書けるはずだ。
「よし、チャレンジしてみるか」
スキル発動!
まばゆい光と爆音で、世界が揺れた。
=====
気づくと、俺は立っていた。いや――誰かの体に、入り込んでいた。
頭の中に記憶が流れ込んでくる。この体の持ち主の記憶だ。
昨日のニュース映像……『事故の続報です。亡くなったのは橘ひまわりさん(17)……』
俺の幼馴染だ。
なにをするにも……
――だが、もう会えねぇのか。
俺は暴走族の一員、いわゆるヤンキーだった。
昨日、新しく買ったばかりのバイクで事故を起こし、死んじまった。
確かに俺は死んだはずだ。
しかし――気がつきゃ、過去に戻ってた。二日前の世界に。
タイムリープ……マジかよ。
戻ってきた俺は、すぐさまバイクを売り払った。
代わりに買ったのは、電動アシストチャリだ。
仲間たちは俺を指さして笑いやがる。
「おいお前!何乗ってんだよ!」
「ダッセェ!マジでダッセェ!」
「バイク怖くなったのか?腰抜けかよ!」
仲間が腹を抱えて笑ってる。
悔しかったが、構わねぇ。
ダセェと言われようが、腰抜けだろうが、生きてさえいればそれでいい。
事実、俺の命は助かったんだからな。
だが――運命はそれで終わりじゃなかった。
しばらくして飛び込んできたニュースに、俺は凍りついた。嫌な予感が的中したのだ。
『橘ひまわりさん(17)が事故により死亡』――テレビから流れるアナウンサーの声。
「……ウソだろ」
助かったのは俺だけで、今度はひまわりが死んじまうなんて。
拳が震える
どうしても俺の周りで誰か死ななきゃならねぇってのかよ。
ふざけんな、そんなのおかしいだろうが!
「ひまわりだけは――」
俺は涙と一緒に叫んだ。
「絶っ対ぇに死なせるわけにはいかねぇ!!!!」
諦めなんて、できるかよ!
強く心に念じた瞬間、周りの景色がぼやけて弾け飛んだ。
*****
はっと我に返ると、俺は仲間との集会の真っ最中だった。
日づけは……ひまわりが事故に遭う日の放課後だ!
「悪ぃ、抜ける!」
驚く仲間たちを尻目に、俺はその場を飛び出した。
電チャリに飛び乗り、ペダルを全力で踏み込む。
「ぜってぇ間に合え!」
ひまわりの家へ一直線に向かった。
そして――部活帰りのひまわりを見つけた。仲間と笑いながら歩いてる。生きてる!
「ひまわり!!」
俺は自転車を放り出し、一直線に駆け寄った。
「今日はどこにも行くな! 家に帰れ!!」
混乱させちまうのは承知の上だった。とにかく引き止めねぇと!
驚いた彼女を抱きとめようと手を伸ばした、その瞬間――
ゴッ!!
「ぐっ……!」
鋭い突きが俺の喉元に決まった。息が、できねぇ。
そうだ……彼女は剣道部の主将。
驚いて反射的にカウンターを食らわしやがった!
「いきなり何かと思えば……大丈夫?」
ひまわりが心配そうにのぞき込んでくる。
最悪だ、完全に雑魚キャラじゃねぇか、俺。
その時――
キィィィィィッ!!
悲鳴のようなブレーキ音。視界の端に暴走車が飛び込んできた。
「危ない!!」
俺は叫んだ。しかし倒れ込んだ体は言うことを聞かねぇ!
「っ……!」
ひまわりが振り向いた瞬間、車が彼女に突っ込んだ。小柄な体が宙を舞う。
「あ……」
ひまわりの口が、小さく開いた。それが最期の言葉になっちまった。
道路に叩きつけられた彼女は、もう動かねぇ。
「う、うそだ……」
目の前が真っ赤に染まっていく。
助けられなかった。結局、また俺は守れなかったのか!
*****
俺は自分の部屋で、一人声を上げて泣いた。
「くそ……くそっ!くそおおぉぉぉ!!」
何度拳で畳を殴ったかわかんねぇ。
「なんでだよ!」
殴る。
「なんで助けられねぇんだよ!!」
また殴る。
拳から、血が滲んでた。
「俺は……俺は、何のためにタイムリープしたんだよ……!」
涙が止まらない。
絶対に助けるって決めたのに……!
「俺は、絶っ対ぇ、あきらめねぇぞ!!!!」
=====
スキル終了。3分経過。
ユウキは自宅の畳の上で膝を抱え、しばらく呆然としていた。
「……なんだ、今の」
熱くて、泣けて、でも諦めない――そんな展開。
「あいつは、絶対諦めなかったよな」
ユウキは拳で涙を拭った。
「俺も……諦めるわけにはいかない」
その時、不意に背後で画面が光った。
投稿サイトのメッセージボックスが開いている。
『いつも楽しく拝読しています。
あと何回飛べますか?
――カイザー』
だが、ユウキは気づかなかった。
背後で、画面が静かに明滅していることに。
次の憑依のことで、頭がいっぱいだった。
――カイザーの名前だけが、闇の中で光っていた。
※次回:「戦国自衛隊」に憑依して、戦国時代のヒマワリを守ろうとした件
※この作品は、転生×文体模写をテーマにした実験的ファンタジーです。
毎週金曜19:50頃から2から4話を順次更新します。
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