第10話:「冷たい校舎の人」に憑依したら、回想が止まらなくなった件(前編)
前日、ひかげが生きていることで安心したユウキは、その続きがどうしても書きたくなった。
「スキル発動」
冷たい光の中で、時が止まる。
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1
最初に気づいたのは、母だった。
「ひまわり、ひかげまた窓際にいるの」
そう言いながら、母は少し困ったような顔をした。
私は制服のブレザーを脱ぎながら、窓辺のひかげを見た。
高校二年の冬。私は毎日、部活を終えて五時半に帰宅する。
その時間、ひかげはいつも、窓の外を見つめていた。
窓の外には雪が積もっていて、世界がいつもより静かだった。
ひかげはもう、ほとんど動かなくなっていた。
けれど、その目だけは、まだ何かを探しているみたいに、どこか遠くを見つめていた。
……あの子は、今、どこにいるんだろう。
2
私が小学六年生の頃、ひなたとひかげが家に来た。
段ボールの中で、二匹は身を寄せ合っていた。
「こっちが、ひなた。こっちが、ひかげね」
父がそう言って笑った。
ひなたは好奇心旺盛で、すぐに部屋中を探検し始めた。
ひかげは段ボールから出ようとしなかった。
でも、ひなたが戻ってくると、安心したように身体を丸めた。
あの時から、ひかげはいつもひなたを追いかけていた。
3
ひなたがいなくなったのは、去年の秋だった。
最初の一週間、ひかげは家中を探し回った。
クローゼットの奥も、ベッドの下も、窓の向こうも。
そして、ある夜。
廊下で、ひかげが鳴いた。
「にゃおーーーーん」
それは、今まで聞いたことのない声だった。
母が「ひかげが、呼んでる」と言った。
私は何も言えなかった。
なぜなら、その声は——呼んでいるというより、答えを求めているように聞こえたから。
「ひなたは、どこ?」
そう問いかけているように。
(——つづく)
※この作品は、転生×文体模写をテーマにした実験的ファンタジーです。
毎週金曜19:50頃から2から4話を順次更新します。
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