第5話《1日目》その5
「莉人くん、何処に連れてってくれるんですか? 流石に泣き過ぎてお腹すいちゃいました。私、赤ちゃんの頃を除いたら今日が人生で一番泣きましたよ」
「あはは、俺もここ最近で一番泣いたかもな。それじゃ俺の行きつけのお好み焼き屋でどうだ?」
「はいっ、大好物です!
いきなり行きつけのお店に連れて行ってくれるなんて嬉しいです! まさに『友達』です!」
未来乃はウッキウキでスキップしたり、ワザと俺にぶつかって来たりして喜びを爆発させていた。
※
「こんちはー!」
「おー莉人か! 座敷空いてるぞー! ……ん?」
「あっ、紹介します。『友達』の麻倉です」
お好み焼き屋『おこのみこのみ』は俺がガキの頃から通っている。ピーク時には行列も出来る程のこの辺じゃ美味いと評判の店だ。
店主の大和さん(通称ヤマさん)は見た目はイカついが、親戚のおっちゃんか? って位気軽に話せる仲だ。
そんなヤマさんが肩を組み未来乃に聞こえない位の小声で言った。
「オイ、お前白河ちゃんどーしたんだ? しかも友達とか言ってめっちゃ可愛い子連れて来て! もしかして二股か? やるなぁ高校生!!」
「違いますって! 俺、白河にはフラれましたから。それに彼女は今日知り合ったばかりだからそんなんじゃ無いです!」
するとヤマさんはガハハと豪快に笑って俺の肩をバンバン叩いた。痛いって! 力強いんだよなー
「いいねぇー青春してるじゃねーか! 白河ちゃんは綺麗系だったけどこっちの彼女は可愛い……アレ? 君こないだ遥斗と一緒に来た……」
「……っつ!! シーッ!!」
未来乃が慌てて人差し指を口に当てている。それを見てヤマさんも察した様で逃げる様にカウンターに戻って行った。
※
座敷に座り俺は下を向いたままの未来乃に問いかけた。
「未来乃、……お前初めてじゃないのか? 確かヤマさん遥斗って言ってたよな? 相手は相沢なのか?」
すると未来乃はチラチラと俺を見て少し気まずそうにモジモジしながら、
「初めてじゃないです。私の初めては相沢くんです。でも一回だけです。これからは莉人くんとしか来ません!」
「……お前ワザとイヤらしい言い方してるだろ?」
「えへへっ、莉人くん下ネタ好きですよね? よく相沢くんと喋ってるの聞いてますよ♡
私、兄と弟に挟まれてるので割とエグいのも言えちゃいますけど?」
「言わなくていーから! まぁ高二の男子同士なら下ネタなんて普通に言うけど女子には言った事ないよ! てか、別に相沢だって友達なんだろ? この店美味いんだから普通に来ればいーじゃん。何でコソコソするんだよ?」
すると未来乃は顔を赤らめて、
「聖地巡礼……です。莉人くんがよく行くお店だって相沢くんに聞いたから私も行ってみたいってお願いしたんです。まさか翌週に本人と来る事になるなんて夢にも思ってませんでした」
「聖地巡礼って! 相沢のヤツ!! そんな事全然聞いてなかったぞ」
「そりゃそーです。私が奢るから内緒にしてって念を押しましたから! まぁ私、莉人くんに認知もされて無かったから内緒も何も無かったんですけどね、へへっ。
だけどこんな事になるなら私の初めてを相沢くんにあげなきゃ良かったです」
「だからその言い方やめろって! んー、それじゃ未来のために『こんなの初めて!』って言わせる位美味いの作ってやるからな! ヤマさーん、いつもの二つと……」
「あっ、ジンジャーエール二つお願いしまーす!」
「あいよー! よろこんでー♪」
ヤマさんは俺達が揉めてるんじゃないと分かりホッとした顔をしていた。すると未来乃はドヤ顔で、
「んふふ、『いつもの』とは豚玉にイカのトッピング、ドリンクはジンジャーエールですよね? リサーチ済みですよ!」
「相沢のヤツそんな事まで喋ってんのか? ……て事は食べるのも初めてじゃないんだな」
「あっ、そんなしょんぼりした顔しないで下さいよ! 私は莉人くんが作ってくれる『いつもの』が食べたいんです。それに私も、……莉人くんに作ってあげたいのですが、……駄目ですか?」
その上目遣いは反則的に可愛かった。白河は無自覚でやってるから不意をつかれて毎回悶絶してたけど、未来乃は絶対意識して確信犯的にやってるよな? それでも撃ち抜かれそうな俺はやっぱりチョロいのか?
「はいお待ちっ! 今日は二人の初めて記念日だからトッピングのイカはサービスだ! これからも宜しくなっ!」
「ヤマさ……っ」
「ありがとうございます! これからも絶対二人で来るので宜しくお願いします!」
俺の声を掻き消す様に未来乃が被せて来た。ヤマさんはニッコニコでジンジャーエールをテーブルに置いてカウンターに戻って行った。
未来乃は早速ジンジャーエールを手に取り少し小声で、
「……それじゃ、二人の友達としての初めての共同作業に、かんぱい!」
「共同作業って、お好み焼くだけだろ?
まぁいっか! 未来乃、これから宜しくな! 乾杯!」
俺達はグラスを軽く当てて半分位一気に飲み干した。
「はぁ〜美味しい! なんか色々あり過ぎて喉乾いちゃいましたよ!」
「あぁ、俺もカラカラだったよ!」
「それじゃ莉人くんに愛情たっぷりの作っちゃいますよ!」
「愛情とかいーから! 普通に頼むよ」
俺達はせっせとお好みを焼き出した。俺は周りの友達から『お好み奉行』とまで呼ばれる程皆の分を焼いて来たので味にはかなりの自信がある。
それに比べて未来乃は、……と言うと中々の手際の良さだ。
未来乃曰く、小さい頃母親が入退院を繰り返していた為家事は私の役目だったそうだ。幸いな事に母親は完治したみたいで、今はそんなにやってないけどね、なんて笑っていたが、結構苦労してたんだな。
※
「んー、いい匂い! 私、さっきからお腹鳴って恥ずかしいんですけど、聞こえてます?」
「大丈夫だ! 俺も鳴ってたし焼くのに集中してたから全然聞こえなかったよ!」
お互いの皿に完成したお好み焼きを乗せ、二人で顔を見合わせて笑った。そして手を合わせて、
「「いただきまーす!」」
「上手く出来たと思うけど、……どーですか?」
「ん! 美味いよ! 普段は自分で作ってるから他人に作ってもらう事ないけど、すげぇ美味いよ!」
未来乃はホッとした顔をして俺の作ったお好み焼きを口にした。
「おっ、美味しいっ!! この前食べたのも美味しかったけど全然違う! 凄いよ、莉人くん!!」
頬っぺたを押さえて目を輝かせる未来乃を見て何だかこっちまで嬉しくなった。
「……て事はこないだのは相沢が作ったんだろ? 年季が違うんだよ、年季が!」
自分でも分かる位のドヤ顔をしていると、未来乃がニヤニヤしながら、
「愛情がたっぷり入ってるから美味し……」
「入ってないから!」
「ヒドイです! せめて最後まで言わせて下さい!」
頬っぺたを膨らませる未来乃に俺は笑いながら言った。
「でも『喜んで貰いたい』って気持ちは込めたから美味いって言ってくれて良かったよ!」
すると未来乃は顔を赤くして、
「莉人くん、世間ではそれを『愛情を込める』って言うんですよ。もう私、友達じゃいられないかもです!」
……っっ!!
「もう、そーゆーのいーから! 冷めないうちに早く食えよっ!!」




