第32話《5日目》その2
「部活は五時までだろ? て事はそろそろ来てもおかしくないんだけどな?」
スマホの画面を見ながら間もなくやってくるだろう相沢を、二人でポテトを摘みながら待つ。白河はいよいよ落ち着かなくなって、鏡を見て髪型チェックやメイクを直して気を紛らわせている。
「あぁ、なんか私までドキドキして来ましたよ」
そう言って来たので手を握ってみるとビクッとしてマジマジと俺を見た。
「……なんか嬉しいと怖いが頭の中で大喧嘩してます。どーしてくれるんですか?」
「それなら嬉しいを応援しないとな」
俺は指を絡ませて『恋人つなぎ』をすると信じられないと言った顔で俺を見たが、気にせず絡ませた指に力を込めた。
「逆に怖いが優勢になりました! 助けて下さい!」
「んじゃ、俺はどーしたらいーんだよっ!」
「普通にしてて下さい。やっぱり私はいつもの莉人くんの方が好きです。無理は良くないですよ♪」
未来乃は笑いながら絡めた指を外した。何やってんだ俺? どうすれば優しく出来るんだ?
「未来乃、……なんかゴメンな、俺、昨日の別れ際に見たお前の作り笑顔が忘れられなくて、もうあんな顔二度とさせたく無いって思ったら、優しくしたいなって」
そう言うといつもの太陽の様な笑顔を見せて、
「その言葉だけで充分幸せです。私が欲しがり過ぎたんです。少なくても嫌われてはいないのは分かりましたから、少しずつでいいんで私の事好きになって下さい」
「未来乃、……俺はっ!」
「あっ、来ましたよ!! ふふっ、やっぱり走って来た♪」
正直、相沢達の事より俺は未来乃の事で頭がいっぱいなんだけど、気付いて無いよな? 未来乃はウッキウキでメニューで顔を隠し行く末を見つめている。
※
「白河っ! どーした、何かあったのか?」
「あっ、相沢くんっ、あ、あの……」
「とりあえずドリンク取って来るわ! 白河はアイスミルクティーだよな?」
白河のグラスを持って相沢はドリンクバーに小走りで向かう。それを見て白河は俺達のテーブルに向かって口パクで『むりーっ!』と叫んでるが、もう後戻り出来ないだろ?
「はぁっ、はぁっ、お疲れ! ……ちょっと落ち着こう!」
相沢は持って来たコーラをグビグビ一気飲みして、またドリンクバーに行ってしまった。お前が落ち着けって!
そして二杯目のコーラを持って戻って来たらそれを一口飲み、深呼吸をして口火を切った。
「白河っ、先ずは俺から言わせてくれ! 俺っ、お前に告白されてからおかしくなってんだ! 練習にも身が入らないし、気がつくとお前の事ばっかり考えてるし」
「えっ、相沢……くん?」
俺達二人はメニューで顔を隠しながら顔を見合わせて、
「……予想外の展開です、これは!」
「……なんか人の告白見るのって恥ずかしいな」
「私は莉人くんの告白を一部始終見てましたけどね! しかも二度も!」
「……っっ!!」
「俺っ、嶺井があんなに白河の事好き好き言ってたから、アイツの思いには敵わないなって、だから俺の思いは完全に蓋をしてたんだよ。
なのに急に吹っ切れたとか完全に諦めたとか言って来てさ、そんな簡単に諦められる訳無いって、嶺井の事ずっと見て来たんだから忘れる訳無いだろって思ってたんだ。
そしたら次の日まさかお前が俺に告白して来るもんだから俺、テンパっちゃってさ……」
「莉人くん、あのモテモテの相沢くんがテンパってたってよっぽどの事ですよ? そして遂にリーチです! 一発ツモで裏ドラ乗れば倍満までありますよ!」
「……お前麻雀やるのか? なんか上手い事言うな!」
「最近ネット麻雀始めたんです! それより美沙希ちゃん固まってます!」
「やっぱり嶺井の事考えたら『まだ付き合えない』とか言ったけど、なんかアイツマジで吹っ切れてるみたいで、どうやら麻倉の事好きみたいだし、それに、……何人かに告白されてるんだろ?」
「あ……うん、結構しつこい先輩も居て……」
「上手いです! でもこれは演技じゃなくて本当の事ですよね? しかも必殺の上目遣いで!」
「今の白河じゃ演技なんて出来ないだろ? それにあの上目遣いで俺がどれだけ……イテッ!」
「俺っ、お前の事が好きだ! 正直に言うと中三の時から好きだったからお前と一緒の高校受験したんだ! まぁ嶺井も一緒だってのもあったけど」
「相沢……くん!!」
「今まで言えなくてゴメン、でも友達を差し置いてまで付き合おうとは思えなかったんだ、アイツは俺の恩人だからさ」
「うん、分かってる! でも、そんな相沢くんだから好きなんだよ。私なんて中一の時からずっと好きだったんだもん!」
……なんだ、俺が好きになった時にはもう、白河は相沢の事が好きだったんだな。
それを聞いて未来乃は俺に顔を近づけて来て、
「あー、また凹んでますね? これ以上覗き見してもメンタルやられるだけですよ。こっそり抜け出しましょう!」
俺の手を握りしめてレジまで歩き出した。帰り際に白河と一瞬目が合ったので、俺は親指を立てて店を出た。
※
「はぁ〜っ、なんか思い描いたシナリオでは無かったけど、結果オーライでしたね!」
店を出て俺達は顔を見合わせて笑った。外はまだまだ日が出ていて蒸し暑く、涼しい店内との温度差が凄い事になっていてすぐに汗が噴き出て来た。
俺達は急ぎ足で日陰がある近くの公園に避難した。
「あぁ、あんなに練習したのにな。でもまさか相沢からあんな告白をして来るなんて思わないだろ?」
「はい、あのいつもひょうひょうとしている相沢くんがあんなに必死に告白をするなんてビックリです!」
「これで一件落着だな。……うん、……良かった」
すると未来乃はぎゅっと手を握りしめて、
「今日は良いですよ、泣いても思い出に浸っても、私が全部受け止めてあげます! でも、今日だけですよ? 明日からは私だけ見て下さいね♡」
「未来乃、……お前」
「しょーがないです、だって五年間ずっと好きだったんですよね? 口では何とでも言えますけど人はそんな簡単に忘れられませんよ」
そう言って少し照れながら両手を広げて『はい、どーぞ!』と言って来た。『私の胸で泣いてもいーよ』って事だよな?
「あはははっ、あの日フラれた時泣きまくったからもう泣かないしっ! それに、自分が思ってたよりもショックじゃないんだよね。相手が相沢ってのもあるし、未来乃がずっと居てくれたからさ」
「あれ、合法的に抱きつけるチャンスを自ら放棄しましたね? 今日だけの特別なのにいーんですか?」
そう言われると、あの柔らかい胸に顔を埋めて泣けると言うのは魅力的だ。でもここはグッと我慢だ。
「いーよ、せっかくの可愛い服が涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになったら嫌だろ? それよりもさ、俺、今から行きたい所があるんだ。一緒に来てくれないか?」
「えっ、……別にこの後予定はないので何処へでも着いて行きますよ」
俺達は立ち上がりどちらともなく手を繋ぎ、公園を抜けて少しだけ薄暗くなった商店街を歩きだした。
「……ところで、何処へ連れてってくれるんですか?」
「んー、未来乃の言葉を借りると『聖地巡礼』かな?」
十分程歩いて行くと、いつもの見慣れた場所に辿り着いた。
「莉人くん、…………ここって」
「あぁ、…………学校だよ」
俺は未来乃の手を握りしめて、体育館裏へと歩いた。
次回、最終回です!




