第31話《5日目》その1
夏休み前日の夜なんて、学生にとっては最も楽しいハズなのに、俺の煮え切らない態度のせいで未来乃は自己嫌悪に陥ってると思うと、胸の辺りがムカムカして昨夜は中々寝付けなかった。
とりあえずジョギングに行って、いつもより少し長めに冷水のシャワーを浴びる。スッキリして目は覚めたが胸のムカムカは取れなかった。
いつもの様に一人で朝食を取り、リビングでテレビの情報番組を垂れ流しながらボーッとしていた。
昨日未来乃と別れた時の作り笑顔が頭から離れない。あんな顔をさせてしまった自分に腹が立つ。
気晴らしの為ゲームをしたり、宿題に手をつけてみたものの、集中なんて出来っこない。結局、ベッドでスマホを見ながら寝落ちしてしまった。
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はっと目が覚めたら午後二時、悪い夢でも見たのか寝汗でびっしょりだ。もう一度シャワーを浴びて軽く昼飯を食べる。そして着替えて少し早めに昨日のファミレスに向かった。
約束の時間の三十分も前に着いてしまったが、それよりも早く白河が居た。俺は軽く手を上げ白河の居るテーブルに座った。
「えへへっ、なんか緊張しちゃってさ、家にいても落ち着かないからここで勉強してたの。嶺井も早いねー」
「俺も早く白河の迫真の演技が見たくて時間より早く着いちゃったよ!」
「もぉ〜っ、そこは勇気付ける言葉をかけてくれるのが親友でしょ? あーまた緊張してきたぁ」
本日の主役は緊張しながらも結構楽しんでる風だった。まぁ限りなく上手く行くのが分かってるからだろうけどね。
俺はドリンクバーでジンジャーエールを入れて席に向かう途中、入り口のドアが開いた。
そこには薄いピンクのシアーカーディガンに黒のミニスカートの未来乃が現れた。
「あっ、莉人くん、早いね」
「あー、今来た所だけど……、私服、初めて見たけど可愛いな、凄く似合ってるよ」
「……っっ!!」
自分でも驚くほど自然に可愛いとか言ってしまった。未来乃の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ど、ど、ど、どーしたんですか莉人くん? いきなりそんなセリフをサラッと言うなんて、まるで相沢くんみたいですよ?」
「いや、俺、昨日ヤマさん夫婦に言われて反省したんだ。未来乃ごめんな、これからは俺、自分に正直になろうと思うんだ」
「なんか怖いです。こんなの私の知ってる莉人くんじゃ…………あっ!」
未来乃は辺りをキョロキョロ見回してニヤリと笑った。
「ははぁ〜ん、理解しました。これはドッキリですね! 『普段塩対応の男に優しい言葉をかけられたらチョロい女はどんな反応をするか?』ですよね? そしてあの防犯カメラはダミーで、あそこのバックヤードで私を見て笑ってるんです!」
「何言ってんだ? 連日の猛暑で頭がおかしくなったのか? 制服姿しか見てなかったから、私服の未来乃を見て素直に可愛いなって思っただけだよ、さぁ、白河も来てるし行こうぜ!」
耳まで赤くなり、口をパクパクしている未来乃の手を引いて白河の居るテーブルに座らせた。
「未来乃は何飲む? 俺がとって来てやるよ!」
「……それじゃアイスカフェラテをお願いします。って、莉人くん優しすぎます。いつもみたいに私を罵って下さい」
「罵ってなんか無いだろ、それより暑かっただろ、相沢が来るまでゆっくりしてろよ」
俺は真っ赤になって何故か困り顔をしている未来乃を横目に、ドリンクバーでアイスカフェラテを取りに行った。俺って未来乃に対してそんなに態度悪かったっけ?
そして席に戻ると何故か二人は言い合っていた。
「はい未来乃、ここに置くぞ。それより何揉めてんだ? 二人は友達になったんだろ?」
俺は未来乃の隣に座ったらいきなり袖を掴まれた。
「聞いて下さいよ! 美沙希ちゃんがこの大舞台を前に私に謎のマウントを取って来たんです!」
「マウントなんて取って無いわよ、ただ嶺井はいつも私のドリンクを何も聞かずに取って来てくれるって言っただけよ」
「それがマウントじゃないなら何だってんですか?」
「いつでも嶺井は優しいんだよって言いたかっただけなのに、なんでそんなに怒ってるの?」
「はぁ〜っ、これぞ天然娘炸裂です! 美沙希ちゃんには特別優しいの分からなかったんですか、全くもう!」
「まぁまぁ、落ち着け未来乃。これからはお前の事を誰よりも一番に優しくするからさ、白河も悪気があって言ってる訳じゃないの分かるだろ? 許してやってくれよ」
そう言って優しく頭を撫でたら未来乃はビクッとして俺から離れ、ソファーの端っこに移動した。
「おっ、おかしいですよ莉人くん。優しすぎて逆に気持ち悪いです! なんか変なモノ食べたんですか?
そうじゃ無かったら完全な死亡フラグです! まるで『白河と相沢の事が片付いたら俺達付き合おう』とか言って帰り道、脇見運転のトラックに轢かれちゃうパターンですよ、ソレ!」
「だから嶺井はいつも優しいのよ! 私の友達にも普段から気を配ってくれて、未来乃ちゃんにだけそんな態度なんじゃないの?」
「ガーン! そーなんですか? イヤイヤ違います。美沙希ちゃんの友達だから優しくしてるんですよ、もう美沙希ちゃんはこれから『マウントとり子』って名前に改名したらどーです?」
「ひどーい! 嶺井っ、もっと未来乃ちゃんに優しくしてあげないと駄目だよ、じゃないとこの子、どんどん性格が歪んでいくよっ?」
二人でワーキャー言い合ってる。でもこんな白河見るのもレアだな、まぁ周りにこんなにも白河をディスる奴は居ないもんな。俺が生暖かい目で見ていると標的が俺に変わった。
「莉人くん、……なんですかその顔は? まるで子供のケンカを見ている父親の様ですよ!」
「嶺井っ、未来乃ちゃん早くなんとかしてっ!」
「もうっ、うるさーい! 未来乃にはこれからうんと甘やかしてやるから! あと白河は、俺達そろそろ席移動するからセリフの見直しでもしてろよ、ホラッいくぞ!」
俺は店員さんを呼んで、ここより二つ先の斜め奥に席を変えてもらった。
「じゃ、俺達はあそこで見守ってるから頑張れよ!」
「美沙希ちゃん、ここは一時休戦です。まさに『陰ながら応援してます』です!」
「うん、二人ともありがとう! 未来乃ちゃん、本当は私が緊張しない様にワザと喧嘩ふっかけてくれたんだよね! 分かってるんだから!」
俺達は手を振り、白河の席からは死角になっている席に陣取った。四人掛けテーブルだが俺は未来乃の隣に腰掛け、
「未来乃、やるじゃん! やっぱりお前は良いヤツだよなー!」
俺が頭をポンポンしたら眉をひそめて、
「……いえ、ガチ喧嘩だったのに美沙希ちゃん、やっぱり天然が過ぎます、敵わないです」
「……そ、そうなんだ、なんかゴメン」




