第3話《1日目》その3
「そんなの俺の気持ちの整理がつくまでだよ。なんたって中一から今までずっと好きだったんだからな」
「それだったら負けませんよ! 私だって中二からずっと嶺井くんの事好きだったんですから! 白河さんっていう勝ち目のない巨大な壁が崩壊した今、私にとって人生最大のチャンスなんです!」
「ちょっと待って! 中二って俺達、中学も同じだったの?」
「いえ、私『バカ原二中』で有名な『麻原二中』でしたから。嶺井くんがこの高校受験するって知って私、中二の冬から死ぬほど勉強したんですよ! あの、……ちょっとだけでいいんで褒めてもらっても良いですか?」
「いや、素直に凄いと思うよ! ウチの高校偏差値高いのによく頑張ったね! ……ん? 俺がこの高校受験するって誰に聞いたの? ……まぁそれはいーけど、中学も違うし俺と麻倉さんの接点ってナニ? どこで俺達は出会ってるの?」
「よくぞ聞いてくれました。 それじゃヒントその一、これで分かりますか?」
彼女は肩に掛かる髪をゴムで結んでおさげにして、カバンから眼鏡を取り出し装着した。中学の頃はそんな感じだったって事だよな?
「ヒントその二、私は発育が早いのか中二の時点で今のスタイルと変わらない位になっています」
俺はマジマジと彼女の体を見てしまった。流石バニーガールをやるだけあって出てる所は出て引っ込む所は引っ込んでる。中二の時点でこんなスタイル良かったの?
「ヒントその三、そんな私が夏の暑い日、うっかり薄着で結構混んでる電車に乗ってしまいました。……これで分かりましたよね?」
「……っ!! あっ、あぁーっ! 分かった!! 俺、君が痴漢に遭ってる所を見つけて犯人捕まえたんだ! その後警察から表彰されたもんなー!」
「大正解です! あの時嶺井くん警察と一緒にどっか行っちゃうし、私もあまりに怖くてその場で倒れて医務室に運ばれて、お礼もちゃんと言えなくてすいませんでした」
「あの時の女の子が君だったんだ!」
「そうです! 私だったんです! これで私がずっと嶺井くんの事好きだった訳が分かりましたよね?」
麻倉さんは俺に認知された事が余程嬉しかったんだろう。今日イチのドヤ顔で、かけていた眼鏡のブリッジを中指でクイッとした。
「なんだよー、だったら最初っから声掛けてくれたら良かったのに?」
すると今度は思いっきり頬を膨らませ拗ねた顔で俺を見て、
「何度も何度も声を掛けようと思ったんです! だけど、嶺井くんの隣にはいつもいっつも白河さんが居て……、あっ、逆ですね! 白河さんの隣には常に嶺井くんが張り付いて居て……。
あんな大好きオーラを出してる人にどうやって声を掛ければいいんですか?」
俺って他人から見ても分かる位好き好きオーラ出してたのか? そーいや相沢にも言われてそれ以来なるべく普通に接していたつもりなんだけど。
「それで晴れて高校が一緒になって、入学式の時に嶺井くんを見つけて今度こそ声掛けようと思って追いかけたら……」
「待て待てっ!! もしかして……」
「そーです! またしても体育館裏でフラれてました」
「あの時も見てたのかっ?」
「はい。一部始終です! その後も懲りずに嶺井くんは白河さん一筋で……。でもいつかきっと諦めてくれるんじゃ無いかと思って、私は運良く隣の席になった親友の相沢くんからせっせと嶺井くんの情報を入手して、今日の日が来るのを虎視眈々と待っていたんです。
いけませんか? 私、今まで嶺井くんに迷惑かけてませんよね? 認知すらされて無かったんですから!
今、私、人生最大の勇気を振り絞って嶺井くんに告白したんです。 友達からでも良いんです。……それも駄目ですか?」
凄い圧をかけて泣きながら早口で迫って来た! それだけ必死なんだな。俺はさっき白河に告白した時の気持ちをダブらせていた。
「麻倉さんゴメン。会ってすぐ、しかも完璧にフラれた後で君の気持ちに応える事は俺には出来ない。それに君が思ってくれてる程俺は大した奴じゃないよ」
「そんな……事ないです! 私にとって嶺井くんは……うっっ、うっっ!!」
何かを言おうとしているんだろうけど嗚咽で良く聞き取れない。
「ちょっと待って! いきなり付き合うとかは出来ないけど友達としてなら全然オッケーだよ! 断る理由も無いし、正直な所最初は変なヤツかと思ったけど俺の事そんなに思っててくれたんだって分かったら俺だって悪い気はしないよ!」
「……ホント、ですか? それじゃ友達からでいいんで私と仲良くして下さい、お願いしますっ!!」
……っっ!!
涙を拭おうともせず泣き笑いをする彼女に不覚にも俺はドキッとしてしまった。自分でもビックリだが手が勝手に動き麻倉さんの両手を掴んでいた。
「こちらこそ何も気付かないでゴメン。今から友達って事で宜しく!」
「嶺井く……ん。嬉しいです! これで嶺井くんも新しい一歩が踏み出せましたね! 次の目標は『友達以上恋人未満』ですっ!」
「なっ、何言ってんだ? まだ知り合ったばかりだぞっ?」
彼女はそんな俺の声をかき消す様に俺の手を握り返して笑いながらブンブンと振った。




