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第29話《4日目》その7



 「ようっ、お盛んだな高校生っ! お前らナニ道の真ん中でイチャイチャしてんだよ!」



 あー、面倒くさいな、相手は何人居るんだ? 未来乃も居るし喧嘩はマズいよな。


 振り向いた先に居たのは、…………なんと『おこのみこのみ』の店主、ヤマさんだった。ヤマさんはグラサンを頭に乗せ、アロハシャツにハーフパンツでサンダル履き、知らない人が見たらチンピラが高校生に絡んでる様に見えるだろう。俺は慌てて未来乃の手を離した。



 「ヤマさん、店どーしたんですか? この時間書き入れ時じゃないですか!」

 「それがな、昨日ウチの奴が階段から落っこちてな、足を骨折して急遽休みにしたんだよ。バイトの子も毎日出れるって訳じゃ無いからとりあえず二、三日休みにして、たまには俺ものんびりしようと思ってな!」



 と言ってパチンコ屋を指差しハンドルを握るポーズをした。あっ、そーゆー事ね。とりあえず面倒な事にならなくて良かった! 担任との約束をいきなり破る所だったよ。



 「それで真由さん大丈夫なんですか?」

 「あぁ、腰がちょっと痛いって位で後は大した事ないよ」

 


 真由さんはヤマさんの奥さんで、ヤマさんとは年が一回り下の二十代後半の可愛い感じの人で、客の目の前でも当たり前の様にイチャついている。常連さん達からは『なんでお前がこんな可愛い子嫁に出来んだよ』ってよく揶揄われている。


 真由さん曰く、飲み屋で働いていた時に一目惚れだとか言って猛烈にアタックされて、一度だけデートしたら好きになっちゃったみたいだ。……まぁこの話も何回聞いたか分からないけど。



 「それより何だお前等、友達とか言ってたクセに顔赤くして手ぇ握り合ってよー! あっ、もしかして俺、邪魔しちゃった?」

 「そんな事ないですよ、手ならいつも握ってますから♡」

 


 何故か未来乃は寿司を握るポーズをしている。さっきまでの真剣な表情からいつもの柔らかい笑顔に戻っていた。



 「あっ、それなら莉人くん、ヤマさんの所でバイトするのはどうですか? 接客業だし、知らない所で働くよりは良いんじゃないですか?」

 「何だ莉人、お前バイト探してんのか? ウチとしちゃどこの誰だか分かんねー奴雇うより、遠慮しないでコキ使えるお前みたいな方が助かるんだけどな、夏休みの間だけでもどうだ、やってみないか?」



 思わぬ所から誘われてしまった。しかも短期オッケーの接客業とか俺が探していた内容にピッタリだった。


 「俺で良ければ是非働かせて下さい! お願いします!」


 深々と頭を下げた。すると周りからヒソヒソと話し声がする。どうやらチンピラに絡まれて頭を下げてる高校生に見えるらしいぞ?



 「それじゃ莉人くん、私帰るね! 駅、すぐそこだし細かい話聞きたいでしょ?」

 「あぁ、悪いな、夜にメッセするから!」

 「ヤマさん、また食べに行きますね〜♪」

 「おぅ、なんか邪魔して悪かったな! 今度来た時サービスするからよっ!」



 知り合ってから数日しか経って無いけど明らかに作り笑いをしているのがわかる。そりゃそーだろ、肝心な所で邪魔が入ったんだから。未来乃は振り返る事なく駅に向かって走って行った。


 てか俺、……あの時もう自分の気持ちを伝えるつもりだったよな?



 「そうと決まれば莉人、お前時間あるか? 母ちゃんには俺から連絡入れとくから、店戻ってシフト確認と簡単に仕事内容教えるよ」

 「ありがとうございます、宜しくお願いします!」




 ※

 



 思いもよらない所でヤマさんに会い、すんなりとバイトが決まった。

 ヤマさんは見た目がイカつくて口が悪いから誤解されやすいけれど、実はとても気配りの出来る優しい大人だ。現に真由さんがヤマさんにメロメロなのは多分そーゆー所を見てるからなんだろう。


 ヤマさんは『せっかくの夏休みなんだから遊び優先していーんだからな! だけど町内の夏祭りだけは店頭販売するから出てくれないか?』と言ってくれたので、この先未来乃と行くであろう花火大会や町内以外での夏祭りの日は休みにしてもらった。


 「あら莉人くん、ヤマちゃんに聞いたわよ、バイトしてくれるんだって? 若くていい男が働くならお姉さんもお店出ようかなー♡」


 松葉杖をついて真由さんがやって来た。すると慌ててヤマさんが駆け寄り、


 「バカヤロッ、大人しくしてろって言ってるだろ! 転んでケガでもしたらどーすんだよっ?」


 口は悪いけど、ちゃんと体を支えてあげてる所はやっぱりヤマさんらしいよな!


 「だってぇ〜、莉人くんの顔見たかったんだもん! ねぇ、せっかくだからウチで晩御飯食べてかない?」

 「おぅ、母ちゃんにもそう言ってあるから食ってけよ! 美味いぜ、真由の飯は!」 



 ヤマさん家は一階が店舗になっていて、二人は二階と三階で暮らしている。


 「真由さんこんばんは! これから宜しくお願いします。足を骨折してるのにわざわざ降りて来てもらってすいません。それじゃ遠慮なくいただきます!」




 ※




 「真由のヤツ、お前が来るってんで張り切りやがって! 大人しく寝てればいーのによ!」

 「もぉ〜っ、ヤキモチやきなんだからぁ〜♪ でも若い子は見てるだけで満足なの! だって私はヤマちゃん一筋なんだから♡」

 「俺だって、……女は真由だけって決めてんだ!」

 「ヤマちゃん……好き♡」




 ……なんなんだ、この夫婦は? 結婚してかなり経ってるよな? なのになんでこんなに新婚みたいなんだ?



 「すいません、美味い飯食わせて貰ってありがたいんですが、イチャイチャするのは俺が帰ったらやってくれませんかねぇ?」

 「んぁ? お前だって道の真ん中で堂々と手なんか握り合ってイチャついてただろうがよ?」

 「えぇ〜っ、何ソレ? 莉人くんやるじゃん!」



 既に顔が真っ赤になってるヤマさんは酒が好きなクセに弱いらしい。そして飲んでもいないのに酔っ払いテンションの真由さんに、俺は格好の酒のつまみにされてしまった。



 「それでそれでっ! 白河ちゃんとは何処までいったの?」

 「バカッ、今はこの間一緒に来てた麻倉ちゃんって子に乗り換えたんだよ!」

 「あーっ、やっぱり! だってあの子の莉人くんを見る目、マジ惚れてる感じだったもんねぇ〜♡」


 「俺達はまだ友達で、二人が思ってる様な関係じゃないです!」




 恥ずかしいっ! ここから先は矢継ぎ早に質問攻めにあった。…………ねぇそれよりヤマさん、仕事内容は?


 


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