第23話《4日目》その1
さぁ、今日行けばいよいよ夏休みだ!
遠足も前日の夜が一番ワクワクするし、夏休みも始まる前の今日、しかも授業が終わった後が一番楽しいんだよな! 始まっちゃうとあっという間に過ぎてしまうし、このワクワクがいつまでも続けばいいのになんて思うよ。
と言う訳でテンション高めに家を出て学校へ急ぐ。
昨日は遅刻寸前だったから自転車で登校したけど、割と歩くの好きなんだよね。
校門をくぐり、下駄箱に向かおうとすると見知らぬ女の子に声を掛けられた。マジか! 未来乃の言う通りだった。
「嶺井先輩! おはようございます。あの、……ちょっとだけ時間良いですか?」
不安と期待で頬を少し赤くしている。断るのが申し訳ない位の可愛い子だけど……、相沢はいつも何て言って断ってんだ?
なるべく傷付け無い様にと思っても結局ごめんなさいだから傷付く事になるんだよね。あぁ、今朝のハイテンションが一気に下がったわ。
HRまでまだ時間があるから相沢の所に寄るか! と言うか、未来乃って本当に相沢の隣の席に座っているのかが気になっただけなんだけど。
隣のクラスを覗くと朝練を終えた相沢がいた。
「おーす、朝練お疲れ!」
「おう、どうよ、バイト決まった?」
俺は辺りを見渡した。未来乃はまだ登校してないみたいだ。
「何ナニ? 麻倉はいつもギリギリ駆け込んで来るから居ないぜ、残念だったな!」
「バカッ、違うって! 俺さ、今までお前とここで喋ってて未来乃が何処に座ってたのか知らないんだ。お前の隣の席って本当なのか?」
相沢は信じられないといった表情で、
「お前、マジで知らなかったのか? いつもここに座って約一年ちょっとの間、教科書とかで顔を隠して目だけ出してずっとお前の事見てたんだぞ?」
そう言って左隣の空いてる机をバンバンと叩いた。マジか? てかなんで気が付かなったんだ!
すると教室の入り口から元気な声が聞こえて来た!
「あぁっ、莉人くん! おはようございます♪」
未来乃だ! 当然の様に名前呼びで未来乃の友達達が一気に湧き上がる。俺と相沢の周りに集まりあっという間に取り囲まれた。
「おっ、珍しく今日は早いな? 嶺井の匂いを嗅ぎつけたのか?」
「えへへ、ちょっと今日は気になる事があって、早めに登校して莉人くんのクラスを覗いたら居なかったので、肩を落として教室に来たらとんだサプライズでした!」
俺は未来乃の友達達の興味津々の眼差しに耐えられず、名前で呼ぶ事が出来なかった。
「おっ、おはよう麻倉さん」
「何を恥ずかしがってるんですか莉人くん! ちゃんとみんなの期待に応えて下さい! さぁ早く!」
……っっ!
「おはよう、……未来乃」
「聞こえません、もう一度お願いします!」
「おはよう未来乃っ!」
「「「「「キャーーーーーッッッ!!!」」」」」
黄色い歓声が俺達三人を取り囲んだ。だから来るの嫌だったんだ! すると未来乃はあっという間にみんなに連れられて教室の隅で囲み取材が始まっていた。
「だから来るの嫌だったんだ!」
「あはははっ、まぁ明日から休みだしいーじゃねーか! で、朝早く何の用だ? また白河の事か?」
「いや、実は……」
俺は昨日の放課後と今朝後輩に告白された事を話し、未来乃は白河も告白ラッシュになると予想している話をした。
「あははは、だろうな! 夏休み前だからダメ元でみんな告って来るんだよ。確か去年もそーだったよな?
上手く行けば夏休みはラブラブだし、断られても一ヶ月は会う事も無いから都合がいーんだよ。俺んトコにも朝練終わって二人告って来たし!」
流石モテ男、まるで朝飯を食って来たみたいな言い方だな。
「それでお前、いつもどうやって断ってるんだ?」
「そんなの自分の立場になって考えろよ! 誠意を持ってうやむやにしないでハッキリ断ってやれば次に行けるだろ? お前や麻倉みたいな諦めの悪い奴は何度も来るからな、その都度無理だと言って分からせてやらないとストーカーになりやすいから気をつけないとだし」
「言ってる事は分かるけどさ、断った後の罪悪感とか無いのか?」
「それはあるけど、相手も本気で来るからな、もう慣れるしか無いよ」
すると囲み取材から解放された未来乃が相沢の隣の席に座った。本当にそこに座ったよ!
「……何ですかその目は? ずっとここに座ってたんですからね。私は莉人くんのスコトーマでしたから」
「ん、……何だそれ?」
「人は興味や関心がある情報を無意識に受け取り、関心が低いものは認知されません。正に白河さん一筋だった頃の莉人くんは私を認知して無かったって事です」
未来乃は口を尖らせて言ったと思ったら俺の腕を掴んで、
「でも今はちゃんと私を見つける事が出来てるので、私は莉人くんの興味の対象になれてるって事です。もうそれだけで幸せです♡」
「オイオイ、俺の前で朝からイチャついてんじゃねーよ! もう早く付き合っちゃえよお前ら!」
「イチャついてなんて無いだろ! それよりありがとな、少し気が楽になったよ!」
「二人で何を話してたんですか? 莉人くん、悩み事なら私に言って下さいよ」
どさくさに紛れて掴んでいた腕から下におろして手を握って来た。すると相沢がとんでもない事を言いやがった。
「コイツ、朝告られたって自慢して来たんだぜ。この俺様に向かって! 調子に乗ってんだけどどーする? このままだと可愛い後輩に盗られちゃうぜ!」
「調子になんか乗ってないだろ? いつもどーやって断ってるか聞いただけだろっ!」
未来乃は『ほら見たことか』言わんばかりの顔で、
「やっぱり!! 私の予想通りでしたね。気になっていたので早く来たんですけど既に告白されてたんですね……」
「ちゃんと断ったよ! こーゆー事慣れてないからさ、心が痛むんだよ」
「気持ちは分かります。私もこの半年間、断る度に凹みましたから……」
やっぱり相沢や未来乃みたいにモテる奴も辛かったんだな。それを聞いたらちょっとだけ気が楽になったよ。
「……て事は白河さんも今頃、色んな男達に告白されてますよ? いーんですか相沢くん、相沢くんにフラれたショックで押しの強い男にかっ攫われてしまいますよ? どーするんですか?」
今まで見た事の無い悪い顔で相沢を煽っているが、ここはモテ男、まるで動じない。
「そん時はそれまでの女だったって事よ! まぁ俺より良い男なんてこの学校に居る訳無いからな、あははは♪」
「莉人くん、私、今まで人に殺意を抱いた事なんて無かったんですけど、相沢くんに私の初めてをあげたいと思ってます」
「落ち着け未来乃っ、よく見ろ! 右の眉が上がってる時は大抵虚勢を張ってる時だ! コイツ、かなり焦ってるハズだぜ!」
「なっ、何言ってんだ? 焦ってなんかねーよ、バーカバーカ! そんな事よりお前らが付き合えば全て丸く収まるんだから早く何とかしろっ!」
未来乃は勝ち誇った顔で相沢を見上げて、
「しょうがないですね、莉人くん、それじゃあそろそろ私達付き合っちゃいますか!」
「んな訳無いだろ? それじゃあそろそろHR始まるから行くわ。お前らちゃんと仲良くしろよ!」
「あちゃー『どさくさに紛れて付き合っちゃいます作戦』またも失敗です。中々陥落してくれませんねぇー!」




