第18話《3日目》その1
「待って!!」
未来乃に手を引かれて保健室へ歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。白河だ!
「嶺井、具合悪いの?」
「……あぁ、少しダルい位だから保健室で少し寝かせてもらうよ」
すると白河は未来乃とは反対の俺の腕を組み、
「えっと、……麻倉さん? 話をするのは初めてですよね? 私、学級委員長なので嶺井は私が保健室に連れて行きます。もう大丈夫なので麻倉さんは自分のクラスに戻って下さい」
「白河さんに名前を知って貰えているなんて光栄です。でも、それには及びません。莉人くんは第一発見者である私が連れて行くので白河さんこそ教室に戻って下さい!」
今度は未来乃が白河とは反対の腕をムギュッと組んだ。二人とも俺を挟んで目を逸らさずに不適な笑みを浮かべている。
なんなだなんだ、この状態は? 他人が見たら俺はハーレム主人公かも知れないが、違う、修羅場だ!
「嶺井とは私、付き合いが長いので私が面倒を見るのが普通だと思います。さぁもうHRが始まってしまいますよ!」
「ふふっ、付き合いが長いのに名字で呼んでるんですね。莉人くん、私が連れて行ってあげますから学級委員長さんにはお引き取り下さいと言ってあげて下さい」
ちょっと待て! 何を張り合ってんだ! 未来乃はともかく白河はそんなキャラじゃないだろ?
「嶺井っ!」
「莉人くんっ!」
「あーっ、もう一人で行けるから二人とも教室に戻ってい……
「「駄目ですっ!!」」
更にガッチリと二人に両腕を組まれ、俺は囚われた宇宙人の様に保健室に連行された。
※
「あれ? ……先生居ないね」
「鍵が空いてるからそのうち戻ってくるんじゃない? 嶺井、そこのベッドで横になって」
俺は言われるがままにベッドに横たわった。正直寝不足なだけでいたって体は健康だ。熱っぽかったのは連日の猛暑と未来乃に額を触られてドキッとしたからだし。
未来乃は自分のカバンからフェイスタオルを取り出し水で絞って俺の額に乗せた。そしてまたしても二人は、ベッドを挟んで向かい合って椅子に座り愛想笑いを浮かべていた。
「ありがとう、少し寝かせてもらうから二人とも教室に戻りなよ」
「私、先生が来るまで莉人くんの事見守ってますので、学級委員長さんは担任の先生にその旨お伝えください」
「麻倉さんは隣のクラスだし、嶺井にそこまでする必要ないでしょ? ここは学級委員長でもある私が残るのが筋でしょ?」
「私はっ、私は莉人くんの『友達以上恋人未満』なんです! 好きな人が具合悪いなら側に居てあげたいって思うのはおかしいですか?」
「わっ、私だって嶺井の事は好きよ! 困った時はいつだって助けてくれるし、昨日だって私が辛い時にすぐに駆けつけてくれたんだから!
だから嶺井が辛い時、今度は私が助けなきゃ駄目なの、だって私達は『親友』なんだから!」
すると未来乃は寝ている俺を無理矢理起こし、
「莉人くんっ! 昨日白河さんに会いに行ったんですか? ……そんな事私に一言も言って無いですよね? 隠してたんですか?」
「ちょっと! 麻倉さん何やってるの? 嶺井病人なんだから起こしちゃ駄目でしょ?」
起き上がり未来乃を見ると目に涙を溜めていた。
「……ごめん、隠すつもりじゃなかったんだ。まさか白河がフラれるなんて思って無かったから俺、頭真っ白になって気が付いたら会いに行ってたんだ」
「それって、……まだ好きって事ですよね? 『白河の事はキレイさっぱり諦めた』って、あれ嘘なんですか?」
「違うっ! 嘘なんかじゃない! 白河の事は自分でもビックリする位踏ん切りがついたし、相沢と上手くいって欲しいって心から思ってる。でも、やっぱりずっと好きだったから辛い時は力になってあげたい、ただそれだけなんだ!」
すると白河が未来乃の元に駆け寄って、
「麻倉さんごめんなさい! 私っ、なんでだろう? 急に二人が仲良くなってるの見て、嶺井が取られちゃうとか思ったらちょっと意地悪したくなったの、嶺井は私の物じゃないのに何やってるんだろう。
自分でも感じ悪い事やってるの分かってたんだけど……、本当にごめんなさい!!」
白河は座っている未来乃の膝に両手をつき、しゃがみ込んで項垂れた。そして何度も頭を下げた。
「やめて下さい! 白河さんの気持ちは分かります。だってずっと好き好き言ってた人が、急に私みたいな白河さんとはタイプも違う女と仲良くしてたら恋愛感情抜きにしても嫉妬するのは当然です。
頭を上げて下さい! 白河さんは私の憧れなんです! 越えなければならない高い壁なんです! 私の大好きな人がずっと好きだった人の事、私が嫌いな訳無いじゃないですか!」
「麻倉……さん、ごめんなさい」
「だから謝らないで下さい! 私、白河さんとも仲良くなりたいです! …………でも、今日の莉人くんの事はちょっと許せません。
やっと仲良くなれたのにって、一歩前進したのにって所で奈落の底に突き落とされました」
拳を握り締め、必死に涙を堪えて真っ直ぐ俺を見て言った。
「悪い、白河。……ちょっと席を外してくれないか?」
「……うん、私、本当は二人に仲良くなって欲しいと思ってるから。麻倉さん、本当にごめんなさい!」
白河は深々と頭を下げて保健室を出て行った。
俺は未来乃の握り締めた拳を両手で包み込んだ。
「未来乃、本当に隠すつもりなんて無かったんだ。でも、余計な事は言わない方が良いとも思っていた。
いつも未来乃は真っ直ぐ俺に向かって来てくれたのに裏切る形になってしまって本当にごめん。
でもこれだけは信じてくれ、白河の事は本当に親友としか見ていないし、こんなに吹っ切れたのは未来乃のおかげだって思ってる。
何よりたった二日しか喋ってない未来乃の事をもっと知りたいと思ってるし、気になってしょうがないんだよ。恥ずかしいんだけどさ、昨夜未来乃の事考えてたら眠れなくなって寝不足だったんだ。
だから体が熱かったのかも知れないし、……その、額を触って来たから余計に熱くなって……」
「莉人くん、……ズルいです。上手い事言って私をその気にさせようとしてますね。
私の事考えて寝不足とかありえないです! 前の日は連絡先交換してない事すら気付いてない位だったじゃないですか、そんなんじゃ騙されませんよ!」
「確かにそーだよな、じゃあ昨日の放課後に未来乃が言ってくれた言葉が胸に響いたんだろうな。それからちゃんと向き合わないとって思ったし、でも朝まで寝られなかったんだぜ、それはどーゆー事だよ?」
「私に言われたって知りませんよ、どーせ白河さんと会って興奮したんじゃないですか?」
「だから違うって! 今俺が一番気になってるのは未来乃なんだよ!」
「嘘です! 私、そんなチョロい女じゃないです! ずっと好きだった女に会いに行って、それを隠してる人をどーやって信じればいいんですか?」
「…………」
「……ほらっ、何も言えないじゃないですか!」
何も言い返せない俺を見て、怒りが収まらない未来乃は涙を堪えながら俺の胸をポカポカと叩いて来た。
「うーん、…………そうだよな。俺が逆の立場だったら信じられないな。ごめん、酷い奴だよな、俺。それじゃさ、一旦『友達以上恋人未満』は解消しよう」
「なっ、なんでそーなるんですかっ?」
「うーん、それなら一からやり直し出来たらとか思って、……駄目かな?」
そう言うと何故か急にあたふたし出して、挙動不審になったかと思ったら俺の両腕をガッチリ掴んで、
「駄目ですっ! ……本っ当にもぅっ! 莉人くんは女心が全然分かってませんね? ここは余計な事言わずに強引に抱きしめて『未来乃、信じてくれ』でいーんですっ!!」
「えっ、……それって、……なんかチョロくないか?」
「いーんです、私、本当はチョロ過ぎ女なんです、さぁ、いーからとっとと抱きしめて下さい!」
未来乃は両手を広げ目を閉じた。……やれって事だよな?
俺は未来乃を強く抱きしめた。そして耳元で囁いた。
「未来乃、……ごめん、信じてくれ」
「もぅ、…………今回だけ、ですよ♡」
そう言って背中に手を回して来た。柔らかい感触と柑橘系の香りが俺の思考を停止させる。
「未来乃、俺…………」
その時、
ガラガラッ
保健室の扉が開く音がした。
バタンッ
慌てて未来乃が俺を押し倒してシーツを上から被せた。
「あらっ、……誰か居るのー?」
ヤバいっ、保健の先生だーっ!! パタパタとこっちに近づいて来るスリッパの音がして、俺達の居るベッドのカーテンを開けた。
「あっ、……先生、あの、嶺井くんが軽い熱中症みたいなのでちょうど今ベッドに寝かしつけた所です。後はお願いしますね、それじゃ私、失礼します」
すげーな未来乃、咄嗟に俺から離れてよく適当な事言えんな!
てか焦ったー! あんな所見られたら停学とかになるんじゃないか? ……まぁ上手く誤魔化せて良かったよ。
だけど未来乃が保健室を出ようとした時、先生に呼び止められた。
「あなたちょっと待ちなさいっ! 顔真っ赤じゃない? 熱あるんじゃないの? あなたも隣のベッドでちょっと休んで行きなさい!」
「…………っっ!! はっ、はい」




