第17話《2日目》その8
白河と別れ家に着き、時計を見ると既に十一時を回っていた。
「ただいまー、ごめん遅くなって!」
「もぅ、いきなり飛び出して行ってビックリしたわよ! 心配してたんだからねっ、今度から遅くなる時はちゃんと連絡しなさいよ!」
母さんは口ではそう言ってるが、俺の顔も見ずサブスクの韓国ドラマから目が離せない。あまり心配はしていないみたいだ。割と信用されてるって事でいーんだよな?
明日相沢に話をする前に未来乃にも報告しておいた方がいいよな? 同じクラスだし、俺より先に相沢に会うだろうから。
俺はスマホを取り出し未来乃にメッセを送った。
『さっき電話したばっかだけど、今、時間大丈夫か?』
すると直ぐに既読がつき、
『全然平気っ! 朝まで大丈夫ですっ♡♡♡♡』
『莉人くんからメッセが来るなんて!!!』
『スクショします! 興奮して眠れそうもありません♡♡♡』
……と共にウサギの目がハートマークになってるスタンプが矢継ぎ早に送られて来た。うーん、熱烈な歓迎っぷりだな。嬉しいんだけどなんか照れ臭いよ。
『ちょっと長くなりそうだから電話していいかな?』と送ったら秒で着信がなった。マジか?
『声がっ? もしかして声が聞きたくなっちゃったんですか? それとも、……ついに告白、……とか? ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備がまだ全然出来てません。とりあえず深呼吸させて下さい。すぅ〜っ、はぁ〜っっ!!』
「落ち着けっ、声が聞きたくなった訳でも告白でもないからとりあえず冷静になれ!」
……すると、暫く無言の時間が続いたかと思ったら大きなため息が聞こえた。
『はぁ〜っ、焦って損しました。しかも声が聞きたい訳じゃ無いとか、恋人未満の私に対して失礼です! 全くもぅ! そーゆー時は嘘でもいいから言うものなんですよ!』
見えなくても分かる、今、絶対頬っぺた膨らませてるぞ。
『あぁ、でも莉人くんから連絡くれるなんて一昨日の自分が知ったらぶっ倒れてると思いますよ、ふふっ♪』
「大袈裟だよ! それより聞いてくれ、さっき未来乃の電話切った後、白河からメッセが届いてさ、……相沢に『今は付き合えない』って言われたって。明日学校で俺より先に相沢に会うだろ? だから未来乃には伝えておかないとって思ったんだ」
『えっっ? …………そーなんだ。あの白河さんまでフるなんて相沢くん、実は莉人くんの事が好……』
「待て待てっ、そんな事ある訳無いだろ!」
『まぁ冗談ですけど! ……う〜ん、でもおかしいですね。私、隣の席で一年ちょっと見て来ましたが、相沢くんが白河さんを見る目は、他の女子を見る時とちょっと違う気がしたんですけどね、気のせいだったのかな?
あっ、でも今は付き合えないって事は、…………なんか二人共似てますね。それじゃあ、いつなら付き合えるんだって話ですよ、待つ方の身にもなれってんですよ、全くもぅっ!』
思わぬ所で怒りを買ってしまった。
「ま、……まぁ、それは置いといてさ、アイツってモテるじゃん、今まで告白して来た子にはちゃんと断ってたのに『今は〜』って事はさ、それってやっぱり俺に遠慮してとか考えてるからなのかなぁ、どう思う?」
『う〜ん、私もそれ以外思いつきませんね。昨日のお好み焼き屋さんでの私達のラブラブっぷり位じゃ納得出来ないって事ですかねぇ?』
ラブラブでは無いだろ? とは言わずにやり過ごしたら『そこはツッコむ所ですよ!』と言われてしまった。う〜ん、まだちょっとさじ加減が分からないな。
「とりあえずさ、急に顔出さなくなるのも変だから会いに行くけど、明日は相沢から切り出して来るまで俺からは何も言わないつもりでいようと思うんだ。一応告白の事も知らない事になってるしな」
『そーですよね、私が知ってるなんて思ってもいないだろうし、私も普段通り莉人くん話に花を咲かせようかと思います』
「……っっ!!」
お前っ、本当に俺の話ばっかりしてたのかよ? この部屋エアコン効いてるハズなのに顔が熱くなって来た。
「じゃ、……じゃあ遅い時間に悪かったな、まぁこんな事があったって報告だから、明日は普段通りにって事で!」
『ちょっ、ちょっと待ってください! 今、さらっと電話切ろうとしましたよね?
恋人未満の私に対して「おやすみ、未来乃♡」位言ってくれないと今夜、莉人くんが私の夢の中に出て来ません!』
……なっ、何言ってんだコイツっ!!
『……』
「…………」
『さぁ……早くっ!!』
「…………っ!! おやすみ、未来乃っ!」
『…………うん、おやすみなさい。莉人くんも私の夢を見てくれたら嬉しいです♡』
画面の通話終了の文字を見て、ベッドに倒れ込み大きく息を吐いた。
……何で俺、こんなにドキドキしてるんだ? 『おやすみ』って言っただけだろ? それに、ただ、おやすみって言われただけなのに…………。
俺はいつもより冷房の設定温度を下げて毛布にくるまった。
※
〜次の日の朝〜
「おはよ、嶺井!」
「おぅ、おはよう白河!」
良かった、元気そうだ。俺は挨拶だけしたら昨日と同じ様に自分の席についた。
そんな事よりも、だ!
寝つきも寝起きも良いのが自慢の俺が昨日は中々眠れず、空が明るくなって来た頃にようやく眠りについた。
そして目が覚めたら日課のジョギングにも行く時間も無く、当然朝食も抜いて慌てて教室に駆け込んだ。あー腹減った。
原因は分かっている。一昨日初めて喋って友達になり、昨日『友達以上恋人未満』になった未来乃のせいだ!
とにかく頭が混乱している。五年間片思いで女と言えば白河の事以外目に入らなかったクセに、目を閉じるとたった二日間しか会っていない彼女の事が頭から離れない。
白河とはノリもタイプも全然違うけど、確かに可愛い。誰が見てもそう言うだろうし、現に隣のクラスではアイドル的存在らしい。
そんな彼女に正面から全力であれだけ好き好き言われたら……って! 俺ってチョロ過ぎなのか? イヤイヤ、誰だってそうだろっ?
「あ〜っ、もうっっ!!」
俺が机で頭を抱えていると、トントンと肩を叩かれた。
振り向いた先には、…………未来乃が居た!
「おはようございます莉人くん。……どうかしたんですか?」
「みっ、未来乃っ? おっ、おはよう、それより何で居るんだ?」
「自分の教室に行く途中にいつもの様にチラリと莉人くんの顔を見ようと思ったら頭を抱えていたので、何事かと思ってつい、……それでどうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」
「お前今サラッと言ったけど、……毎朝見てたのか?」
「はい、入学式の翌日から毎朝欠かさずです! ……アレ? 莉人くん顔が赤いですよ、熱でもあるんですか?」
そう言って俺の額に手を当てて来た。やめろって! クラス中の視線が俺達二人に向けられているのが分かる。
「んー、やっぱりちょっと熱いですね、軽い熱中症かも知れませんよ。立てますか? 一緒に保健室に行きましょう」
「だっ、大丈夫だって! ほらっ、そっちももうすぐHR始まるだろ?」
そんな俺の言葉なんてまるで耳を貸さずに未来乃は皆の視線に向かって頭を下げ、俺の手を引き教室を出た。背中に黄色い歓声と野太い怒号が突き刺さる。これはこのまま保健室で寝かせてもらった方が安全かも知れないぞ?




