第16話《2日目》その7
『相沢くんに聞いてるかもだけど、……ダメだった。骨、ちゃんと拾ってね』
…………マジかよ?
俺はなんて返信したらいいんだ? 既読がついてる以上何か返さないと。でも白河がフラれるなんて想像もしてなかったから頭が真っ白になってしまった。
なんだよ相沢っ、未来乃の勘では脈アリだって言ってたのにどーしてだよ?
「ちょっと出て来るっ!」
気が付いたら家を飛び出して白河の家に向かって自転車を漕いでいた。俺ん家から白河ん家まで約三キロ、十分前後だ。
会ってどーするんだ? 何を言うんだ? と頭の中で自問自答してる内に白河の家の前まで来てしまった。その場で電話をかけるとすぐに白河の声が聞こえて来た。
『嶺井……』
「骨を拾いに来た! 家の前に居るから降りて来いよ!」
『なっ、なんでっ? ……嘘でしょ?』
通話が切られて二階のカーテンが開き窓が開いた。
白河と目が合い、軽く手を上げると白河は姿を消した。
暫くして玄関の扉が開き、Tシャツにパンツ姿の白河が目を赤くして出て来た。
「嶺井……なんで来るのよっ? もうっ、ここじゃなんだからちょっと歩こう」
フェイスタオルを顔に当てて白河は少し笑いながら俺の胸の辺りをグーで殴った。
俺は自転車を押し、白河の隣を歩きながら無言のまま近くの公園へと向かった。
※
「ほらっ、これ飲んで落ち着けっ!」
「……ありがとう」
自販機で白河の好きなアイスミルクティーを買い手渡すと、いつもの凛とした白河とは別人の様に涙を拭きながら背中を丸めベンチに腰掛けた。
「……相沢からは何も連絡が無かったからてっきり上手くいってんのかと思ってたからさ、メッセ見て正直頭が真っ白になったよ」
「……うん、ごめんね、変なの送って。いっぱい泣いたらなんか嶺井の顔が頭に浮かんで来て……、ズルいし酷い事言ってるのは分かってるの!」
肩を震わせてタオルで顔を覆っている白河の隣に座り俺は黙って話を聞いていた。
「それなのに嶺井の顔見たらホッとして、……昨日あんな形で告白を断っておいて、それでも私と相沢くんの事応援してくれて、おまけに背中まで押してくれて、それで、……それで、今もすぐに駆けつけてくれて……嶺井、もぅ何でそんなに優しいのよ?
それで、…………それに甘えてる私、……本当最低だ」
こんな弱りきった白河を放っておく事なんて出来ない、俺は思わず白河の事を抱きしめていた。
「いいんだよ、俺の事なんて気にするなよ! 付き合い長いんだからさ!
ズルくたって最低だっていつでも俺はお前の味方だから! いっぱい泣くとスッキリするぞ、昨日の俺がそうだったからな!」
「嶺井…………っっ!! うわぁぁぁんん!!」
俺の胸で幼い子供の様に泣き喚く白河は普段とは想像もつかない程小さく見えた。気持ちが分かりすぎるだけにここは何も言わず泣かせてやろう。
俺は白河が泣き止むまで背中を優しくさすっていた。
※
「…………どうだ? 思いっきり泣くと案外スッキリするだろ?」
どの位時間が経ったのか分からないが、ようやく俺の胸から離れ、白河は手に持っていたミルクティーを一口飲んだ。
「……ありがとう嶺井。でもあんまり見ないで、顔ぐしゃぐしゃで恥ずかしいよ」
そう言ってタオルで顔を覆ってしまった。
「今更何言ってんだよ? 別にどんな顔してたって白河は白河なんだからさ、さぁ、もう遅いから帰ろう」
「どうして…………何も聞かないの?」
「聞く必要も無いだろ? それに昨日言ったろ、俺みたいにあと二回は告白するんだって! もしそれでもダメだったらお前の代わりに俺が相沢の事一発ぶん殴ってやるよ!」
そう言って俺はシュッシュッとシャドーでワンツーを決めた。
「あはは、ダメだよ! ボクシングやってた人のパンチなんてもらったら顔ぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」
「バーカ、腹殴るに決まってんだろ! あんなイケメンの顔殴ったら全校生徒の敵になるぞ、俺!」
「ふふっ、やっぱり嶺井は優しいね! ヨシッ、そうだよね、一回断られたからって諦めたら嶺井に失礼だよね、それに相沢くん言ったんだ。『今は付き合えない』って。だから時期を見てもう一度チャレンジしてみるよ!」
「ちょっと待て! アイツ今は無理って、それじゃいつならいーんだよ?」
「んー、それは教えてくれなかったけど、多分大会も近いし色々落ち着いたらって感じだと思うんだ」
多分それは違う、絶対アイツは俺に気を使って断ったに違いない! これじゃ俺、二人の邪魔をしてるただの迷惑野郎だ!! とりあえず明日相沢に会って話をしてみよう。
「じゃあまだ可能性はあるって事だよな、だったら絶対諦めんなよ! もしかしたらその時は一週間後かも知れないんだからさ」
「ありがとう、私、その時が来る迄にもっと自分を磨いて、今度は相沢くんから好きって言ってもらえる様に頑張るよ!」
「あぁ、いつでも俺は白河の味方だからな!」
ベンチから立ち上がり、座っている白河に手を差し伸べるといつもの笑顔に戻っていた。
「よし、帰るか!」
「うん!」
さっきと同じ道を自転車を押しながら二人並んで歩いた。家の前に着くと白河は握手を求め、
「それじゃ、今日は本当にありがとう! 嶺井がいなかったら今頃私、ベッドで泣き疲れて明日学校に行くのやめてたかもだよ」
俺は差し出された手を握りながら、
「そりゃ良かった。明日白河が学校に来てなかったら授業抜け出して見舞いに行く所だったよ!」
すると白河は握った手を強く握り返してニヤリとしながら、
「そんな事になったら名前呼びする誰かさんに怖い顔で睨まれる所だったね、ふふっ、危ない危ない♪」
「何言ってんだ! まだ俺達そんなんじゃないって!」
「ふーん、まだって事は、そーゆー事なのね! よーし、私も嶺井に負けない様に頑張るぞっ!」
そう言って白河は手を振りながら玄関を開けて帰って行った。 そう、まだだから俺もちゃんと未来乃に向き合っていかないとだよな。




