3 もう1つの青い海のナギ
潮田 伊織は放課後の図書室で、web小説をめくる手を止めた。
青がナギの手を握って、海辺を歩くシーンだった。
——お前、そんな簡単にナギに触るなよ。
胸の奥がチリチリした。
伊織は顔を上げて、誰もいない図書室の静けさにため息をもらした。
「青の野郎……」
小さくつぶやく。
フィクションの人物に嫉妬しているなんて、誰にも言えない。
でもナギが笑うたび、伊織の心もふるえた。
ナギが海に消えるたび、胸の奥が波立った。
——ナギがもし現実にいたら、絶対に青なんかに渡さない。
そう思っていた、あの日までは。
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「転校生を紹介するぞー」
担任の声に教室がざわめいた。
ドアの向こうから入ってきたのは、長い髪をひとつに結んだ女の子だった。
「汀彩夏です。よろしくお願いします」
その声を聞いた瞬間、伊織は息をのんだ。
言葉にできないけれど——ナギに似ていた。
空気のまとい方が、光の反射の仕方が、あのweb小説の中の人魚に似ていたのだ。
人魚って、こういう他所からきた少女も指すのかも知れない。
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昼休み。
彩夏はひとりで屋上のベンチに座っていた。風が彼女の髪を揺らす。
伊織は気づけば、弁当を持ってその隣に座っていた。
「なあ、彩夏って、海の近くから来たの?」
「うん。港町の方。海が好きだから」
「……やっぱり」
「やっぱり?」
「いや、なんでも」
伊織は顔をそむけて、ごまかすように唐揚げを口に放り込んだ。
彩夏はくすっと笑った。その笑い方まで、ナギにそっくりだった。
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放課後、彩夏は図書室でスマホを開いていた。
覗き込むと、それは『青い海のナギ』。
「それ、読んでるのか?」
「うん。web小説一覧を見ていたら目に止まって。すごくきれいで、切ない話だよね」
「……そうだな」
伊織は内心ざわついた。
——彩夏まで、青のことが好きになるんじゃないか。
「ねえ、伊織くんはどのシーンが好き?」
「俺? ……ナギが初めて笑ったとこ」
「わたしも」
彩夏がそう言って笑った。
心臓が跳ねた。
もうナギも青も関係ない。ただ、目の前の彼女の笑顔に惹かれていた。
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夏休み。
二人は図書室で同じページを開いていた。
海を見つめるナギの描写のあたりで、彩夏がぽつりと言った。
「ねえ、伊織くん。青って、ナギがいなくなっても、きっと探し続けるんだよ」
「……なんでわかるんだよ」
「だって、好きだったから」
伊織は本を閉じた。
そして言った。
「俺も……ナギを探してた。けど、今は——彩夏を見てる」
彩夏は驚いたように目を丸くして、それからゆっくりと微笑んだ。
風が吹いて、カーテンがふくらんだ。
web小説の中の海も、伊織の心の中の海も、静かに凪いでいた。
読んでいただき、ありがとうございます。
タイトルどうり、今回はナギと青の物語ではありません。
人魚の物語は悲恋が多いので、
人魚って他の地域の人を指すのかな?と想像して、
こんな物語を作りました。
アイデアを出してAIが書いたものを加筆修正しました。