14 ナギ、ピアノコンサートに行く
その日は、風が少し冷たくなりはじめた秋の午後だった。
青のお母さんが、町の文化会館で開かれるピアノコンサートのチケットを手にして言った。
「ナギちゃんも一緒にどう? きっと楽しいわよ」
ナギは少し首をかしげた。
「ピアノ」という言葉を聞いたのは、浜辺で青が話してくれたとき以来だった。
海の底にはそんな楽器はない。けれど、音で人の心を動かすものだと聞いて、ずっと気になっていた。
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文化会館のホールに入ると、空気がしんと澄んでいた。
黒いピアノが、まるで大きなクジラのように舞台の真ん中に座っている。
ナギは少し緊張して、青の袖をつまんだ。
「大丈夫だよ、ナギ。静かに聴いてればいいんだ」
青がそう言って、にっこり笑った。
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やがて照明が落ち、ピアニストが静かに座る。
一曲目は「子犬のワルツ」だった。
軽やかな指先が鍵盤を駆け回る。
その音は、波打ち際を駆ける白い犬のように速く、弾むように明るかった。
ナギの胸の奥がふっと熱くなった。
「……シロ!」
小さく声を漏らすと、青が驚いてこちらを見た。
けれどナギの目はもう舞台の上に釘づけだった。
旋律のひとつひとつが、あの白い犬――シロが海辺を走り抜けていく姿に重なって見えたのだ。
波を蹴って、風を切って、青のそばへ走ってくる――。
ナギは思わず両手を胸にあてた。
音が、心の奥の海を震わせていた。
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曲が終わると、拍手がホールいっぱいに広がった。
けれどナギはしばらく手を叩けなかった。
まぶたの裏で、シロが尾を振りながら笑っていたからだ。
「ねえ、青」
「ん?」
「ピアノって……心の波を鳴らす楽器なんだね」
青は少し照れたように笑った。
「うん。ナギにも、ちゃんと届いたみたいだな」
その夜、帰り道。
文化会館を出ると、空にはまるい月が浮かんでいた。
ナギはその月を見上げながら、そっとつぶやいた。
「シロも、きっと聴いてたよね」
海の彼方に続く光の道が、ほんの少しだけ揺れて見えた。
アイデアを出して、AIが書きました。
自作連載小説、ストリートピアノと青い海のナギのコラボ作品です。
ストリートピアノでのタイトルは、子犬のワルツ 青い海ねナギversionとなっております。




