第7章「伝説の武器とギフト本」
勇者一行は街の教会を訪れ、神父から伝説の武器についての話を聞く。
しかし渡されたのは、まるでカタログギフトのような本だった。
拍子抜けしつつも、新たな目的が生まれる。
一方アストラル城では、魔王と側近たちがその様子を水晶で見ていた。
旅路を続けて三か月あまり。勇者一行は、王都から西へと進み、緑豊かな街へと足を踏み入れた。
石畳の道には露店が並び、焼きたてのパンや果物の甘い香りが漂ってくる。リオは鼻をひくひくさせて歩き、とうとう「ぐぅ~」と大きな音を鳴らした。
「……なぁリオ。今の音はなんだ?」
「俺のお腹だ!」胸を張って言うリオ。
「威張ることじゃねぇだろ!」タクミが額を押さえた。
「もう……ホントに食いしん坊ね」カレンも肩をすくめる。
そんな賑やかなやりとりをしつつ、ソウタが前方を指さした。
「見ろ。あそこに教会があるぞ。休むにはちょうどいいんじゃないか?」
「ほんとだ! 教会なら泊まれるかもしれないわね」カレンがうなずく。
「それに!」リオの目が輝いた。「教会っていったら伝説の話だろ!」
「……お前の頭の中は食べ物とおとぎ話しかないのか」タクミが呆れ声をあげる。
街の中央にそびえる教会は、古びてはいるが堂々とした佇まいで、ステンドグラスに夕陽が差し込み虹色に輝いていた。鐘の音が静かに響き、旅人を迎えるかのようだ。
重い扉を押し開けると、奥には白い法衣をまとった年配の神父がいた。祈りを終え、こちらにゆっくりと振り返る。
「おや……遠いところからよくぞいらっしゃいました。旅のお方かな?」
「はい! 俺たち、勇者一行です!」リオが勢いよく胸を張る。
「勇者一行……!」神父は驚き、次いで柔らかい笑みを浮かべた。
神父は少し考え込むと、奥の書棚へ向かい、分厚い本を抱えて戻ってきた。
「これは代々伝えられてきた“伝説の武器”の記録です。あなた方の旅に役立つやもしれません」
リオが目を輝かせる。
「おおー! 伝説の武器!」
「落ち着け。まだ中身を見てねぇだろ」タクミがリオの頭を押さえた。
神父が本を開くと、そこには華やかな挿絵と共に数多の武器の名が記されていた。
「……なにこれ」カレンが目を細める。
最初のページには“太陽の聖剣”。次には“炎の聖大剣”、さらに“光の聖書”“星の聖杖”。
しかしそれだけではない。聖なる弓矢、聖なる盾、さらには聞いたこともないような奇妙な武器まで――全部で数十種類。しかもそれぞれに細かい説明とイラスト付き。
「まるで……ギフト本みたいだな」ソウタがぼそりと呟く。
「ほんとね。なんだかレストランのメニューみたい」カレンも苦笑する。
「……ギフト本ってなに? レストランってなに?」リオがきょとんとした顔をした。
三人は揃ってずっこけそうになり、タクミが思わず声を張る。
「お、お前……知らないのか!?」
「知らない! 知りたい! ギフト本とレストラン!」リオは目を輝かせて叫んだ。
「ば、馬鹿! 恥ずかしいから大声で言うなって!」タクミが慌ててリオの口を押さえる。
「むぐぐっ! んーんー!」リオは必死に抗議。
「ったく……! 田舎育ちってレベルじゃねぇな」タクミは深いため息をつきながら、周囲を気にしてリオの口を離した。
タクミは観念したように、声を潜めてリオの耳元に囁いた。
「……いいか、ギフト本ってのはな。贈り物を選べるカタログのことだ。ページをめくるといろんな品が載ってて、好きなものを相手に送れるんだ」
「へぇぇー! すごいな! じゃあ、好きなもの何でも選べるのか!」リオの目がさらに輝く。
「だから声を抑えろって!」タクミが小声で怒鳴る。
「で、レストランってのは……料理を作って出してくれるお店だ。色んな料理をメニューから選べる」
「えぇぇ! そんな夢の国みたいな店があるのか!」リオは感動の声を上げかけて、タクミに再び口を塞がれた。
「声! 声ぇぇ!」
そのやりとりを横目に、ソウタは神父へ向き直った。
「……それで、この“光の聖書”や“星の聖杖”というのは、どうやって手に入れるのですか?」
「私も詳しくは存じ上げません。ただ伝承には、勇者の証を持つ者に選ばれる、と記されております」神父の声は厳かで、静かな礼拝堂に響いた。
「選ばれる……?」カレンが呟き、ページを食い入るように見つめた。
「つまり、無理に探しても見つからないということか」ソウタが冷静にまとめる。
「そ、そんな……! じゃあ俺の武器は!?」リオが慌てて本をめくる。
彼の視線はページを行ったり来たりして、やがて太陽の聖剣の絵に釘付けになった。
「これだ! 俺の武器、太陽の聖剣!」
「決めつけ早すぎだろ」タクミが容赦なくツッコミを入れる。
「だってカッコいいんだもん!」リオは全く悪びれない。
神父はふっと微笑み、本を差し出した。
「この書を差し上げます。どこに眠っているかは分かりませんが、旅の助けとなるかもしれません」
「ありがとう! 神父様!」リオが嬉しそうに受け取る。
「こんなに分厚い本をどうするんだよ……」タクミはげんなりしている。
「でも、楽しみね。どんな武器があるのか」カレンが静かに笑った。
―――
同じころ、アストラル城。
会議室の水晶玉がぼんやりと光を放ち、勇者一行の様子を映し出していた。
「伝説の武器……本当にあったとはな」ヴァルターが腕を組んで唸る。
「厄介ですね。勇者たちに渡れば、我らにとって大きな脅威となるでしょう」ユリアが険しい表情を浮かべる。
「違う! 問題はそこじゃない!」博士が急に立ち上がり、机を叩いた。
「な、なんだ博士」グレンが眉をひそめる。
「勇者たちが強くなると! 誕生日のサプライズ準備が間に合わなくなる!」
「そこかよ!」ユリアとグレンのツッコミが同時に飛んだ。
ヴァルターは深いため息を吐き、水晶を睨みつけた。
「魔王様……どうなさいますか」
その言葉に、水晶を覗き込んでいたゼファルドがにっこり笑った。
「いいなぁ。俺も欲しいなぁ、伝説の武器」
「……は?」側近全員が固まる。
「いやだって、カッコいいじゃん。太陽の聖剣とか。俺もシャキーンって構えてみたい」
「魔王様は武器などなくても十分お強いでしょう!」ユリアが慌てて声を上げる。
「いやいや、剣よりシャベルや桑のほうが似合うだろ」グレンが冷静に返す。
「確かに」ヴァルターまで頷いた。
「えぇー!? 俺、剣も似合うと思うけどな!」ゼファルドは笑いながら抗議するが、側近たちは一斉に頭を抱えた。
そんな呑気な魔王に、誰よりも安心している自分たちがいることを、側近たちは心のどこかで理解していた。
伝説の武器は本当に存在するのか、それとも幻なのか。
勇者一行は本を手にし、新たな目的を胸に旅を続ける。
一方、魔王ゼファルドは「欲しいなぁ」と笑うばかり。
勇者と魔王の温度差が、物語をますます彩っていくのだった。




