第4章「鍛錬と不安と、秘密の準備
勇者一行は街や村を巡りながら、人助けや魔物退治を通して力をつけていく。
だが、旅は順風満帆ではない。金銭や宿、食事に悩まされる日々。
一方その頃、アストラル城では魔王の誕生日準備が着々と進められていた。
勇者と魔王――互いにまだ出会わぬまま、それぞれの時間を過ごしていた。
村の広場に、勇者一行の姿があった。
「イノシシ退治、ご苦労様でした!」村長が深々と頭を下げる。
「いやぁ、大したことなかったよ!」リオが胸を張る。
「嘘をつけ、結構苦戦してただろ」タクミが肘で小突く。
「ヒールが間に合わなかったら危なかったな」ソウタが冷静に補足する。
「……ほんとよ。私の魔力もギリギリだったんだから」カレンがため息をついた。
それでも依頼をこなしたおかげで、勇者一行は村人たちから食事と宿を無料で提供された。さらに、わずかながら報酬も。
「宿代が浮いたのは助かるな」タクミが財布を覗き込みながら呟く。
「でもさぁ……もっと稼がないと」リオが布団に寝転がりながら言う。
「武器や防具の修理にも金がかかる。油断はできない」ソウタが真面目に答える。
「勇者の旅って、思ったより現実的ね……」カレンが枕を抱えてつぶやいた。
その夜、勇者一行は薄暗い宿で寝息を立てながら、明日の依頼に備えた。
―――
アストラル城、会議室。
「次の準備はどうなっている?」グレンが声を張る。
「大きなケーキは任せておきな!」オルガが胸を叩いた。
「わしはクラッカー砲を作ったぞ!」博士が得意げに筒を掲げる。
「ちょっと! それは誕生日を台無しにするやつでしょ!」ユリアが慌てて止める。
「爆発は華やかじゃろ!」
「だからバレるって言ってるの!」
ヴァルターは額に手を当て、ため息をついた。
「問題は……魔王様が戻ってきたときに、どう誤魔化すかだ」
「……また『昼食会議』って言えばいいんじゃない?」ユリアがぼそり。
「もうバレかけてるぞ、それ」グレンが冷たく返す。
その時、廊下から「おーい!」と呑気な声が響いた。
「ま、魔王様!?」一同が青ざめる。
扉を開けて入ってきたゼファルドは、泥のついたシャベルを担いでいた。
「畑で大根が立派に育ってたぞ! 今夜の料理に使ってくれ!」
「……はい」オルガは笑顔を作りつつ受け取った。
ゼファルドは嬉しそうに頷き、すぐに去っていった。
会議室には再び重苦しい空気が残る。
「……やっぱり隠しごとは無理なんじゃない?」ユリアがぼそり。
「いや、やり遂げるんだ!」ヴァルターが拳を握った。
―――
翌朝、勇者一行は再び街道を歩いていた。
「なぁ、俺たち本当に魔王に勝てるのか?」タクミが不安げに呟く。
「勝つしかないだろ」ソウタが短く返す。
「でも、今の私たちじゃ……」カレンの声が小さくなる。
リオは青空を見上げて笑った。
「大丈夫だって! 話せば分かるさ!」
「……リオ、楽観的すぎる」三人が同時に突っ込んだ。
その会話を――アストラル城の水晶が映していた。
「……魔王様が聞いていたら、喜びそうだな」ヴァルターがぽつりと呟いた。
「だが油断は禁物だ。奴らは確実にこちらに向かっている」グレンが真剣に言う。
「……でも、少し頼もしくなったわね」ユリアが目を細めた。
水晶の光が消えた後、会議室には再び誕生日準備の喧噪が戻った。
勇者一行は現実的な困難に直面しながらも、少しずつ成長を重ねていく。
アストラル城では、魔王ゼファルドの誕生日サプライズ計画が本格化するが、呑気な本人に気づかれそうで綱渡りの日々。
やがて、両者の道は確実に交わろうとしていた。